
- インタビュー
- 個々の意見を突き通すのではなく、原点に立ち返ることで見えてきたもの
個々の意見を突き通すのではなく、原点に立ち返ることで見えてきたもの

対話を通じて、児童生徒が中心となり学校の校則やルールづくりに取り組む「みんなのルールメイキング」。現在は480校以上の学校がカタリバとともに活動しています。全国では、さらに多くの学校でルールメイキングが実践され、校則見直しにとどまらない様々な場面で児童生徒が主体となった学校づくりに発展している学校もあります。連載「児童生徒主体の学校づくりから見えるもの」では、こうした実践の教育的意義をはじめ、教員や生徒の変化・成長を紹介していきます。また、児童生徒が参画する学校づくりの先にどんな景色があるのかを取り上げていきます。
開校から100周年を迎えた歴史のある徳島県立阿波高等学校。徳島県からの方針に基づき、2023年度に生徒主体の校則検討委員会を立ち上げました。生徒たちは合意形成の難しさに直面しながらも、納得がいくまで対話を続け校則の見直しに取り組みました。検討委員会が終了した2024年度も、見直し活動を委員会の生徒が残した「遺産」と捉え、生徒会の中で引き継いでいます。活動を支える生徒指導主事の鳴川真一さん(以下、鳴川)と、当時の生徒会長でもあり、校則見直しに取り組んだ高校3年の佐藤愛花さん(以下、佐藤)にお話を伺いました。

徳島県立阿波高等学校 教諭
鳴川 真一
2014年度に徳島県立阿波高等学校に着任。2020年度より生徒指導を担当し、生徒たち主体の校則見直しの取り組みを支えている。

徳島県立阿波高等学校 3年
佐藤 愛花
阿波高等学校の生徒会長として、校則の見直しを提案。2023年度に立ち上がった校則検討委員会に加わる。他の生徒たちと対話を通した合意形成を図りながら、校則の見直し活動に取り組んだ。
――2023年度に徳島県から校則の見直しについての方針が出されていますね。
鳴川)本校ではもともと制服に関する要望は出ていたので、教員で制服等に関する検討委員会を立ち上げ、制服のあり方を検討しようという動きになっていました。そんな中で、2023年度に徳島県からの方針が出され、全ての県立学校や高等学校で、生徒による校則検討委員会が設置されることになったんです。
佐藤)私はそもそも県の動きがあるとは知らずに、生徒会長に立候補する時の公約に「生徒が来やすい学校を作ります」と掲げ、校則を変えたいと訴えていました。私自身、学校生活の中で「この校則って必要なの?」と疑問を抱き、一度考える機会が必要だと思っていました。実際に、県からの動きの中で先生から校則を見直したいという話を聞いた時は、「ぴったりだな」 と思っていましたね。
――なぜ、校則に興味を持っていたのでしょうか。
佐藤)私たちの制服はセーラー服なんですが、先生が服装チェックをするときに、セーラーのVネック下のTシャツが見えていたら、「それちょっと良くないよね」と言われることがあって。でも、Tシャツが見えることが風紀を乱しているとは思えなかった。学校は協調性を身に着けていく場所ですが、「自分で考えて行動する」ということもすごく大切なんじゃないかなと。そう考えた時に校則を見直すことが必要だと感じました。
生徒会と有志の生徒からなる校則検討委員会が立ち上がったときは、約30人のメンバーでしたが、徐々に加わってくれる生徒が増えて、最終的には40人ぐらいに。まずは、全校生徒に「今の校則の中で疑問に思うことはありませんか」と尋ねるところから始めました。
――他の生徒からの意見を集約していくことは大変ではなかったでしょうか。
佐藤)いちばん苦戦したのはそこです。検討委員会の中で、「改定派」と「創造派」の二つに分かれていました。 私は改定派で、しっかりと決まった校則やルールを定めつつ、時代に合わせて適当な校則に変えていこうという立場。どちらかというと、現実的に考えるメンバーが多かったです。創造派は、生徒自身が考える余地がある校則を作ろうという考え方でした。例えばTPOに合わせた身だしなみのように、自分たちでいくらでも考える余地がある校則を作ろうという立場です。この2つがものすごく二極化してしまって。メンバー40人がちょうど半分に分かれました。


