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教員と生徒それぞれの目に映った、ルールメイキング委員会立ち上げとは?【ルールメイキング経験者インタビュー】
2021年度に立ち上がった栃木県立足利清風高校のルールメイキング委員会。当時、90項目以上あった厳しい校則規定を2年間かけて見直し、髪型に関するルールなど複数の校則改定を実現しました。
今回お話を伺ったのは、足利清風高校の教員としてルールメイキング委員会を立ち上げた小瀧智美さん(以下、小瀧)と、生徒として立ち上げ時から委員会に参加していた針ヶ谷侑大さん(以下、針ヶ谷)。2人はどのようにしてルールメイキングを学校に定着させてきたのか、対談の中でお聞きしました。
小瀧智美(こたき・ともみ)
栃木県立小山北桜高等学校・教頭
前任校である栃木県立足利清風高校で、生徒指導部長(当時)として2021年度よりルールメイキングの取り組みをスタート。当時90項目以上あった厳しい校則規定を2年間かけて見直し、髪型に関するルールなど、複数の校則改定を実現した。生徒指導部長という立場として悩みながらも、生徒や教職員との対話を重ね、生徒の声に耳を傾けながらルールメイキングを進める様子は話題を呼び、NHKクローズアップ現代をはじめとして、テレビ・新聞などにも多く取り上げられた。
針ヶ谷侑大(はりがい・ゆうた)
文教大学教育学部・2年
2004年、栃木県出身。高校2年生の時にルールメイキング委員会の初期メンバーとして参加。3年時には委員長を務めた。校則改正の活動を通して対話の大切さを知り、高校卒業後も積極的に取り組んでいる。将来は教員になることを目指し対話の大切さを伝えていきたいと考えている。趣味はバスケットボールと野球観戦。
教員の不安と同級生からのプレッシャーに挟まれて
ー 今日はよろしくお願いします。お二人は、高校の教員と生徒としてルールメイキングに取り組んでこられました。
小瀧:針ヶ谷くん、久しぶりですね。昨年(2023年)12月に私が開催したイベント「栃木ルールメイキングカンファレンス2023」にサポーターとして参加してもらって以来かな。
針ケ谷:お久しぶりです!最近では足利清風のルールメイキングメンバーもどんどん新入生が入って、入れ替わってますよね。新しい1年生がうまく活動に乗っていけるか、見守っています(笑)
ーそうして今も繋がりが続いているのは、やはり現役時代の活動が密度が高かったからでしょうか。まずは当時、ルールメイキング委員会を立ち上げようと思った経緯を教えてください。
小瀧:針ヶ谷くんたちが入学した時、わたしは生徒指導部長でした。当時は「生徒指導部長だからこそ、生徒を自分の指導に従わせなくてはいけない、舐められちゃいけない」という思いがあり、高圧的な指導をしてしまったのではないかという反省があります。
そんな中、生徒や保護者との関係性に課題が生まれていました。保護者・生徒・教員が年に一度答える学校評価アンケートでも、ネガティブな回答が多く寄せられていました。「いつまでこんな校則を続けているんだ」「こんな『昭和』な学校はありえない」といった回答が毎年出ていて。
「自分たちの指導によって生徒や保護者との間に壁が生まれている状況を、なんとかしないといけない」と考えたのが、ルールメイキング委員会の始まりでした。それで、興味のありそうな生徒を誘って、最初は20人くらいでスタートしましたね。
針ケ谷:僕は、もともとクラスの仲間と「今の校則、変えられるなら変えたいよな」と話をしていて。小瀧先生の話を聞いて、「委員会に入ったら校則変えられるのかな」という軽い考えで入りました。実際には、活動も手探りだし、考えなきゃいけないことも本当に多くて、本格的に活動が始まる頃には20人が8人くらいに減っていましたよね。
ー立ち上げ初期の難しさについて、お二人それぞれの立場からどのように感じていましたか?
