学校の改革・魅力化のために、掲げた経営方針は「生徒がつくる学校」

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対話を通じて、児童生徒が中心となり学校の校則やルールづくりに取り組む「みんなのルールメイキング」。現在は500校以上の学校がカタリバとともに活動しています。全国では、さらに多くの学校でルールメイキングが実践され、校則見直しにとどまらない様々な場面で児童生徒が主体となった学校づくりに発展している学校もあります。
連載「児童・生徒主体の学校づくりから見えるもの」では、こうした実践の教育的意義をはじめ、教員や生徒の変化・成長を紹介していきます。また、児童生徒が参画する学校づくりの先にどんな景色があるのかを取り上げていきます。

昼間の定時制学校で農業科を設置している北海道ニセコ高等学校。数年前まで入学希望者が少なく、わずか9名の生徒しか入学してこなかった年もあったほどです。そんな学校の危機を乗り越えるため、2026年度から全日制の「進学型単位制総合学科」を設置した新しい学校に生まれ変わります。生徒を全国だけでなく海外からも募集し、学校の魅力化のために掲げた学校経営の基本方針の一つは「生徒がつくる学校」。改革の最前線にいる学校長の本谷一さん(以下、本谷)に、話を伺いました。

本谷 一

北海道ニセコ高等学校 校長

本谷 一

北海道立高校3校、北海道教育委員会の指導主事などを経て、2009年に京都市の教員に転職。その後北海道に戻り、2023年度から北海道ニセコ高等学校の校長を務める。学校経営の基本方針の一つに、「生徒がつくる学校」を掲げ、魅力的な学校づくりに取り組んでいる。

ーー貴校は2026年度より新しい学校になりますね。
本谷:はい。現在のニセコ高校は、昼間の定時制で緑地観光科という農業の学科があります。2026年度から全日制で進学型単位制総合学科を設置した学校になります。進学型単位制とは、自分の進路に対応できる科目を自分で選ぶことができる仕組みのことです。

定時制の農業科は、大学進学を中心に考える生徒たちが入学するための選択肢になりにくく、数年前までは地元の中学校から来る生徒がなかなかいませんでした。そのため、入学者が極端に低迷した時期もありまして、直近で最も少なかった2020年度は入学者9名でした。

学校の設置者であるニセコ町教育員会では、これを学校存続の危機と捉え、全国から生徒を募集するようになりました。さらにニセコ高校の魅力化を図るために、2022年に「ニセコ高等学校魅力化検討委員会」を立ち上げ、大学進学に対応するとともに地域の特色を活かした教育を行う「総合学科」へ学科転換する方針を決めました。

その方針を実現するために、2023年4月に私が校長として着任しました。魅力ある学校とは何かを具体的に検討する中で、定時制のニセコ高校の学科転換を行うのではなく、全日制の募集人員70名の総合学科校を新設することが望ましいと考えました。もともとうちの募集人員は40人ですので、この少子化の時代に生徒数を増やすという大胆な取組です。そのためには、「この学校を希望して入学する」という生徒を増やしていかなければいけないと考え、生徒自らが学校生活を向上させていくための風土をつくることを大切だと考えました。そこで2024年度に入学した今の1年生に、一緒にどういった学校にするかを考えていくことを提案したんですね。

新しい学校のルールを、今のニセコ高校の生徒たちが考え、自分たちの高校がどのように進化することがよいのかを考えることで「生徒が学校を作る」という意識を大切にしていきたいと思っています。もちろん、最終的に校則を決定するのは校長ですが、その中で、生徒たちの意見を受け止めて考えていきます。新しい学校の生徒と今のニセコ高校の生徒が同じ校舎で過ごすことになるので、学校の違いを越えて生徒全員が共有できるルールをつくることが望ましいと考えたのです。

北海道ニセコ高等学校の生徒会執行部が企画した人権学習

ーー具体的にはどういったことに取り組まれていますか。
本谷:例えば、2月中旬には生徒たちが私服登校できる試行期間を設けました。新しく開校する学校が、制服なのか私服なのか、あるいはその中間なのか、まだ決まっていません。今の生徒たちが、ルールについて自分ごととして考えてみるためには、やってみることで良い面、悪い面を実感することが必要だと考えました。

私服登校期間中の授業の様子(国語のディベート授業)

私自身は生徒会が直接私に意見表明をしてくれることを、まずは一旦受け止めるようにしています。その上で、教員の協力や理解も必要になることをきちんと伝えています。生徒が提案してきたことに興味を持ちつつ、大人も一緒に参画していく姿勢を大切にしたいと思っています。

ーー実際に私服登校に取り組んでみて、生徒の様子はどうでしたか。
本谷:日によって違いますが、意外と制服を着てくる生徒が多かったように思います。試行期間はわずか10日ですが、生徒自身がそれぞれに感じ取ってくれることがあると思っています。いろんな物理的課題や快適さなどに気づいた上で、制服を選択することになるのと、最初から制服しか選択肢がないのとでは、意味合いが大きく違ってきますよね。

私自身は、「生徒たち自身の意志決定の機会を増やしていくこと」が、生徒たちが前向きな高校生活を送るためには非常に重要だと考えています。例えば、現在の本校になぜ制服があるのかということを答えられる生徒は、恐らくいないのではないでしょうか。こうやって誰かの決めたことにただ従っているだけでは、社会全体の物の見方も偏り、自分自身の選択にも影響を及ぼすと思っています。