昼休みも放課後も話し合って、さらに、家に帰ったあとも夜9時ごろまでメンバーと話し合いをしていました。 それだけ真剣に校則に向き合っていたんですが、一方で個人の考えも強くなっていって。 話し合いをすればするほど、「自分はこういうほうがいいと思う」「こういうリスクがある」と主張してしまう。対話は深まっていましたが、どうしても分かり合えず、平行線のままなかなか話し合いが進まなかった時期がありました。
決められた期間までに結論を出さなくてはいけないので、私たちは一度最初に立ち返ることにしました。いちばん初めに、私たちのなかで「どんな学校を創るか?」という話をしていたんですが、そこで決められたのが「校風と個性を生かし、社会性を身に付ける学校」でした。ここに立ち返ろうと。自分たちの考えを突き通すのがねらいではなく、ゴールは一番最初に決めた目的を叶えること。そのためにどうすればいいかを話し合い、自分の意見だけじゃなくて、みんなの意見を織り交ぜた校則をつくるべきなんじゃないかということにたどり着きました。そして、全員が納得するような折衷案を作って、先生に提出することができたんです。
鳴川)教員側は、伴走的なスタンスでいようと心がけていました。生徒たちは原点に立ち返る前に、「自分のわがままを言うだけになってないか」「変えると言いながら、自分がしたいこと言っているだけじゃないのか」など、いろんな気づきがありながら進んでいたと思います。表面的な議論ではなく、本当に自分たちで納得するまで話し合いながら進めていましたね。

