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社会を主体的につくっていくための「予行練習」の場。自分で考え試行する経験を子どもたちに

対話を通じて、児童生徒が中心となり学校の校則やルールづくりに取り組む「みんなのルールメイキング」。現在は全国500校以上の学校がカタリバとともに活動しています。全国では、さらに多くの学校でルールメイキングが実践され、校則見直しにとどまらない様々な場面で児童生徒が主体となった学校づくりに発展している学校もあります。
連載「児童・生徒主体の学校づくりから見えるもの」では、こうした実践の教育的意義をはじめ、教員や生徒の変化・成長を紹介していきます。また、児童生徒が参画する学校づくりの先にどんな景色があるのかを取り上げていきます。
全校生徒36人の島根県益田市立豊川小学校では、制服着用規定の見直しに取り組んでいます。学校での学びの「実践の場」を地域に展開し、児童がそこに主体的に関わっていけるような仕組みづくりに力を入れています。学校は社会を主体的につくっていくための「予行練習」の場所として捉え、児童たちが自分たちで考えて、試行する経験を大切にしている教頭 田原俊輔さん(以下、田原)に話を伺いました。

益田市立豊川小学校 教頭
田原俊輔
中学校教諭として採用。益田市教育委員会、益田市立高津中学校を経て、2024年度より益田市立豊川小学校に教頭として着任。児童が主体的に考え行動できる仕組みづくりに力を入れる。
ーー現在、貴校ではどのような校則やルールの見直し活動に取り組んでいらっしゃいますか。
田原:2025年度の新年度に向けて現行の制服を着用しても、しなくても良いというルールにしようと考えています。契機としては、新型コロナが感染拡大している状況下で、狭い場所で着替えをしなくて済むように体操服登校にするという動きが、益田市全域でありました。さらにジェンダーの観点からも、制服を多様な形にしている学校があります。そのような背景の中で、そもそも高価な制服が本当に必要なものであるかということを問い直し始めました。
本校でも、以前から制服について話題に上がっていましたが、改めて児童や保護者にもアンケートをとったところ、「無くても良い」という意見が多数出てきました。ただ制服を着用することは否定せず、児童に選択の幅を持たせるようにしていくつもりです。
ーーこういった決定の中に、児童の皆さんはどのように関わっていらっしゃるのでしょうか。
田原:当事者として議論や意思決定の輪に入れるようにしています。制服に関しても、特に高学年に対しては、変に子ども扱いせずに「あなたたちが着る服のことだよね」という意識を大事にしています。
これは、学校の中だけではありません。ここ数年、益田市内では大人と対等にやり取りをしながら、学校外の地域活動に参画する小中高生が増えてきました。活動を通して、大人も子どもたちと一緒に考えて「こういうふうにしたいね」という対等な姿勢を大切にしています。子どもたちも普段から周りの大人に「あなたたちはどう思うの?」と、自分自身の思いや考えを求められることが多いですね。
「こういう風にしたいのですけど、どうですか?」「私はその意見とは違って、こうしたい」と、多様な意見が出てくると話し合いに時間がかかるのでは…という心配の声もあります。ある程度の時間をかけなければ多様な意見や、発言をする機会を創出することはできないということは確かです。
しかし、小さな声にもきちんと耳を傾け、その場の納得解を生み出すということは、大人になれば必ずできるようになるものではありません。傾聴する、折り合いをつけるという「練習」が必要だと思います。ですので、子どもたちから湧き上がる疑問や意見をチャンスと捉え、よりよい日常生活をめざして、大人も一緒に考えています。
小学生の場合、合意形成を図るという前に、まず言葉でやり取りすることが簡単ではない場合があります。小学校3〜4年生ぐらいから少しずつ論理的に、順序立てて話ができるようになりますが、1年生も含めて同じテーマを考えるとなると、児童にとって耳慣れない言葉や、生活に即したところの話でなければ理解しにくく、対話がしづらい。そういった意味で、「自分が着ている服」というテーマは身近で、異年齢でも対話がしやすい話題なのかなと考えています。
また、保護者にも制服についてformsでアンケートを集計しています。今後PTCA(C:CommunityのC)の役員会にも児童、生徒、保護者のアンケート結果を示し、学校としての方針を示していきます。そこで合意形成が得られたら、学校運営協議会でも提案する予定ですね。
ーー普段から児童の皆さんに主体的に考えてもらうために、どんな工夫をされていますか。
田原:特別なことはしていないつもりですが、子どもたちと接するときに、意識していることがあります。それは意識的に「察しが悪い大人」を演じていることです。
