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「管理から自己決定へ」と教育大綱に定めるつくば市の思いとはー ~モデル校教員インタビュー②~

学校単位ではなく、自治体単位で地域内の教育改革を行うことは簡単ではありません。そんな中、活動規模の大きさや現場の熱量の高さが際立つのが、茨城県つくば市です。市教育大綱に「管理から自己決定へ」と明記し、2022年から市内のすべての小中学校、義務教育学校でルールメイキングを推進。2022年は「GIGA端末のルールづくり」を、2023年度は「幸せな学校づくり」をテーマに、対話を通じて「一人ひとりが幸せを実感できる学校づくり」の実現を目指しました。
そんなつくば市で、2024年度にさらに深化を続けてきたルールメイキングの現在地を探るべく、教育長と現場の教員にそれぞれインタビューを実施。前回に続き、ルールメイキングモデル校に選ばれている小学校3校の教員による対談の様子をお届けします。
教育長へのインタビュー記事はこちら。
前編の記事はこちら。



ーールールメイキングを通して、各学校でどんなところに変化を感じますか?
根本:教員の中で、子どもたちの声や考えを聞くという姿勢が、どんな場面でも当たり前になりましたね。例えば遠足に行くときも、以前は教員が決まりを考えて「しおり」を作っていましたが、今は実行委員の子どもたちが意見を集めて、ルールも持ち物もアイデアをまとめ、教員に提案してもらっています。教員同士でも「ルールメイキングってなんだ?」と対話を続けてきて、森田先生が仰っていたように、タブレットのルールを決めるだけではなくていろんな物事を対話で決めていくこと全てがルールメイキングなんだ、という結論にたどり着きました。
関:やはり同様に吾妻小学校でも修学旅行の実行委員がいて、お小遣いの額を自分たちで決めはじめています。私たちが勝手に決めたら「なんで」と反発があるかもしれませんが、子どもたち同士で決めたことは守ろうと思えるんですよね。
根本:仮に最終的な結論は同じでも、「これに決まりました」と大人から一方的に言われるよりも、自分たちで選んだ結論のほうが、「うれしい」とか「頑張ろう」という気持ちが生まれるんだなと感じます。
森田:吾妻小学校では、実際にお小遣いの金額は変わったんですか?
関:児童たちが色々と調べて、「鉄道料金やお土産の値段が去年よりもこれくらい上がっているから、お小遣いは2000円上げるのが良いんじゃないか」と言ってきていて(笑)。確かにそうだなと納得させられています。本校は外国籍の児童が700人中100人くらいいるなど多様な子どもが通う学校です。だからこそ、どんな時も対話を重ねることで、子どもたち同士で、自分と違う立場や状況の子がどう感じているかを自然と思いやる力が育っていると感じますね。
根本:子どもが自分たちで納得しながら決めたことなら、保護者の方にも理解を求めやすいですよね。
森田:なるほど。お互いの思いやりといえば、うちでは、去年の運動会での5、6年生のソーラン節が印象的でした。やっぱり中には、踊ることが苦手な子どももいるんですが、実行委員が主導して、実際に踊るチームと、装飾などを作るチームを選べるようにしたんです。結果、すごくモチベーションも高く、本番はとてもかっこよかったです。
ーー教育大綱の「管理から自己決定へ」という文言が、つくば市のルールメイキングの根幹になっています。現場でも意識することはありますか?
根本:かなり意識していますね。
森田:時代的に、必要な考え方ですよね。子どもにとって選択肢がとても多い現代ですから、色んな可能性の中から自分で自分の道を決められないと、これからは生きていくのが大変だと思うんです。だから私はいつでも、子どもたちに「じゃあどうしたいの?」って聞くようにしています。たとえば「頭が痛いです」と言われたら、「保健室にも行けるし、早退することもできるし、このまま様子を見ることもできるけど、どうしたい?」と聞いて、自分で希望を言ってもらうことを意識しています。
関:うちは多国籍だからこそ様々な文化が共存していて、決まり事はもともとあまり無いんです。体操服も指定は無いのですが、生活をしているうちに子どもたち自身が「フードが付いていると引っかかって危ないな」と気づいて、お互いに気をつけ合うようになりました。
根本:もう、自分たちが考えて決めることに慣れていて、「管理される側」とは思っていないんですね。とても大切な変化だと思います。
ーー皆さん自身が、子どもたちの主体性が重要であると考えるようになった理由はなんでしょう。
根本:私は、そもそも「教育は、これからの日本を作ることだ」と考えて教員になったんです。だから子どもたちが、自分で日本や世界を変えていけると感じて成長してほしいですし、考える力や自分で決める力を育むことは大切だと感じてきました。
関:率先して取り組むようになったのは、「自分たちも楽しめるから」ですね。子どものアイデアに沿って物事を進めてみると自分にとってもすごく勉強になります。それに、活動の振り返りなど、ワークシートを使ってみると、子どもたちが想いをびっしり書いてくれるんです。どんなことができるようになったとか、今後どんな学校にしたいとか、ここはやりきれなかったから次の学年に引き継いでほしいとか。それだけ一生懸命やってくれているんだなという姿を見ると、本人にとってもやってよかったんだなと思えます。
森田:二人とは違う観点で言うと、例えば発達に特性のある子も含めて、みんなが一緒に過ごせる学校や社会であるべきだから、誰もが「自分の意見を言っていいんだ」とか「みんなの意見を聞こう」と考える機会を増やしたいという思いがあります。どんな子どもでも、同じ空間を共有する仲間として一緒に生活できるように、常に意識しています。毎日汗だくですが(笑)。
関:発達特性のある子の場合も、外国籍の子どもの場合も、お互いを思いやって、想像しあうというところは近いですね。
ーー全国ではまだ、小学校でのルールメイキング事例は多くありません。小学生の間にルールメイキングに親しむことの価値を改めて教えてください。
森田:何かに主体的に取り組むって楽しいんだ、自分たちで話し合ったことが実現するんだ、という原体験になれることですね。もちろん、6年間ですごく変化する年齢だから、低学年の子にとってはルールの前提を理解して善悪を判断するのは正直難しい場面もありますし、「ルールを守る」という教育も大切です。でも、自分の環境について自分の意見を言うという習慣がないと、中学生・高校生になってからも「疑問を持つ」ということが難しくなってしまうと思います。
根本:私も、小学校の6年間は「当たり前」をつくれる貴重な期間だと思います。せっかくルールメイキングに取り組むんだから、学校を卒業して終わってほしくない。対話して、自分たちで決めていくことが当たり前になってくれたらと思っています。
関:小学校には落ち着きがないように見える子どもも、おとなしいと感じる子どももいます。色んな子どもがいますが、子どもたち同士で注意し合ったり配慮し合ったりするようになってからは、様子に変化を感じます。子どもが自分で話し合いを仕切って、どんな子にもしっかり話を振って意見を聞く習慣をつけることは、生活にも学習にもつながる学びになると思うんですね。ルールメイキング的な習慣のおかげで、「違いがあっても仲間外れにするのではなく、互いにしっかり関わろうとしてくれているんだ」と子どもの様子を感じることができます。
ーー学問だけでなく生活力を身につける場所でもある小学校だからこそ、互いの違いを想像して、皆が過ごしやすい環境を作るルールメイキングの重要性が発揮されているんですね。本日はありがとうございました。
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