大切にしたいのは「社会的役割を降りて一個人として存在できる場所」ー関西エリア地域パートナー・NPO法人 Dive in!インタビュー

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対話を通じて、生徒主体の学校づくりに取り組む「みんなのルールメイキング」。全国に活動が広がる背景には、各地域でルールメイキングの普及・啓発に取り組む「地域パートナー」の存在があります。ルールメイキングに取り組んでいる・取り組みたいという学校のサポートや地域内でのコミュニティ形成・強化のために活動するパートナー団体のことで、2025年度現在は、全国6つの地域で協働を行っています。

地域ごとに特色のある教育現場を実際に回り、学校との関係構築や教員・生徒向けイベントの企画などを行う地域パートナーは、どんな思いで、どんな活動をしているのか。今回は、関西エリアで2021年度からカタリバと共に活動する地域パートナー、NPO法人Dive in!の代表理事・今井直人さん(以下、今井)にお話を聞きました。

ーーカタリバでルールメイキングがプロジェクトとして始まったのが2019年。今井さんには2021年から私たちと一緒に関わっていただいています。普段はユースワーカーとして働いていらっしゃいますが、どんな活動をされているのでしょうか。

今井:僕が代表理事であるNPO法人Dive in!は、今年3月にNPO法人化しました。現在は僕の地元・神戸市長田区で活動していますが、2022年に実家の一部をDIYし、中高生が自由に過ごせるような場所になっています。その他にも地域のイベントを企画したり、学校現場に入って探究の授業を担ったりしています。と同時に、本格的にユースセンターをつくるために、この3年間で出会った若者たちと一緒にチームを立ち上げて動いています。

 僕たちは「全ての若者が納得感を持って生きられる社会」をビジョンに掲げています。若者が「自分で自分の選択をしている」「自分で自分のことを考えている」といったことが成長につながると考えています。

 そう考えるようになった背景には、僕が東日本大震災の被災地で出会ったおばあちゃんの存在があります。目の前で友人を含むたくさんの人が津波で犠牲になったおばあちゃんが、「私はあの人たちの分も頑張って生きるんだ」と話していたんですね。僕は当時高校3年生。80歳のおばあちゃんが「これからの人生、頑張って生きるんだ」と言ってるのに、あと80年ぐらい生きる僕はなぜ何も考えずに生きてるんだろうと思って、恥ずかしくなってしまって。

 そこから、「自分はなぜ生きてるのか」「どうしたいのか」を深く考えるようになり、自分の人生が豊かになっていったと思っています。一方で、同級生たちが「なんでこの大学来たんやろ」「親や先生に言われたからこうやったのに…」と嘆く姿や、周りの人が仕事を通じて精神的にしんどくなってしまう様子を見ていました。日本の社会システム上、18歳という年齢になったら進学や就職など、一旦「自分の人生を決める」という大きな選択があります。その時までに「自分はこういうふうに生きていきたい」というものが見つかり、そこに向かって進んでいくことが大切だと思うようになりました。そのために何かできないかなと考え、それを実現できる場所が「ユースセンター」につながっています。

NPO法人 Dive in!の活動の様子

ーー面白いですね。そういった今井さんの活動とルールメイキング事業との共通点はどんなところにありますか。

今井:ユースセンターは、家でも学校でもない場所として、よく「サードプレイス(第三の居場所)」と言われますが、僕は「社会的な関係性がないことに価値がある」と思っています。家では親と子ども、学校では先生と生徒といった形で、社会から見た関係性があり、そこに対して「親によく思われないと」「よい生徒でいないと」といった気持ちになってしまいがちです。自分で自分の気持ちに向き合うよりも、そういった「役職」としての自分に向き合うことしかできなくなると思っています。

NPO法人 Dive in!の活動の様子

 だからこそ、子どもたちが社会的役職から降りて一個人として存在できる場所を、ユースセンターの中で実現したいんです。ただ、そこにアクセスできない子どももいるため、学校の中でそういう機会をどう作るかを考え、僕のような外部の人間が入っていくことが大切だと考えています。ここがルールメイキングとの共通点だと思います。ルールメイキングに取り組んでいる生徒たちも、学校の中では「先生と生徒」の関係性が成り立っています。僕がコーディネーターとして学校に入る時には、「ルールメイキングの時間だけは立場を気にせず、一個人として参加してください」ということを導入で伝え、その時間の中では互いにニックネームで呼び、1人の人間として関わってもらうようにしています。 

