「生徒が主語の学校づくり」を目指し、校長自身がチャレンジし続ける

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対話を通じて、児童生徒が中心となり学校の校則やルールづくりに取り組む「みんなのルールメイキング」。現在は500校以上の学校がカタリバとともに活動しています。全国では、さらに多くの学校でルールメイキングが実践され、校則見直しにとどまらない様々な場面で児童生徒が主体となった学校づくりに発展している学校もあります。
連載「児童・生徒主体の学校づくりから見えるもの」では、こうした実践の教育的意義をはじめ、教員や生徒の変化・成長を紹介していきます。また、児童生徒が参画する学校づくりの先にどんな景色があるのかを取り上げていきます。

140年以上の歴史を持つ三重県立津高等学校は、長年私服登校が認められており、校則もほとんどない学校です。体育祭、文化祭などの学校行事は全て生徒たちが中心となって企画、運営するという文化が根付いています。生徒が主語である学校づくりを大切にし、「私自身がチャレンジし続けたい」と話す校長の上村和弘さん(以下、上村)に詳しくお話を伺いました。

上村 和弘

三重県立津高等学校 校長

上村 和弘

三重県立石薬師高等学校や松阪高等学校、津高等学校に教諭として勤務。三重県教育委員会事務局を経て2024年度より津高等学校に学校長として着任。「生徒が主語である学校づくり」を大切にしている。

ーー貴校は進学校でありながらも、私服登校が長年認められてきた学校ですね

上村:校則は基本的にはなくて、昔から生徒の自主性を大切にする学校でした。

私もここが母校です。「自主自律」の文化が根付いているため、こちらから生徒に対して何か「指導する」という考え方は基本的にはありません。

2024年度に私が校長として本校に着任した際に、「学校を小さな社会だと捉えて、学校をより良くしていくという経験を積んでほしい。リーダーシップもフォロワーシップも体験することを大切にしてほしい」という話をしました。もともと生徒会の活動が盛んです。生徒会執行部に入りたいという生徒が例年は30人くらいなのですが、70人ぐらいに増えました。

ーー上村さんご自身も「生徒が主語の学校づくり」という言葉を大切にされていますね。 

上村:はい、基本的に体育祭や文化祭、球技大会などの学校行事は生徒たちだけで行っています。良い意味で、教職員が「生徒を大人扱いする」という文化が本校には根付いています。

一方で、最近は少し懸念点もあります。新型コロナウイルス流行期に生徒が自宅で過ごすことが多くなったことから、私服登校を逆手にとって学校指定の体操ジャージで登校する生徒が増えてきました。TPOをわきまえるという観点や、運動して汗をかいてもそのまま乾くまで着るということが衛生的にも良くないのではないか生徒たちに問題提起をしました。生徒を「思考停止」の状態にはしたくない。自分たちで考えて判断してもらうきっかけにしたいと思っています。

私自身、本校の教諭であった時は、担任や生徒会顧問という立場で、多少の失敗があっても口出しせずに、生徒たちが自分の意志で活動するということを尊重してきました。現在でも「生徒に託す」ということが基本的なスタンスです。 久しぶりに卒業生と会うと、大きく成長したことが感じ取れます。やはり高校時代に生徒たちが自由に過ごす中で、必然的に対話が増えることが土台になっていると思っています。 

ーー生徒からはどんなアイデアが出てくるのでしょうか。 

上村:着任してすぐ生徒会から相談を受けたことの1つとして、本校の中庭にある池の噴水が壊れており20年以上水が出ずため池状態になっていたものを、もう一度水が出るように修理したいという話がありました。

そこからまずは、生徒会執行部の生徒たち自らその池を掃除した後に、見積りをとると、修理には約120万円かかるとのことでした。ちょうど1カ月後に800人ほどが集まる本校の同窓会があったので、10数人の生徒会の生徒たちがその場で、OBに対して噴水を直すための募金活動を呼びかけたところ、1年間で80万円ほどが集まりました。そのお金を基に、2025年4月に修理を行い無事に噴水は復活しました。今年の10月には、この場所で現役生と同窓生が一緒に集い祝うイベント(ホームカミングデー)を実施し、感謝の気持ちを伝えようと計画しています。

噴水がある池の清掃をする三重県立津高等学校の生徒たち
噴水を直すために募金活動を行う津高校の生徒たち

生徒たち自身が学校をより良くしたいと思い行動に移したことが実現したという成功体験は、とても重要だと思っていますし、そのことが社会参画力の育成につながってほしいと思っています。

