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キャリア教育とユースワークの両輪で描く、生徒主体の学校づくり――東海エリア地域パートナー・一般社団法人アスバシ インタビュー
対話を通じて、児童生徒主体の学校づくりに取り組む「みんなのルールメイキング」。全国に活動が広がる背景には、各地域でルールメイキングの普及・啓発に取り組む「地域パートナー」の存在があります。ルールメイキングに取り組んでいる・取り組みたいという学校のサポートや地域内でのコミュニティ形成・強化のために活動するパートナー団体のことで、2025年度現在は、全国6つの地域で協働を行っています。
地域ごとに特色のある教育現場を実際に回り、学校との関係構築や教員・生徒向けイベントの企画などを行う地域パートナーは、どんな思いで、どんな活動をしているのか。今回は、東海エリアで2023年度からカタリバと共に活動する地域パートナー、一般社団法人アスバシ(以下、アスバシ)の小柳真哉さん(以下、小柳)にお話を伺いました。
最後には、2026年3月15日(日)に開催される東海地域生徒大会の告知もしていただきました。


——アスバシは、高校生向けのキャリア教育を事業としていますね。小柳さんはどのような業務を担当しているのでしょうか。
小柳:高校生向けのキャリア教育プログラムを設計・運営するキャリア教育コーディネーターです。企業でのインターンシップの調整や、「探究」の授業づくり、そして「アプレンティスシップ(見習い制度)」という欧州などで一般的な学びの形を、日本流にアレンジして広める事業にも携わっています。
また、現場での活動と並行して、名古屋市教育委員会の事業として立ち上がった「キャリア教育推進センター」でもコーディネーターも務めています。ここでは行政の立場からもキャリア教育を推進する役割を担っており、学校・企業・地域の三者を繋ぐハブのような立場として活動しています。

——小柳さんがこういった教育に関わる原点はどこにあったのでしょうか。
小柳: 僕らが学生だった頃は、ちょうど「団塊の世代が大量退職するため、就職は楽勝だよ」と社会全体が楽観視していた時代でした。僕は地元の進学校に通い、「みんなが行くから」という理由で大学に進学。サークルやバイトに力を入れる日々でした。
ところが、就職活動の時期になり、初めて「自分は何をしたいのか」という壁にぶつかったんですよね。これまで、自分の人生を自分で選ぼうとしたことがなかったからです。
さらに当時はリーマンショックの直後。「内定率底打ち」と呼ばれるほど社会情勢が冷え込んでいました。結局、唯一内定をもらえた会社に就職しましたが、楽しいとは思えませんでしたね。
――楽しめなった理由には何があったのでしょうか。
小柳:休日の2日間のために、平日5日間を頑張って働くといった感覚で、「割に合わない」と思っていました。
そんな中、あるボランティア団体の集まりに参加しました。そこで出会った人たちは、自分のやりたいことを生き生きと語っていて、日々、仕事の愚痴をこぼしている自分と大きな違いを感じました。その時に気づいたのは、僕にとっては大学を卒業した後のゴールとは、「社会に出る」ということだけ。でもそれはゴールではなく、ある種のスタートですよね。僕はそのスタートに向けた準備をしないまま大人になってしまったのですが、周りにいる人たちは、もっと早いうちから「自分は何がしたいか」「自分がどうすれば豊かになっていくのか」を、分かっている状態だと気が付きました。その時に、早い段階からキャリアを考えることの重要性を感じました。
——その経験が、キャリア教育の中で高校生と関わる中でも活かされているのですね。
小柳:そうですね。コーディネーターの立場として重要なことは、「様々な人たちの観点から、生徒たちが将来について考える機会をつくること」だと考えています。その際に、「あの時の自分にこういう機会があったら」という視点は意識しています。
ただ、活動を続ける中で、僕の中で少しずつ考えが変化してきました。最初は「社会に出るための準備」として、高校生のキャリア教育が必要だと考えていました。一方で、「将来あなたは何がしたいの?」と問うだけではなく、高校生の現在進行形の「やりたいこと」に、向き合っていく必要性も感じるようになりました。そんな時に出会ったのが「ユースワーク」という概念でした。 ユースワークは、若者が「今やりたい」と思っていることをサポートし、自発性を尊重する活動です。将来のための準備としての「キャリア教育」という軸と、今の実現したいことを支える「ユースワーク」という軸。この両輪が必要だと感じるようになったんです。
「今やっていること」が、将来に繋がるかどうかは結果論でしかないし、別に繋がらなくてもいいんです。今やりたいことをやれている自分は、将来もきっと「自分の実現したいことを叶えられる」という自信になっていくと思っています。
——面白いですね。ルールメイキングの地域パートナーとして声がかかった時は、どのような部分に共感してくださったのでしょうか。
小柳:学校というフィールドで、「ユースワーク的な価値」を体現している部分です。学校は、「人格の完成」の場という側面もあり、大人側の「こうなってほしい」という願いが詰まった場でもありますよね。もちろんそれも大事な教育ですが、ルールメイキング活動は、大人側の願いだけではなく、生徒自らが「こうでありたい」「こうなってほしい」と考えていることを実現するために、いろんな人たちとの対話を通じて、形にしていく活動です。そこに共感しましたし、僕は教育的な「興味深さ(interesting)」だけではなく、もっと純粋に生徒たちが感じる「面白い(funny)」も大切にしていきたいとも考えています。