 また生徒からすると、「本当はこれを言いたいけど、先生に怒られたらどうしよう」といった不安が生じることも。対話の中に僕が入ることで、教員側に伝えやすくなると思っていますし、実際に僕になら話せたと伝えてくれた生徒もいました。そういった積み重ねがお互いの関係性をつくり、関係性があるから日常的に相談ができるといった広がりになると思っています。

 学校の中での関係性をリデザインできるところに、ルールメイキングの面白さを感じていますね。

ーーそういった共通点を感じてもらえて、うれしいですね。カタリバとの連携の中での、今井さんの役割を教えてください。

今井:現在は、「地域パートナー」と「コーディネーター」という二つの立場を担っています。コーディネーターとしては、1年間学校の中に入って教員の方の伴走をし、どのように校則を見直していくか、どう話し合いを進めるかといった相談に応じています。他にも、教員と生徒が対等に話したい場合には僕がファシリテートに入っています。

 ルールメイキング活動の中でよく課題となるのは、「学校の中のルールというものが、今の社会とどう適応しているのか」。見直したい校則とそれに対する社会とのギャップをすり合わせるために、外部人材をつなぐ役割も担っています。例えば制服の性別規定を見直す際には、LGBTQの団体をつないで直接話ができる機会を設けました。校内でのスマホ利用について、「緊急時のときの対応にスマホがいるのではないか」という話になり、知人であるYahoo!の天気災害アプリの担当者を紹介し、実際の災害時のスマホの有用性を聞いたこともあります。

 もう一方の地域パートナーとしては、学校や教員同士のコミュニティづくりに力を入れています。ルールメイキングに取り組む他校の教員や生徒と関係性を持つことで、「自分たちがやってることって間違いじゃないんだ」と気づき、学校の中での孤独感を払拭して、安心して活動できる場づくりを担っています。

ーー今井さんが関わりを持ってくださった2021年当初は、今よりも社会の中での「ルールメイキング」という活動自体の認知度が低かったと思います。声がかかった時は、どのようにお感じになりましたか。

今井:学生時代は校則をあまり気にすることはなく、当然のこととして受け取っていました。でもルールメイキング自体は、面白いと思いました。当初は経済産業省の「未来の学校」という事業の中でスタートしましたが、当時担当だった浅野大介さんが話していたことが興味深くて。要は日本のトップ企業が、世界のトップランキングから衰退した背景を調べていくと、クリエイティブな考え方でイノベーションを起こせなかった。だからこそ、ちゃんと自分たちの環境を自分でつくる人材を作らなきゃいけないと訴えていました。子どもたちが当たり前に接している校則も、環境設定をしていく1つだという話が、僕自身の興味関心にも直接結びつきましたね。

ーールールメイキングと連携し、2021年に実証校だった大阪夕陽丘学園高等学校(大阪市と四条畷学園中学校(大阪府大東市)にコーディネーターとして入っていますね。当時、学校現場ではどのようなことを感じていましたか。

今井:1年目は、やはり教員と生徒が対立構造になると痛感しました。生徒たちは校則を変えたいと思っている一方で、教員側は「変えたいなら、生徒自身が頑張るべき」といった声が聞こえることも。対話的な場をつくることがとても難しかったです。校則を見直していき、いざ教員や全校生徒に新しい校則について伝える「提案会」のタイミングでは、「提案する生徒」と「それをジャッジする先生」といった関係性になってしまうこともありました。その反省から、次年度の提案会では、僕がファシリテーターとして入りました。生徒の提案に対して先生もしっかり意見を伝え、生徒が伝えきれないことに対しては僕が補足説明をするといった流れのなかで、徐々に対話的な場面になっていったように思います。

