「管理から自己決定へ」と教育大綱に定めるつくば市の思いとは ~モデル校教員インタビュー①~

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 学校単位ではなく、自治体単位で地域内の教育改革を行うことは簡単ではありません。そんな中、活動規模の大きさや現場の熱量の高さが際立つのが、茨城県つくば市です。市教育大綱に「管理から自己決定へ」と明記し、2022年から市内のすべての小中学校、義務教育学校でルールメイキングを推進。2022年は「GIGA端末のルールづくり」を、2023年度は「幸せな学校づくり」をテーマに、対話を通じて「一人​ひとりが幸せを実感できる学校づくり」の実現を目指しました。

 そんなつくば市で、2024年度にさらに深化を続けてきたルールメイキングの現在地を探るべく、教育長と現場の教員にそれぞれインタビューを実施。今回は、ルールメイキングモデル校に選ばれている小学校3校の教員による対談の様子をお届けします。

 教育長へのインタビュー記事はこちら

ーーお集まりいただいた3校は2022年、2023年の活動を経て、2024年度はモデル校として市内でも特に先進的にルールメイキングに取り組まれています。まずは、2024年度の活動内容について教えてください。

関:吾妻小学校では、子どもたちが学校で実現したいアイデアや意見を投函できる「ルールメイキングBOX」を設置しました。届いた意見をクラス代表の児童たちで議論した結果、実際にシャープペンシルの使用が認められたり、全学年で謎解きに挑む「全校遊び」が実現したりしました。その様子を認定NPO法人カタリバ主催の「ルールメイキング関東児童生徒大会&交流会2024」で発表できたのも、子どもたちの自信となりました。

吾妻小学校提供
「ルールメイキング関東児童生徒大会&交流会2024」で発表する吾妻小の児童たち

根本:二の宮小学校のテーマは「幸せな学校とは?」で、まずはどんな子でも意見を言いやすい話し合いの場をつくるために、児童も教員も哲学対話形式のワークショップに挑戦しました。ほかにも学年ごとに、相手を褒める言葉のリストを作ったり、ネガティブな言葉をポジティブな言葉に言い換えるワークをしたりしました。

二の宮小学校提供

森田:松代小学校では、楽しいことを題材に「やりたいことを実現する」ことを重視しました。全校で行った「松代小まつり」では有志の実行委員を立てて、企画の内容を考えたり、スタンプラリーやポスターを制作したりと様々な活動を行いました。こうした活動を経て、「良い話し合い」や「幸せな学校」について話し合い、アイデアをまとめていきました。子どもたちの話し合いでは、カタリバの職員の姿を見ながら「こういうふうにファシリテートしていけばいいのか」と私自身とても勉強になりました。

松代小学校提供

ーーありがとうございます。それぞれ2年間の活動を経て、2024年度のモデル校に手を挙げた理由を教えてください。

根本:2022年は児童に配布されるタブレット端末についてのルールメイキング、2023年は持ち物に関するルールメイキングを実施しましたが、正直不安を抱きながら進めてきた部分がありました。モデル校になれば学校同士でつながりやすく、それぞれどんなことをしているのかを情報交換しやすいと考えたのが大きな理由ですね。学校だけではなかなか繋がりにくい相手でも、カタリバに入ってもらうと「こういう取り組みならこの学校が得意だから、話を聞いてみるといいんじゃないか」と繋いでもらえるので。二の宮小学校らしい「相手がどう考えているか」を知るプロセス自体を重視するルールメイキングを、他の学校さんに共有していけたらいいなという思いもありました。

関:吾妻小も当初は、教職員側もどう進めたらいいか分からず、ルールという言葉に縛られて「(ルールメイキングは)学校内の規則を扱うものだ」と考えていました。でも、それこそ二の宮小学校の事例を聞いたり、カタリバの研修を受けたりするうちに、「対話をしながら色々な考えを受け入れる日常の営みは全てルールメイキングなんだ」と思えるようになったんです。そうして2年間一緒に取り組んできた6年生の子が、卒業の時に手作りのバトンを手渡しながら「活動を引き継いで、幸せな学校づくりに励んでください」と伝えてくれたこともあり、しっかり続けていきたいなと決意しました。モデル校「三校合同委員会サミット」も子どもたちは、楽しみにしています。

森田:私は2022年度に赴任したのですが、「タブレットのルールを決めてください」という指示に従って子どもたちにやらせるのは主体的じゃないなと違和感があったんです。それでも迷いながら続けていると、2023年度に市からモデル校の依頼を受けて、カタリバのアドバイスを受けながら、活動のテーマや軸を子どもたち主体で決めていくことにしたんです。そうすると、子どもたちが「自分たちで意見を言って行動したら、実現できるんだ」と感じてくれたようで、すごくいい経験になったなと手応えがありました。もっともっと子どもたちのやりたいことを実現させたいと思い、今年度もモデル校をやろうと手を挙げました。もともと子どもたちとの対話とか、型にはまらない活動をするのが好きな教員が多くて、クラスごとに色々な取り組みを自由にやっていたので、相性は良かったと思いますね。

松代小学校 教諭森田みなみさん

ーー活動を続ける中で、ルールメイキングは目新しいものではなく、それぞれの学校がもともと持っていた文化や取り組みの延長にあるものだと認識が変わっていったのですね。

森田:今までは私たち教員が決めてきたことを、子どもたちに委ねていく感覚ですね。安全面など大人がしっかり気を配る点ももちろんありますが、少しずつ委ねる幅を広げていくことで、日常の全てがルールメイキングに繋がっていくのかなと思っています。

関:実際、子どもたちが決めたほうがアイデアが豊かなので、自然な流れではありますよね。子どもたちから出てくる発想に、「なるほどなあ」とか「ああ、じゃあそれでやってみようか」と思うことが多いです。

根本:子どもたちの方が大人よりもずっと柔軟ですよ。最初は子どもに任せることに不安があっても、大人も一緒に考えるというスタンスで進めていきたいですね。子どもたちには「こうしたらみんなが楽しい」「こうした方が安全」という意識がもともとあると思っていて、つい大人が心配しすぎてルールに当てはめようとするから、(ルールから)飛び出したくなってしまうのではないでしょうか

森田:私も「松代小まつり」の実行委員を子どもたちに任せていますが、大人が大変なのは活動のスケジュール管理ですね(笑)。でも、高学年になると子どもの方から「今日話し合いだよ」と呼びに来てくれるので、頼りにしています。メンバーによってはちょっと進捗が心配なグループが生まれることもありますが、それでも全員が成功体験を得てほしいので、声掛けや場の進行の仕方に気を付けながらサポートしています。

関:高学年の子たちは、「自分が1年生のときはここに困ったから、こうしてあげた方が良いよね」と自分で話し合って、イベントや企画がどんどん出来上がっていくんです。低学年の子の前だと高学年の子が急に大人になって、「そんなに優しくサポートできるんだ!」と驚くことが多いです。結局、子どもの力を信じるしかないですよね。

(左から)関さん・根本さん・森田さん

現場で感じる学校の変化や、3人それぞれが持つ教育への想いを語っていただいた後編記事はこちら。


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