小瀧:最初はほかの教員たちと、校則を見直していくことついてなかなか合意できなかったことが大変でした。ある教員に「結局一部の人間(ルールメイキング委員会)だけでやってない?」と言われたことがあるのですが、それが結構グサっときて。その時は「そんなつもりない」と感じたのですが、今思えば、あの言葉が活動のやり方を変えようと思ったきっかけになりましたね。
針ヶ谷:校則を変えることに反対派の先生たちに納得してもらうために、先生たちにどんな不安や懸念があるのかを聞いて回ることにしました。でも、「自分たち(ルールメイキング委員会)が変えたいだけじゃん」「ちょっといま忙しいから」と話を聞いてくれない先生もいて。一日に何度も聞きに行ったんですが、答えてもらえない日が数日続く時もありました。
小瀧:生徒手帳には校則を変える手順は書かれていないし、前例がないため1年目は誰も手順がわからなかった。多分、反対していた教員たちも「校則を変えるってどうしたらいいんだ?」と不安だったんだろうね。
針ヶ谷:生徒側からすると、活動によって自分たちが孤立しているように感じて辛かったです。校則を変えたくない派の先生たちにとって、委員長を務めていた自分は目の敵なのかな?と思うと先生たちとすれ違うのが怖かったし、周りの生徒からは「早く校則を変えてくれ」っていうプレッシャーもありました。
小瀧:それに、髪型の規定を緩めることで就職活動で不利になるのではないか?という、生徒への心配も本音としてあったはず。
針ヶ谷:でも、実際に企業にインタビューをして、「こんな髪型はどう思うか」「眉毛を整えるのは駄目なことか」と聞いたところ、「問題ないし、むしろ清潔感もあって良い」という回答をもらって。「あ、校則を変えても不利にはならないんだ」と思えたし、それを先生にも伝えられました。
小瀧:教員たちも、それを聞けて安心したところは大きいと思う。大人を安心させようというのは一つのテーマだったよね。
針ヶ谷:活動が2年目に入った頃から、先生も生徒も「活動進んでる?」「話聞くよ」と活動について聞いてくれるようになりましたね。校則が変わる途中の段階でも、自分たちが頑張っていることを知ってもらうだけで、めちゃくちゃ気持ちが楽になったのを覚えています。
見えないところで先生が先生を繋げてくれていた
ー 活動の熱意を伝えながら理解を得ていったんですね。特に意識していたことはありますか?
小瀧:活動にあまり前向きではない教員には、あえて積極的に喋りに行くようにしていました。教員の中には「学校をかき回すな」と考える方もいたので、何を言われるかわからない怖さもありましたが、「(学校全体で動いていくためには)やるしかない」と思って。「今度生徒たちがインタビューしたいと言ってるから、忙しいところ申し訳ないけどよろしくお願いします」とお願いして回りました。
針ヶ谷:見えないところで、小瀧先生が先生同士を繋げてくれたのが本当に大きかったです。生徒側だけだったら半年くらいで潰れてましたもん。
小瀧:わたし自身も、カタリバのスタッフさんがいなかったらしんどくて潰れてたと思います。学校の外の人がいると「こういう考え方もあるよね」と、それまで見えていなかった気づきをもらえるんですよね。
針ヶ谷:たしかに、第三者の立場の人がいなかったら、自分は委員会内の先生とも話せてなかったと思います。正直言って、小瀧先生も最初怖かったですよ(笑)。でも、外部の方も交えて進めていけたので、対話と理解ができたんです。小瀧先生の考えや熱意も知ることができたからこそ、今でも尊敬できる恩師になりました。
小瀧:そういえば、途中で辞めるって言い出したもんね。部活もやってたから、ぶっちゃけ忙しいし、しんどいって。
針ヶ谷:あの時は部活と委員会の両立ができていないと思ったんです。一緒に入った部活仲間は先に委員会を辞めてしまいましたし、僕も委員会で先生たちに怒られて、部活でも顧問に怒られて。「どちらかだけにしないと、自分がもたないな」と感じていました。そこでまずは小瀧先生に相談したんです。
小瀧:何回かわたしのところに来てくれたよね。部活の顧問は厳しかったし、委員会でも教員にインタビューを断られたり色々と責められたりしていて、「本当に辛いんだろうな」とは思っていたんです。だけど、ここで諦めたら逃げる人生になっちゃうんじゃないかと思ったし、なにより一緒にやって欲しい気持ちが大きかったので、活動を続けようよと伝え続けました。
針ヶ谷:その頃、自分が最初の立ち上げメンバーとしては一番古株になっていました。自分が辞めたら委員会も終わってしまうかなと感じていたし、委員会メンバーは好きだし、委員会活動も楽しかったから、悩みました。
それに、このまま委員会を辞めても、自分は「校則を変えたい」と言い続けるだろうと思ったんです。でも実は、もともと委員会で活動していない他の生徒から「頑張って校則を変えてよ」と言われるのがあまり好きではなかったんです。変えたいなら、自分で動かないといけない。だから、自分に校則を変えたい気持ちがあるからには、活動を頑張ってみようかなと決めました。当時は部活でも部長をやっていたのですが、副部長に役職を下げてもらうなど、両立方法を探りながら進めていきました。
先生たちも含めて、最初はみんなが対話をできていなかった
ー ルールメイキング委員会を続ける中で、自分や周囲にはどんな変化がありましたか?
