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取り組んだのは形骸化していたイエローカードの廃止、大切したいのは対話

対話を通じて、児童生徒が中心となり学校の校則やルールづくりに取り組む「みんなのルールメイキング」。現在は450校以上の学校がカタリバとともに活動しています。全国では、さらに多くの学校でルールメイキングが実践され、校則見直しにとどまらない様々な場面で児童生徒が主体となった学校づくりに発展している学校もあります。
連載「児童・生徒主体の学校づくりから見えるもの」では、こうした実践の教育的意義をはじめ、教員や児童生徒の変化・成長を紹介していきます。また、児童生徒が参画する学校づくりの先にどんな景色があるのかを取り上げていきます。
校則違反などをした生徒に対して懲罰を与える「イエローカード」制度を導入している沖縄県。沖縄県立本部高等学校では、昨年度よりイエローカードの制度を廃止し、TPOに合わせて生徒たちがきちんと身なりを使い分ける考え方を大切にし、対話を重視した学校づくりに取り組んでいます。昨年度から着任し、生徒が主体となった学校づくりに力を入れる学校長 仲地範禮さん(以下、仲地)にお話を伺いました。

沖縄県立本部高等学校 校長
仲地 範禮
1967年生(57歳)。琉球大学教育学部大学院卒。教育学修士。専門は数学教育・ICT教育。 1993年に教諭採用後、与勝・翔南・那覇国際・開邦高校を経て、2011年から教育センターIT教育班、県教育庁教育支援課、豊見城南・教育センター・西原高等学校の後、2023年度に本部高等学校に学校長として着任。民間教育団体沖縄地区数学教育協議会委員長
ーー貴校では2023度に生徒たちと一緒に校則の見直し活動に取り組まれ、化粧や頭髪が許可されたと伺いました。取り組みのきっかけは何だったのでしょうか。
仲地)2021年に沖縄市にあるコザ高等学校で、部活動での指導により生徒が自死した事件がありました。この事件で、沖縄県の学校にある通称「イエローカード」という、校則違反の回数によって段階的に厳しい指導をする懲罰の仕組みがかなりクローズアップされました。私自身、管理職になる前からこのイエローカードに対しては違和感を持っていて、教員の頃はきらないようにしていたのです。ですから、本校に着任してまずはこの仕組みの見直しを検討しました。
同時に、本校では生徒の化粧は校則で禁止されていたのですが、もともとやってみたいという生徒が多いと聞いていました。その中で身なりの指導が入るので、生徒たちも不満が溜まっていたし、 教員の方も減らない指導回数に疲弊していました。そのため、着任早々から「これはまずいな」と感じていたのです。
服装などの外見を見ることも大事ですが、場面によってしっかりと守れていれば問題ないと思います。我々も家の中や簡単なミーティングでは、そこまでかっちりとした服装をしないじゃないですか。でも、結婚式ではドレスコードを守り、ネクタイを締めた正装などをする。一般社会でもそうですが、メリハリをつけることが大切なんです。
例えば、化粧をしたい生徒に対して身なりの指導が入った時に、 納得のいく回答が教師側から得られないことがどんどん増えてくる。教員側もあまり明確な回答を持ち合わせておらず、従来からやっているという理由が多い。そして、その指導に効果があるのかというと、あまりしっかりとした効果も見られない。なので、長年生徒側にも教員側にも不満が溜まっていました。私が着任して校則改正に乗り出す前から、生徒総会で校則の緩和については決議がされていたようです。 ところが、沖縄県の多くの学校がそうなのですが、本校でも生徒総会で提案されたことの多くが却下されていました。
その現状から、職員会議で「生徒たちに校則について考えさせてみないか」と提案しました。もし検討の結果、生徒から化粧や頭髪に完全に認めてほしいと提案があった場合、理由が通るのであれば、学校でOKにするところまで腹をくくってやってみないかということを職員には投げかけましたね。
ーーそういった中で、教員側から反対の声はなかったでしょうか。
仲地)もちろん賛成、反対の両方の声がありました。ただ、しっかりと生徒指導する教員の中でも、「今、指導するべきはそこではないだろう」という意識が強かったですね。というのも、本校は学力だけで見ると偏差値は非常に低く、家庭環境にいろいろと課題を抱えている生徒もいます。内面的な課題がたくさんある中で、服装など外面的な指導をするとなると、もう服装をどうするかということで手一杯になってしまうのです。私が着任する前から一生懸命生徒を指導してきた教員の中には、服装ではなくて、「生徒が今悩んでいることがあればしっかりと耳を傾ける」「遅刻が多いのであればその理由を聞いてみるなど、指導ではなくて対話が最も効率的ではないか」という考え方が既にあったのです。