最終的には、新しい学校を設置する町の教育委員会に任せることになってしまいますが、それでも自分たちがこれだけ大きな局面にいて、重要なプロセスに携わっているという自覚を、生徒自らが持つことを期待しています。

ーー本谷さんご自身は、生徒たちの主体性を伸ばすために大切にされてきた教育観はありますか。
本谷:教育の現場とは、そもそも生徒の主体性を育むものだと思っています。自分で課題を見つけ、解決していくために、他者と協働して未知の問いに対しても最適解を導けるような探究する力を身に着けてほしい。大学ではこういった姿勢が大切だと言われるにもかかわらず、義務教育や高等学校のなかではまだ十分に主体性を伸ばす仕組みになっていないといったような指摘は、今に始まった話ではないと考えています。結局、「教育とは何か?」を考えた時に、最終的に目指すのは生徒の主体性を伸ばすことや自律だと考えています。

その中で大切なのは、失敗を認めることができるかどうかではないでしょうか。学校とはそういった失敗を許容される場所であってほしいと思っています。そして、生徒にいろんなことに挑戦してもらうという基本的な姿勢は、私が教員としてずっと大切にしているものです。

ーー他校での話を聞いていると、校則の見直し活動を通して、教員同士で意見がぶつかってしまうこともあります。貴校ではそういったことはなかったでしょうか。
本谷:私服登校もそうですが、実はいきなりこういった活動が始まったわけではないんです。本校では、数年前からイベント時に制服に準じて着用できるパーカーやTシャツがあります。対外的にニセコ高校をPRする意味も含めたオプション的な要素として、制服以外でも統一感を出すということで取り入れ始めました。生徒が授業のなかで、ニセコのスポーツブランドのあるメーカーさんと一緒にデザインしたものを、本校のロゴマークとしてパーカーの後ろやTシャツに入れていて、生徒たちはかなり気に入っています。

こうした活動を通して、生徒たち自身が学校に対する誇りや愛着を持てるようになっているのではないでしょうか。その他にも、本校には起業家教育の一環として「放課後スタートアップ StartsUP(スターズアップ)」の活動があり、ある生徒がこのロゴマークを入れたクリアファイルやトートベックなどのニセコ高校のオリジナルグッズをつくり、校内での販売にチャレンジしました。生徒たちがこうした活動をやりたいと提案してきた時には、学校の教員だけでなく、地域の企業や経営者の方にもサポーターをお願いしています。

そして、紺のポロシャツに関しては、2024年度から制服に準じた着用を認めることになりました。また、6月から9月の夏季略装期間中は、私服での登校を認めることにしました。これまでに、生徒からも「こういうことをやりたい」といった意見があり、学校としてもそれを実現できる機会を設けてきました。なので、教員側にも徐々に受け入れられる土壌ができていたように思います。

生徒会長による改定後の校則についての生徒への説明

私の中では、このような活動とルールメイキングは繋がっていると思っています。生徒たちが自分で決めたもの、考えたものが形になるという経験を大切にしています。

ーー校則やルールの見直しだけでなく、様々な活動に派生していくということですね。
本谷:他にも、校舎内に「NISEKO World Village」という新しい施設を設置しました。本校に海外から入学した生徒、本校や中学校のALT、ニセコ町の国際交流員などの外国人の皆さんと本校生徒や地域の方々が集まって、運営を担当する生徒が企画した世界の言語や文化を知るイベントなどを実施しています。この施設は設計の段階から生徒が関わっています。

「NISEKO World Village」の施設設計に取り組む生徒たち


つまり、生徒が学校づくりに参加するということを極限まで拡大すると、学校の施設設備まで生徒が関わり、一緒に作っていくことができます。生徒たちが残した財産は、卒業後もここに残るということですよね。それが、生徒たちの自信になると思っています。

だからこそ、学校の経営の基本方針の一番上には、「生徒がつくる学校」をコンセプトに打ち出しています。

ーーこうした活動を通して生徒の成長や変化はどう感じていますか。
本谷:当然ながら、生徒によって受け止めや変化はバラバラです。新しい学校づくりに積極的に関わり、成長している生徒もいれば、自分の学校生活をただ大切にしたいという生徒もいます。一人一人にとって、学校は価値があるはずです。どんな考えがあってもそれを否定しないし、みんなが多様であるということを生徒たちは許容しているように思います。そういった点は成長と言えるかもしれないですし、もっといえば、本校がそういう学校だと分かって入学してきているのかもしれません。これから入学してくる生徒たちにもこのような価値観に共感して、入ってきてほしいですね。

「NISEKO World Village」で生徒が企画した中国語講座

ーー本谷さんとして新しい学校や、そこに通う生徒への期待の思いは、どういった気持ちがありますか。
本谷:自分の考えをちゃんと伝えられる語学力やコミュニケーション能力を持ってほしいですね。さらに、この地域は多くの方が起業しているので、自分で新しい価値をつくりだして課題を解決するアントレプレナーシップを身に付けた人になってほしいと思っています。

そして最も大事なのは、新しい学校での学びを通して、この町に誇りや深い愛着を持ってほしいですね。生涯にわたってこの町と関わりたいという生徒を一人でも増やしていきたい。そのために、「自分たちで考えてたことが、自分たちで実現できた」「自分たちで考えたことが生かされて新しいものができた」などと実感を持てる場所であってほしいと願っています。

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