針ヶ谷:活動を始めたばかりの頃の自分は、自分の意見を言うばかりだったんですよ。校則見直しに対話が大事だという意識が無く、意見を出せば通るだろうと思っていました。でも、周囲から反対意見ももらう過程で、相手の意見をしっかり聞き、理解し合う必要があるのだと分かるようになった。対話を意識するようになってからは、委員会内のメンバーの仲も深まっていきましたね。
小瀧:教員であるわたしも含めて、みんなが対話をできるようになりました。一方的に伝えるだけじゃなくて、相手の意見も受け入れる力が身についたと思います。あれだけ教員たちに反対された翌日に「もう一回意見を聞きに行こう」なんて、普通ならなくないですか?(笑)
針ヶ谷:もちろん嫌でしたよ(笑)。
小瀧:そうだよね。よく行ったよね。活動を始めて1年くらい経った頃、生徒たちが頑張って動いたおかげで、学校全体に話し合う雰囲気が生まれたように思います。教員同士の話し合いでも、以前だったら言い争いになっていたものが、建設的な話し合いに変わっていった印象があるんです。公の場では委員会の生徒たちに厳しいことを言った教員も、個別に話を聞いていくと「実は応援してるんだよ」と言ってくれた。活動を頑張り続けたことで、教員たちにも変化が出てきていたと思います。
ー お二人の歩みがとても伝わってきました。最後に、現在ルールメイキングを頑張っている高校生や教員へのメッセージをお願いします。
針ヶ谷:是非、応援してくれる味方をつくって、大切にしてほしいです。1人でも反対されるとみんなが敵に見えちゃうんですけど、理解してくれている人も絶対にいるはず。対話の回数を重ねれば、周囲の大人の考え方も変わっていくはずです。
小瀧:教員の態度が変わっていけば、生徒たちも意見を言いやすくなっていくと思います。「大人はどうせ聞いてくれないだろう」と感じさせてしまうと、生徒は話せなくなってしまうけど、教員と生徒が「この場はみんなでフラットに話し合おう」という約束をして対話する関係になっていけば、「自分の意見をちゃんと聞いてくれるんだ」と思えるようになるはず。そのためには、大人側のマインドとして「まずは生徒たちを信じましょう、やってみましょう。うまくいかなかったら、別の手を考えれば良い」という信頼を作っていく必要もあります。まずは聞く姿勢が大事。なかなかそこが難しいんですけどね。
針ヶ谷:学校で、ルールメイキングほど学校の先生たちと話せる機会ってないと思うんです。対話の中で普段は言えないような意見も伝えられることがあるし、やらないのはもったいないです。少しでもルールメイキングに興味を持っている人は、やったほうがいい!アンケートや対話会など、活動の中心メンバーにならなくても意見を言える場所はあるはずなので、少しずつ関わる人が増えていくだけでも、前線で頑張る側としてはすごくありがたいです。
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