——――実際に校則改正に向けた試行期間も設けられていますね。
佐藤)「A-week」と名付けた試行期間を7月と11月に実施しました。その中で、「改定派」と「創造派」の両方の主張をそれぞれ叶える期間も設けて。その後、生徒と教職員での意見交換会を行いました。事前に先生に校則の改正案を提出し、回答を頂いていたので、それに対していろいろ質問する場でした。実際に話し合いをする中で、私たちが何時間費やしても見つけられなかった課題を、先生方がパッと言ってくださるんですね。
私の中で、先生と生徒って少し距離がある関係だと思っていたんですが、こういった場で先生も私たちの要望に応えようとしてくれる姿勢を感じました。私たち主体で進めているけれど、分からないところは先生に頼っていいんだなっていう実感を得ることができて。先生との距離もとても縮まりましたし、私たちの中で先生たちに対するリスペクトも生まれました。多面的な立場から物事を見て、改善のために動くことの大切さを実感できたと思っています。
結果的には、バイク通学の許可条件や免許取得のタイミング、靴下の色などが改正されました。
ーー素敵ですね。試行期間では、改定派にいる佐藤さんが創造派の皆さんが考えた校則を体験してみて、どのようにお感じになりましたか。
佐藤)大好きな阿波高の雰囲気が失われたり、風紀が乱れたりしてしまうんじゃないかという思いがありました。例えばTPOに合った身だしなみって、どんな服装を着てきてしまうんだろうって。でも実際に試してみて、制服以外の服装をしてくる生徒は少なく、私服の場合も結構シンプルだったんです。みんなそれぞれに考えていて、試行期間が終わるときも全員が制服にちゃんと戻れたので、「無駄な心配をしたなー」と(笑)
――教員同士で、校則について話し合う機会はありましたか。
鳴川)2023年10月に全教職員が参加する教職員研修会を開いて、グループで校則について意見を出し合う場を設けました。普段はなかなか校則について話し合うことはないのですが、生徒から出てきた案を基に、教員たちの個々の思いを話しました。「もっと自由でいいのではないか」という意見もあれば、「学校として完全に自由にしてしまったら風紀が乱れていくんじゃないか」という意見もありました。
私自身はここが母校です。もともとかなり伸びやかな校風で、「校則がない学校」と言われたほどでした。服装検査もなく、良い意味で放任ですが、今思えば信じて任せてもらっていたように思います。だから思い切っていろんなことにチャレンジできたんではないかと。今の生徒にも、校則検討委員会の活動を通して、「自分たちが動けば、少しずつ学校は変わっていく」と実感してほしい。そうすることで、主体性の芽が育つのではないかと。生徒たちが自分できちんと判断する力を高めていきたいと思っていましたね。
検討委員会に伴走してくれた当時の教頭は、「生徒の委員会の様子を簡単に記録し、見える化して先生方に効率よく共有するようにした」と話していました。教員のほうからも「納得解」を得るために、職員室で生徒の取り組みを話題として振るなど、できるだけ話しやすい雰囲気づくりを心がけていたようですね。
――教員の中で、見直しに対して不安の声はなかったでしょうか。
鳴川)2023年度の校則検討委員会がずっと揉んでいた「服装選択制」という取り組みを、2024年度に初めて導入しました。暑さや寒さの厳しい時期に、自分の体調に合わせて「学校にふさわしい服装」を選ぶ期間を夏と冬に約3ヶ月間設けました。もちろんその時期に制服を選んでもかまいません。
私服での登校が可能なことに、反対の声がなかったわけではありません。なんせ前例のない取り組みなので…。しかしこの取り組みは、佐藤さんたち校則検討委員会の生徒が残してくれた遺産です。2023年度に本気で取り組まれていた先生方や生徒たちの想いに敬意を払って、「絶対やり遂げたい」という思いが私の中にありました。校則検討委員会の意志を引き継いだ生徒会の生活委員会を中心にアンケートを採ったり、全国での様々な取り組みを調べたり。先進校からアドバイスをいただきながら、本校でもできる形にカスタマイズして教員側に提案しました。最終的には生徒の声を大事にしようと賛同してくださり、実施することができました。
――校則の見直し活動を通して、生徒同士の変化、ご自身の変化はありましたか。
鳴川)当時の教頭は、「ルールメイキングに取り組み、生徒はこれまで以上に帰属意識を強くした。それは仲間意識の深まりでもあって、過去と現在、そして未来の人と人のつながりにも意識に上らせ、これまでとは違う方面に視野を広げた」とおっしゃっていました。そして、「特に学校という興味関心や目標の幅が広い集団におけるルールメイキングの経験は、”ボス”ではなく、一緒に考えて行動するリーダーとしての生徒たちの資質を磨いた」ということが変化だと教えてくれました。
佐藤)校内放送や生徒総会を通じて校則見直しの取り組みを全校生徒に伝えましたが、どうしてもその場にいない生徒たちは、自分ごととして捉えていない感じがあって。だから、「A-weekを実施してみてどうでしたか?」と書いたホワイトボードを全校生徒が見れる場所に設置して、みんなが思いを自由に書けるようにするなど周りを巻き込む工夫を重ねました。その中で、少しずつ他の生徒たちも意識してくれるようになった気がします。
もともと私の中で、校則とは「自由や個性を縛るもの」で、私が作りたい学校と対局の位置にあるような気がしていました。でも実際に校則が出来た経緯を調べたり、検討委員会の中で話し合ったりするなかで、「私たちを縛るのではなく、私たちの生活をより良いもの、守るためにあるんだな」というのがみんなの共通認識になっていきました。 だからこそ、時代に伴って変えていくものだと思っています。
また個人的な話をすると、ルールメイキングって法律にも似てるなと思ったんです。法律って元々すごく絶対的なものだと感じていたのですが、実際には人が作ったもので、時代と共に変わっていくもの。そこから、完璧なものではないからこそ法律を学びたいと思い、卒業後に大学で法律を勉強することに。ルールメイキングでの活動を活かしていきたいと思っています。
「ルールメイキング・パートナー」にあなたも参加してみませんか?
ルールメイキング・パートナーは、生徒主体の校則見直しや学校づくりをはじめたい、既に実践している小・中・高校の教員が無料で参加できるコミュニティです。
登録には学校承認は不要で、教員個人での申込みが可能です。探究学習で生徒が校則をテーマに取り組んでいる学校や、生徒を中心にした学校づくりに関心がある全国の教員を対象に「ルールメイキング・パートナー」を運営しています。個別相談や情報収集のみでもご利用いただけますので、お気軽にご参加ください。
新着記事
カタリバではルールメイキングに取り組む
学校・先生・自治体をサポートしています
すでにはじめている学校や自治体、個人の方のお問い合わせもございます。
まずはどのようなサポートが行われているかご覧いただき、お気軽にお問い合わせください。