——素敵な観点ですね。実際に地域パートナーとして活動を進めるうえで、印象的だったことはありますか。
小柳:3月15日(日)に開催する地域生徒大会に、講師として登壇する名城大学附属高等学校の野嵜遥香さんが、以前、「発表校」の生徒として地域生徒大会に参加してくれた年がありました。その時、「今日、私は何も発表できるものがありません」と言ったんですね。野嵜さんは三重県出身で、中学生の時にルールメイキングに出会い、とても熱心に取り組んでいました。
ただ、愛知県の高校に進学後、ルールメイキング活動に取り組もうと思ったものの、なかなか前進しなかったんです。担任の教員は応援してくれていたようですが、学校全体では「見直す」までは時間が必要な状況でした。
ところが、翌年開催された東海地域生徒大会に、野嵜さんが仲間を連れて参加し、「ルールメイキング実行委員会を立ち上げました」とも話していました。とても苦労はしたようですが、中学生のときに学んだことを活かして、「対立ではなく対話を重視」し、丁寧に取り組みを広げていました。とても衝撃を受けましたね。
——生徒だけではなく、教員の方と関係性をつくるために、意識していることはありますか。
小柳:イベントや研修の公式な場だけではなく、食事の席などのインフォーマルな場での対話も重視しています。「やらなければならない」という場では、なかなか本音を出しづらいという側面もあるからです。1人の人間として、「なぜ教員になったのか」「何に喜びを感じたり、課題感を感じたりするのか」を問い、知ることで深いリスペクトが生まれ、信頼に繋がると考えています。
過去に開催した「地域キャラバンin豊田」「Teacher’s CAMP in東海」といったイベントも、教員の声から始まった企画でした。やはり、ルールメイキングの現場は学校なので、教員の皆さんが「やりたい」と思っていることを実現したいと考えています。僕は地域パートナーという立場で、活動をサポートする役割ではありますが、教員の方が圧倒的にルールメイキングのノウハウや実践もあり、そして熱意もあるんです。だからこそ、教員の方がポロッと、「こういうのをやりたいんです」「こういうのが必要だと思っているんです」とつぶやいてくれたことには、「ぜひやりましょう」と伝えています。ただ皆さんとても忙しいので、それを前に進めるお手伝いをするのが自分の役目だと考えていますね。

——3月15日に開催する東海地域生徒大会は、どういった場になるのでしょうか。
小柳:基調講演の場に、先ほどお話した野嵜遥香さんに登壇いただきます。教員が参加する場で、生徒が講師を務めるという設計は、僕の一つのチャレンジですね。野嵜さん自身の口から、活動の意義や価値をどう捉えているのかを聞けるのがとても楽しみです。

ルールメイキングを通じた「学校全体の変化」はよく取り上げられますが、児童生徒ひとり一人の変化にももっと焦点を当てて、活動の意義や価値を追求していきたいとも考えています。たとえ「校則が変わる」という一つの成果には結びつかなかったとしても、そのプロセスを通じて生徒自身の中に起きた変容や、「豊かな時間を過ごせた」という実感こそが、ルールメイキングの真の成果だと感じています。ぜひ、参加する教員や生徒の皆さんにもそこを感じてほしいですね。

——今後のルールメイキング活動に期待したいことや展望を教えてください。
小柳:地域パートナーとしてメインで伴走する対象は学校や教員ですが、もっと児童生徒同士の横の繋がりをつくっていきたいですね。ルールメイキングが必要だと考えている生徒が、学校を越えて繋がることで、それが「スクールメイキング(学校づくり)」、そして「エリアメイキング(まちづくり)」にも発展していくと考えています。
3月29日には、若者によるまちづくりが盛んな静岡県菊川市で、「東海ルールメイキング 地域キャラバンin静岡 -ルールづくり、学校づくり、まちづくり。 自分達でつくりだす“メイカーズ”の祭典!-」も開催します。まちづくりに関わる高校生・大学生にも事例発表をしてもらい、生徒自治や若者自治について参加者の皆さんと一緒に考えていく予定です。

こういった取組が広がれば、児童生徒にとって、活動のフィールドは学校だけではなくなります。地域でのクラブ活動や学童・児童館の中などで、自分たちの過ごす場所を自分たちでよりよくしていくという活動を目指していきたいです。
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