反対する教員にも、化粧も頭髪も完全に認めるということではなく、場面によってきちんと判断する、メリハリをつけましょうと伝えました。つまり、入学式や卒業式などの式典ではこれまで通りということです。また校則に書かれている「他の人の学びを邪魔しない」ということを生徒たちにしっかりと理解させるということを、反対する教員には伝えましたね。とにかくTPOをしっかりと分けて考えさせようと。最終的には、学校にくる批判なども含めて全ての責任は、校長である私が持つと言って納得していただきました。
そうやって校則改正をする前に、生徒にボールを投げるよりもまずは、教員で意識固めをしていきました。
教員側でも仕組みづくりを考え、生徒側も生徒会を中心に校則について考えました。考えた内容を生徒総会で挙げて、さらに生徒会で勉強会を開いて、1週間毎日いろんな生徒の声を聞いて意見をまとめたものを私のところに持ってきました。
試行期間を設けたのちに、PTAや地域の人たちにパブリックコメントを出して、ある程度の了承を得られたので、実際に校則改正が行われたという流れになります。
ーー保護者や地域の方の懸念の意見はなかったでしょうか。
仲地)懸念の声はありました。先ほどもお伝えした通り、パブリックコメントをとった際に、「いつでも染髪はOKということですか?」という勘違いがありました。それに対しては、式典では正装を守るなど、普段と異なりTPOを分けて身なりを整えるということをしっかりと伝えました。思った以上に大きな反発はなかったと思います。というのも、地域からすると学校の中だけ真面目にやっても、校外に出た時に化粧するのでは、意味がないのではないかという声がありましたから。
ーー先ほどイエローカードの話がありましたが、仲地さんの中では違和感をどのように考えていらっしゃったのでしょうか。
仲地)おそらくイエローカードの制度が導入された20年ぐらい前は、何か校則違反などがあった時に、まずカードを出して、その後に話を聞くということがセットになっていたと思うのです。ところが、「イエローカードを出す」ということ自体に重きが置かれ、話を聞く作業が追いつかなくなってしまった。そうすると、教員側もきってしまえば生徒たちが自動的に変わるという錯覚が起きるようになり、システム的にカードを出すようになってしまったのではないでしょうか。きったあとで話を聞くことをしなければ、罰だけが先に進んで、生徒が指導の意味を感じることはできないでしょう。
教員側はカードを出しても効果がないので、提示するカードがどんどん増えてしまいます。 最終的には、例えば「退学になるぞ」という指導になったり、本当に退学に追い込んでしまったりする結果になりかねません。それでは、本末転倒です。
私個人としては「それは違うのではないか」と、ずっと思っていました。ただ、あまりにもカードを出す対象となる項目が多いので、生徒たちへの指導に悩み、あまり声はかけられなかったですね。カードを出さずに話をするということを意識していました。
ーー沖縄県内の他の教員の方からもイエローカードの制度が形骸化しているという話を聞きます。管理職ではない一般の教員から、同じように生徒への指導方法を変えようと思ったときに、どうすれば良いでしょうか。
仲地)私も同じように考えていながら、教諭時代にそれを実現できなかった立場です。でも今は、私の時代よりも見直しやすい空気ができてきています。文部科学省も生徒指導提要を改訂していますし、そういった世の中の流れを味方につけるのは一つの方法ではないでしょうか。
また、自分の学校の中で賛同者を募り、グループをつくって生徒を動かしていくということが非常に重要だと思います。
ーー実際に校則を見直したことで、今年度の入学者数が増えたという変化があったと聞いていますが、学校全体ではどのような変化があったでしょうか。
仲地)校則が変わる前の本校の状況を全て把握はできていないのですが、やはり教員と生徒が話をできる状況になったのではないでしょうか。これまでだと、遅刻する生徒や髪にカールがかかっている生徒に対して、まず指導してから話を聞くので、本質的なところにいくまでに時間がかかっていました。今は、そういった指導はさておき、すぐに生徒の声に耳を傾けることができる。生徒側も生徒支援部(≒生徒指導部)の教員にすぐに相談ができるので、生徒からの教員への アクション、対話、人間関係が良くなったと、現在の職員から聞きますね。