ーーこれまでの関わりの中で、ルールメイキングの教育的意義はどのように感じていますか。

大阪夕陽丘学園高等学校で生徒たちと関わる今井さん

今井:「ブラック校則が問題」ではなく、生徒たちが自分の環境を自分でつくるということに意義がありますよね。「自分たちで考え、動いていけば社会は変わるんだ」といった実感をもてることはとても大切ですし、教員側もそうやって動く生徒たちを見て、「どうやってこの子たちの幸せを守るか」ということを考えたり、生徒の「変えていきたい」という気持ちに応えるために行動にうつしていったりしています。そうすると、社会をよりよくしていくために、あるいは私たちが幸せに生きるためにどうするのかを全員が考え、主体的に動いていくことにつながりますよね。

ルールメイキング・サミット2023で生徒たちとかかわる今井さん

 生徒の変化でいうと、「今の校則が嫌なのでなくしたい」と思ってルールメイキング活動に加わった生徒が、活動の中で教員にもいろいろな考えがあることを知って。次第に、ただ校則を変えるだけじゃなくて、「どうしたらみんなにとってよくなるのかをしっかりと考えて、ルールを決めていく必要がある」といった話ができるようになりました。また、人前で話すことが苦手で、みんなが近づいてどうにか聞こえるぐらいの小さな声で話していた生徒が、1年後には全員の前で大きな声で発表していたことも。こういった成長の姿を間近で見られるのは、とても面白いです。

2024年11月に開催されたルールメイキング対話カフェ(ルルカフェ)の集合写真

ーー関西地域は、「みんなのルールメイキング」のパートナーになっている学校も多く、活動が活発という印象がありますね。

今井:関西の人は、どんなことでも最上位価値に「面白そう」「楽しそう」といった部分があり、「関西人のノリ」は要因の1つです(笑)ルールメイキングに取り組む教員の方も楽しんでいる人が多いですし、少し難しい問題に取り組むときも、あえて面白いことを取り入れています。そういったある学校からはじまった「ノリ」が、他の学校にも伝播しているように思います。

 関西では、「ルールメイキング対話カフェ」(略してルルカフェ)を各学校で実施していますが、これも教員の方の提案でした。教員同士の交流会はずっとオンラインで実施していましたが、ルールメイキングの面白さや活動の意義を言葉で話すだけでは、机上の空論のようになってしまいます。だからこそ、実際に学校現場に入って、ルールメイキングの先進校の教員と生徒が直に関わっている姿を見ることで、新しい気づきがあるのではないかと思い、開始しました。教員同士が学び合う場としてはじまったものの、徐々に「生徒たちが運営していくことが大切だよね」といった動きに変わっていきました。今では生徒自身が運営企画するイベントに教員も参加し、みんなで楽しむために工夫していますね。

2025年7月13日(土)に関西誠風中学校で開催されるルルカフェ

ーーこういった視点は、全国の学校でも真似できそうですね。最後に、これからルールメイキングの中で実現したいことや期待していることがあれば教えてください。

今井:一つ目は、明らかに子どもたちの人権を侵害する可能性がある校則は、ルールメイキングといった対話的な場で解消するのではなく、やはり学校側でしっかりと対応する必要もあると僕は思っています。例えば、学校をやめたくなるほどつらい校則があった時に、それを1年かけて対話の中で変えていく手法は適切でない可能性があります。ルールメイキングを通じて、もっと教員も生徒たちも権利について理解を深められるようにしたいですね。見直す緊急度が高いときには、ルールメイキングを通じて見直す以外の方向性もちゃんと提示していきたいと考えています。

 二つ目は、もっと多くの生徒たちが「自分で社会を変えられる」「声を上げれば、誰かが見ていてくれる」といったことを実感してほしいので、校則に限らず、学校全体の文化といった部分における「スクールメイキング」の領域まで発展していったらいいなと思っています。学校の教育方針を考えたり、生徒自身が行事を考えていったりするなど、「自分たちの環境を自分たちでつくるという意味では、校則の見直しだけじゃないよね」と、ルールメイキングの価値をしっかりと伝えていきたいですね。

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 ルールメイキング・パートナーは、児童生徒主体の校則見直しや学校づくりをはじめたい、既に実践している小・中・高校の教員が無料で参加できるコミュニティです。

 登録には学校承認は不要で、教員個人での申込みが可能です。探究学習で校則をテーマに取り組んでいる学校や、児童生徒を中心にした学校づくりに関心がある全国の教員を対象に「ルールメイキング・パートナー」を運営しています。個別相談や情報収集のみでもご利用いただけますので、お気軽にご参加ください。

 

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