例えば泣いてる子がいたり、何か揉めていたりしていたら、 基本的には「どうしたの?」から入りますね。そして、まずは1回受け止めます。そのあとは「どうしたいの?」と聞き、やり取りをくり返しながら、基本的には児童が「こうしたい」と言ったことを、可能な限り「じゃあやってみて」と促し、自己決定を伴う行動になるようにしています。「全然うまくいきませんでした」という反応が返ってきたら、「どこがうまくいかなかったの?」といったやり取りも大切にしています。つまり、私たち大人が「うまくいかないことも学び」だと思っていますし、子どもたち自身にとっても、うまくいかなくても自分で決めたことであれば、納得感もあります。
「自分たちのことを自分たちで変えていける」という意識を、児童に持ってもらうことはとても大切だと考えています。ただ、学校の教育課程内だけではそういった時間はとれません。ですから、地域の方々と協働し、学校での活動を地域に展開できるようにしています。学校での学びを実践する場を学校外に創ってもらい、そこに参加した児童が、体験・発見したことを学校に持ち帰ってシェアする。地域活動の中では、できるようになるまで挑戦させてもらえるので、「分かる」「できる」実感を持つことができます。
そのような活動を通して、「小学生、中学生であっても力なき子どもではなくて、自分たちが変えていける存在である」という自己有用感を得ていくことができるのだろうと思っています。今では、次第に児童のほうから「これって何とかならないでしょうか」「この部分を○○にさせてください」といった意見が出てくるようになりました。
学校は社会に出るための予行練習の場所だと思っています。自分たちでアイデアを出したことがない、自分たちから主体的に行動したこともないのに、突然18歳になった時に社会に放り出されて、「あとは自分たちでやりなさい」と言われても、「どうやるのですか?」となりますよね。まずは自分が考えていることを言えること。「あなたはどう思っているの?」と他者の意見を聞けること。そして、自分がその他者を受容できる素地を、社会に出るまでの学校の中で育てていきたいと考えています。
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ーーこういった活動の中で、児童の皆さんの変化はどのようにお感じになっていますか。
田原:できるかどうか分からないけれど、「これやりたい」と言ってくる子が増えてきました。 「主体性がない」と言われるけど、それは子どもだけの課題じゃなくて、実は大人の関わり方の影響が大きいのかもしれないと思うこともありますね。つまり、主体性が生まれるような関わり方をしてもらってこなかったということです。大人が管理しやすくなるようにルールでがんじがらめにされていると、特に小学校高学年から中学生の思春期は「ルールを守り、叱られない子がいい子がよい」というような価値観になりやすい。できるかどうか分からなくても、自分がいいかもと思っている方向に近づこうとする子どもたちが、もっと増えたらいいなと思っています。
ーー教員の中には児童に任せていいのか、と不安になる方もいらっしゃると思います。そういった立場の方とはどう向き合って来られましたか。
田原:生徒指導を担っている先生がいつも重要な仲間でしたね。基本的にルールで縛るというのは、教員側がルールで縛れると思ってるだけかなと。子どもたちは、学校に来ていない時間のほうが多いので、教員が関われない時間が当然たくさんあります。そうすると、ルールで縛ることよりもより良く生きていくために、自分たちで考えて試行する経験がとても大事になってくると思っています。その上で、「50年前に決まったルールが、今この時代の中で本当に合う形になってるのかどうかを疑いながら、よりよく生きていく資質・能力を身につけさせるためには変えるべきところは変えていく。どういった形がよいのかを、社会にいる仲間として、対等な立場として一緒に考えようというスタンスが取れないですか?」という提案をしていきました。
ただやはり、教員みんな同じ考えになって、「せーの」という一歩は踏めない。最初は5、6人ぐらいの教員で、そういった思考を持って子どもたちと関わっていくと、子どものほうに変化が見えてきます。どんな姿勢で大人が関わってくれているか、子どものほうがよく見ていますから。
ーー児童生徒の皆さんが主体的に考えていくために、我々大人はどんな視点が必要になるでしょうか。
田原:社会に出る前の予行練習という部分で考えると、児童は社会の「後継者」ですよね。だから、主体が大人で、客体が子どもみたいな関係性ではいけないと思っています。そして、大人がため息つきながら嫌々やってるような姿ではなく、大人のイキイキしている姿をくり返し見せる。その中で、児童に選択肢を持って「どうしたい?」と問いかける機会を創っていく。その選択肢が、2つから3つ、4つに増えていくと、より多様な中から選び取るみたいなところができると思っています。
また同時に、やりたいかやりたくないか分からないけれど、とりあえず1回やってみることも大事だと考えています。そういう意味で学校という場所では、好きではないこと(教科や行事等)も、一度は必ず経験することになる。児童の興味の幅や、可能性を広げてあげられるのも学校の役割の一つですよね。ただ、そこにとどまらず、保護者や地域、場合によっては企業も一緒になって機会を創ってあげられると良いと思っています。
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