また、生徒たちも学校が変わるという実感を得ることが増えたことにより、毎年恒例の学校行事だけではなく、自分たちで本当にやりたい行事を考えるようになりました。今年は、生徒たちが考案したクリスマスライブやハロウィンのイベントを実施しました。生徒たちが、自分たちの学校生活を楽しむために企画することが増えましたね。
ーー生徒たちが主体となって学校づくりに関わってもらうために、教員や大人はどういった視点、価値観を持つべきだとお考えになりますか。
仲地)「受容すること」が重要だと思っています。遅刻してきた生徒に理由を聞いた時に、たとえば「学校に行きたくなかった」と言われたとします。そこで「いや、学校には来ないといけないよ」ではなく、まずは「よく来たね」と声かけをすることです。その上で、なぜ遅刻したのか、どうすればそれを防ぐことができるのかを一緒に考えていくことが大切ではないでしょうか。精神論に頼って、「頑張って学校に来なさい」と言ってもしょうがないですよね。起きてしまったことを責めるのではなく、行動ベース、事実ベースでしっかりと対話をするということを心がけています。これは、教員に対して何かを伝えるときも同じですね。
また、本校では昨年度校訓を見直しまして、「自治、対話、創造」を掲げています。対話を重視した学校にしていこうと。指導も授業も学級活動もまずは対話をする。その姿勢が大切だと思っています。そのため、生徒指導部も「生徒支援部」という名前に変えました。
校訓の中で「自治」を掲げるのは珍しいイメージがあり、一般的には自律を掲げる学校が多いかと思います。ただ、自律は自分を制御する、自分で自分に鞭を打ってきちんと正すというような硬いイメージがあります。本校ではそうではなく、自分を収めていく、 自分の中で自分をしっかり正しくしていくという意味で、「自治」という言葉を選びました。これは本校の職員からの意見でした。
公立学校なので、どうしても異動があります。学校長が変わったら、校内の雰囲気が一気に変わるという経験を私もしています。だからこそ本校の校則には、改正にあたり校則改正委員会を開催することが明示されています。校則改正委員会のメンバーには生徒、教員、そしてPTAや地域の方にも入ってもらっています。今年度は年4回委員会で話し合いを行い、細かい改正も実現しています。今後新しい学校長になり、校則を元のように戻したいと思った時にも、この委員会の承認をきちんと得るという仕組みにしています。これからも、何か問題があった時にもしっかりと「対話する」という校訓の精神が活かされることを期待しています。
【参加者募集中!】ルールメイキング九州教員交流会 in 沖縄 ~生徒が生きやすい社会を作るために~
今回インタビューにご協力いただいた沖縄県立本部高等学校の仲地校長先生が登壇するイベント「ルールメイキング九州教員交流会 in 沖縄 ~生徒が生きやすい社会を作るために~」が、2月23日(日)に沖縄県立図書館で開催されます。
”沖縄あるある”なルールや、”九州あるある”なルールをお互いに共有し、「子どもたちが生きやすい学校・社会にしていくためには?」などのグループディスカッションを計画しています!
もちろんルールメイキング導入校でなくともイベントに参加可能です。九州各地の教員・教育関係者の皆様、沖縄に集まり、交流と学びを深める1日にしましょう!ぜひ、多くの皆様のご参加をお待ちしております!

■日 時:2025年2月23日(日)
【第一部】14:30〜17:30(沖縄県立図書館)
【第二部】18:30〜(那覇市内)■参加費:無料(第二部は別途案内)
■会 場:沖縄県立図書館 3階ホール(第一部)沖縄県那覇市泉崎1丁目20番1号(カフーナ旭橋A街区の3階から5階)
■駐車場:あり(有料)
■お申込み:こちらのフォームから申し込みください。■対 象:ルールメイキングに取り組む・関心のある九州の教員、教育に関心のある方
■定 員:60名■申込締切:2025年2月17日(月)
※定員数の関係で、申込締切日よりも前に募集終了となる可能性があります。予めご了承ください。
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ルールメイキング・パートナーは、生徒主体の校則見直しや学校づくりをはじめたい、既に実践している小・中・高校の教員が無料で参加できるコミュニティです。
登録には学校承認は不要で、教員個人での申込みが可能です。探究学習で生徒が校則をテーマに取り組んでいる学校や、生徒を中心にした学校づくりに関心がある全国の教員を対象に「ルールメイキング・パートナー」を運営しています。個別相談や情報収集のみでもご利用いただけますので、お気軽にご参加ください。
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