修理した中庭に集う津高校の生徒たち

ーー上村さんのなかで大切にされている指導観はありますか。 

上村:クラス、学年、部活、友達同士のつながりの中で、生徒たち一人一人が「少しでもまったりと心地よく学校で過ごしたい」と思える状態にしたいです。そのために、生徒の時間を大切にするということを意識していますね。昼休みや放課後など、生徒が自由に活動できる時間を確保することが大切だと思っています。ただ以前と比較して、行事なども含めて年間の予定が過密になっていました。もう少し生徒たちをのんびり過ごさせたいと思い、2025年度からは10月初旬に短い「秋休み」を導入しようと考えています。例えば1日は、教員は学校にいないけど、生徒だけは学校に来る日にする。「それをどう君たちが過ごすか?自分たちで考えて」と生徒に投げかけたところ、とてもおもしろがって計画を練っています。

ーーおもしろい取り組みですね。

 上村:本校は県下でも伝統的な進学校ですので、65分授業でしっかりと学ぶ時間をとっています。併せて文武両道も1つの特色ですので、もっと生徒たちが主体的に活動する時間を作りたいと考えています。 大学に進学することが目的ではなくて、大学に入ってから自分たちで主体的に学び続ける力をつけることが最上位目標なんです。だからこそ、自由な時間の中で、自分に必要な学習や活動をする。こちらがいろんなメニューを提示し、それを選び取るのは生徒。そういったことが可能になるような学校の枠組み全体をデザインしたいと考えています。 

ーーお話を伺っていると、上村さんご自身の中に、学校を楽しく過ごすための「アイデア」の引き出しがたくさんありますね。 

上村:私は教育委員会事務局に10年間在籍し、いろんな学校を視察し、学校の活性化の手伝いをさせていただきました。その中で、自分自身が校長になったら「こんなことをやってみたい」という思いが、たくさん溜まっていたんです。基本的に、学校は前例踏襲であることが多く、教員にも生徒にも現状維持を求める気持ちがある。でもそれでは、例えるなら劣化コピーですよね。

私たちは生徒に対して、「これからの時代は、1つの会社にずっと勤務すれば安泰とではない。変化に対応するために、どんどんチャレンジしてほしい」と言っています。ですから、学校長である私自身が常にチャレンジしている状態でいたいと思っています。

もう1つ、生徒には「学校の外に出て本物の体験をしよう」と伝えています。本校では全学年が探究学習に取り組んでいますが、学校やインターネットの中だけで終わってしまう生徒もいます。三重県は、自動車産業や半導体産業等が盛んな地域です。有名な観光地も数多くありますし、南部は農林水産業が盛んでそれぞれの地域に特色があります。つまり、三重県全体が日本の箱庭のような感じで、本校はその中心に位置するため、少し行動範囲を広げることで様々な体験ができます。

だからこそ生徒が自由にのびのびと、探究学習などを校外で行えるようにしていきたい。学校だけではなく地元の企業や官公庁とも連携して持続可能な仕組みづくりをしたいです。

ーー教員はどのように生徒に関わっていらっしゃいますか。 

上村:私たち教員ができることは環境整備だと思っています。教員が「コーディネート機能」を持つことが大切ではないでしょうか。ただ、例えば探究学習では、教員側も自分たちが探究学習を通して学ぶ経験をしていないため、十分に自信を持てていないように感じます。 

探究学習の中で生徒も教員も一緒に会社や地域に赴き、ともに学ぶ。その中で、自分の得意分野において生徒に伴走するという形が良いのではないかと思っています。教員が「教えなければ」と身構えるのではなく、生徒を支える立場に立ってほしいと思います。

ーーどんな学校づくりや、生徒の成長を目指していますか。

上村:授業も部活も、やはり楽しくあるべきだと思っています。教員が生徒を子ども扱いしてしまうことが、生徒たちの活動の幅を狭めるとともに、教員自身の多忙化の原因にもなっている側面があるのではないかと思います。

今、生徒たちはYouTubeなどを使って、私たちが学生だった頃よりも、知識・技術をはじめとした様々なノウハウを自分たちで学べる環境にあります。高い当事者意識が伴えば、それらを「自分たちが主語の学校づくり」に活用できると思います。

生徒自身も、学校での授業、塾での勉強など背負わされるものがたくさんあって、プレッシャーも感じている。でもきちんと取捨選択して、自分で自分をデザインできるようになってほしいです。「全部やる」ではなく、「これはいらないかもしれない」と選ぶ。自分で決めたことを決めた時期にやって、失敗したとしてもそれなら納得できますよね。自律とは自己決定を積み重ねていくことです。「他人(ひと)に言われたから」と言って、「他人(ひと)の人生を生きる」のではなく、自分の責任で行動する。そして、納得しながら進めることのできる人になってほしいですね。

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