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生徒も教員も成長しながら、学校中に対話文化を――八王子市立鑓水中学校レポート:後編
対話を通じて、生徒主体の学校づくりに取り組む「みんなのルールメイキング」。2019年の事業開始から5年が経ち、現在は全国430校以上の学校がカタリバとともに活動を行うなど、少しずつ社会に浸透しつつあります。
八王子市立鑓水中学校も、一昨年から取り組みを始めた学校の一つ。生徒会担当教員・小嶋拓也さんにインタビューした前編に続き、今回は同校現場に足を運び、生徒たちの実際の活動風景を見せていただきました。
多くの生徒を巻き込むための問いを自ら考える
同校では、生徒会本部に所属する生徒たちがルールメイキング活動の中心。現在は主に、これまでに実現してきた校則見直しの効果検証や振り返りに取り組んでいます。
日頃の生徒会活動に加えて、2ヶ月に一度、各学年の学級委員や図書・体育・放送など各委員が集まる「中央委員会」が開催され、ルールメイキングを含む学校生活の様々なトピックが議論されます。
12月12日夕方に行われた中央委員会では、生徒会本部がルールメイキング活動の進捗状況を報告。2023年度に改定した、標準服やインナーの色に関する一部校則について、「校則見直しによってルールへの理解度が変化したか」「(規定を変更しても)実際に規律を守れているか」といった全校生徒アンケートの結果や、今後の活動方針が共有されました。
続いて生徒会本部が投げかけた問いは、「ルールメイキングにもっと一般生徒を巻き込むための、身近な話題とは?」。前編記事で担当教員の小嶋さんが語ったように、同校では全校一体でのルールメイキングに向けて、より多くの生徒を巻き込むことを目標としています。この日の中央委員会では、ルールメイキングに関心を持ってもらうきっかけとして、多くの生徒が疑問に感じていそうな校則を出し合いました。
各委員メンバーは「生活の決まり」を見ながら気になる校則を探し、「頭髪規定にある『さわやかな感じ』って何?というのを話すのはどうでしょうか」「コートやマフラーについて、『通学にふさわしい』という決まりがよく分からない」など、抽象的な文言の指す内容をテーマに対話するアイデアが出ていました。
「校則を無くしたい・緩めたい」というよりも、一生徒としての目線を生かし、より生活しやすい学校づくりを目指す生徒たちの姿勢が印象的でした。
自分だけでは気付けない課題があるからこそ
今後のルールメイキングの展開について、生徒会長を務める鄭太理(ちょんてい)さん(2年)は「まだ多くの生徒は(ルールメイキングに)あまり興味を持っていないと思う。でも、自分たちが過ごしやすい学校をつくるためには、自分たちで意見を出す必要がある。より多くの生徒と一緒にルールを考えるために、気軽なイベント形式の取り組みを進めたいです」と意気込みます。
鄭さんは、今秋にメンバーが代替わりした生徒会本部の中で唯一、昨年度からルールメイキング推進に関わっているキーパーソン。
これまでの活動を振り返り、「元々はあまり学校生活に課題も感じていなかったのですが、色んな人と対話する中で自分になかった視点をもらえて。対話しないと気付けない問題意識もあると分かり、多様な視点と意見を集めてみんなでルールを考えることが重要だなと思いました」と心境の変化を語ります。
取り組みへの熱量が高まったきっかけとして挙げたのは、「ルールメイキング・サミット2024」への参加。他校事例に刺激を受けたり、他者の立場を考える重要性を実感したといいます。
特に、サミット内で慶応義塾大学教授の中室牧子さんが紹介した「サンドボックス」(砂場=試行実施できる場所)の考え方には、「現在、鑓水中学校でもインナーの色を白以外も認めるようにルールを変えて試しているところ。このやり方は間違ってないんだと思えました」と手応えを得ました。
サミットを終えて学校に戻った後には「自分だけがサミットに行って学んできても意味がない」と考え、自ら全校朝会で時間を取り、全校生徒に向けてサミットで得た学びや気づきを報告・共有したといいます。
インタビューに応じる鄭さんの姿には、小嶋さんも「ルールメイキングへの想いを、こんなに堂々と、論理的に組み立てて話せるようになっているとは。他の先生にも見せたかった」と驚きを隠せません。
また、同校でのルールメイキング立ち上げの発起人でもある末次哲侍・副校長も、「元々は前に出るタイプの生徒ではなかったが、サミットの最後に全体の場で真っ先に挙手して感想を述べていてびっくりした。他校との交流も経て、生徒たちの主体性が高まってきたと思います」と喜びを語ります。
ルールメイキングを続け、対話文化を全校に
末次さんは2022年度の同校赴任当初から、全校に対話文化を根付かせるための題材として、ルールメイキングを導入しようと考えていたといいます。
同校の課題を「学級や学年全体などで、周囲の課題に気づいて自ら行動する場面がやや少なく、今でも『ルールを変えさせてもらっている』という意識が一部の生徒にあるような気がします。教員の方も、生活指導全般において生徒の自主性を重んじることや、対話を通して指導する姿勢が十分ではない」と指摘。
「そもそも、相手が何を求めていて何を考えているのか?を、生徒同士も、教員も、常に問うべき。校則を変えたかどうかの結果より、この対話の姿勢を全校に定着させたいのです」(末次さん)
さらに現場の教員にも目を向け、「小嶋先生は生徒会活動に際して、ルールメイキングに積極的ではない教員にも粘り強く交渉してくれるようになってきた。ルールメイキングを通して他校事例を知ったり生徒と向き合ったりすることは、教員育成にも繋がっていると思います。私がルールメイキングを引っ張って進めても、異動したら終わってしまうのでは意味がない。鑓水でのルールメイキングや対話の文化がこれからも根付いていてほしい」と期待を込めました。
想いを託される小嶋さんは、「最初はどうすれば良いかも分からなかったが、今年度の活動を通してルールメイキングを進めるためのフローを策定できた。ここまで来られて一安心しています」と手応えを明かします。
「対話にこそ価値があると考えれば、ルールメイキングにもすごく納得感を持って取り組めている。現状、(校則の規定が)多すぎるのも事実なので、時代に合わないものなどは教職員としても削っていきたい。対話的に、共通理解を作りながら全校生徒で取り組んでいけたら、教職員にも生徒にもメリットがあるはず」と決意を新たにしました。
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