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サミットの裏側で、大人も「わかりあえなさ」を乗り越える。全国教員フォーラム・開催レポート
全国でルールメイキングに取り組む中高生100人が一堂に会した「ルールメイキング・サミット2024」が開催された10月13日、同会場(東洋大学・白山キャンパス)では教員向けのイベント「全国教員フォーラム」も同時開催されました。
フォーラムの目的は、ルールメイキング・サミット全体のテーマでもある「わかりあえなさ」について大人の目線でも意見を交わし、教員同士のネットワーキングを進めること。クロストークや参加者同士のディスカッションなどを通して、全国の教員や教育関係者など総勢50名以上が対話に臨みました。
校則は本当に必要か?主体性を保ったまま多くの生徒を巻き込むには?
東京学館浦安高等学校 教諭
久我勇太
千葉県出身、大学3年時に中退、外食産業に約2年勤めると同時に法政大学の通信教育課程を経て教職免許を取得し、現在の東京学館浦安高等学校へ赴任した。
生徒指導部、生徒会担当に1年目から配属。2024年で11年目を迎える。世の中の風潮や、生徒の主張を尊重する風通しの良い学校を目指し、2022年に「ルールメイキング」に出会い、2023年から生徒会の下部組織としてルールメイキング委員会を設立した。生徒の意向を汲み取り、学校全体を巻き込みながら生徒主体の活動を拡大進行中。
大阪府立吹田東高等学校 校長
東知佐子
大阪大学人間科学部卒業後、㈱ベネッセコーポレーションに入社し、高校生のアセスメント開発や大学生のキャリア教育支援に携わり、副部長を務めるなど22年にわたり勤務。学校現場で働きたい思いから大阪府が公募する府立学校の校長に応募。2020年4月より現職。
生徒不在の学校運営に疑問を感じ、2021年度にまずは教員で「主体的に考え行動する生徒を育てる」プロジェクトを開始。2022年度より生徒によるルールメイキング活動がスタート。行事や校則改訂等が実現した。合わせて探究活動の改革や、「得意を生かし価値観を理解し合う教員集団づくり」を実践中。
クロストークに登壇したのは認定NPO法人カタリバの菅野祐太ディレクター、大阪府立吹田東高等学校の東知佐子さん・校長、東京学館浦安高等学校の久我勇太さん・教諭の3人。それぞれ、数年間にわたって学校現場でルールメイキングの動きを立ち上げ、主導してきたキーパーソンです。菅野はまず、会場の参加者に対して「今日話してみたいことを教えてください」と呼びかけました。
すると、愛知県内の中学校で校長を務める参加者からは「ルールメイキング自体が果たして必要なのか。ルールがあると生徒はそこに乗っかってしまい、主体性が育たない。ルールは無くしてしまい、自分たちでTPOをわきまえていけばいいと考えています」という声が。
また大阪府の教員からは「うちの学校では教員は協力的だが、生徒たちを主体的に巻き込むにはどうしたらいいかが話題に上がっています。ルールメイキングが4年目になり、当初頑張っていた子たちが卒業したので、温度感をどう引き継いでいくか」という問題提起もシェアされました。
こうした論点を切り口として展開されたクロストーク。まず、校則が本当に必要なのかという点について、東さんはこう述べました。
東さん「私も赴任当初、校則は必要ないと思っていましたし、今でもそう思います。しかし赴任したばかりの頃、先生たちからは『民間から来た校長が何をするんだろう。まさか校則を無くしたりしないよね』と恐怖感を持たれていたと思っています。今では先生たちもある程度私を信用してくれるようになったとは思っていますが。
また本校は、地域の中堅の学校です。比較的校則が厳しいので、おとなしめの子が多いですが、いきなり(校則を無くして)自由にしたときに、『それは困る』という生徒が多いんです。もちろん主体性を持ちなさいと言いたいところですが、まずは一部の生徒の『この校則を見直したい』という主体性を安心安全に発揮できる場を作り、どんどんその輪を広げていくことで、最終的に『校則なんていらない』と言えるのかなと思います」
一方、主体性を損なわずに、より多くの生徒を巻き込む方法について、久我さんは「私の学校では、生徒よりも私の熱量のほうが高いと思う」と率直に明かします。
久我さん「頭髪の規則が厳しい学校だったので、他の教員たちも疑問を持っているだろうと考えて、私自身が全教員にアンケートを取って回ったこともあります。そこから生徒の意見も聞いて、まずはツーブロックがOKになったのが大きな一歩だったと思います。
私がいつまでも先頭に立つわけには行かないので、生徒にも『自分たちもやらなきゃ』という意識を持ってもらうよう、生徒会から他生徒にルール見直しの報告をしてもらって。するとやっぱり大人が報告するよりも、生徒にとっては身近な動きに感じてもらえたようで、成功体験の一つとなりました」
成功事例から、少しずつ周囲に熱量を伝播していく考え方は、校則の存在意義の議論とも重なります。一方で東さんは、現場の苦悩にも理解を示しました。
東さん「教員の巻き込みはある程度頑張れば(進めて)いけるんですが、生徒の首に縄をつけるわけにもいかないですから、本当に難しい課題ですよね。『校則を変えてほしい』と言っていても、自分がルールメイキングに関わりたいわけではないという生徒もいますし。
本校の場合は、プロジェクトごとに活動を進めていて、まず「やりたい」という生徒が出てきた際に、周囲の生徒がサポート役としてチームを作ります。この形だと、一人の力ではできないことも可能になるし、一人の熱意で周囲のメンバーもがらっと『乗っていく』ようになるので、うまく進んできました」
生徒も教員も、お互いの立場の違いを乗り越えて対話を実現する
フォーラムでは、「大人同士のわかりあえなさ (校則に対する考え方の違い)」にフォーカスした議論も行われました。まず参加者たちが数人ずつのグループごとに意見を出し合います。ある教員からは、「わかりあえないからこそ、校則があるのでは。一人ひとりが目指すものを見えるようにして、すり合わせていけるが、校則が無くなったら、分かりあえなさを乗り越えるためにまた校則を作るような矛盾にもつながるのではないか」という指摘が。
また、「校則といっても、公立中学、公立高校、私学と学校種によって捉え方が全く異なる。校則というマジックワードを、どの立場から考えているかを共有するだけでも、わかりあえなさを乗り越えるヒントがあるのかな」といった声も挙がります。
これを受け、久我さんは、これまでに実践してきた教員同士の合意形成を振り返りました。
久我さん「私の場合は、生徒会からクリスマスに学校の昇降口を装飾したいと頼まれたので許可をもらいに行ったら、最初に相談した先生には『必要ないんじゃないか』と一蹴されてしまったこともあります。でも、校長にも頼みに行ったらOKしてくれて、結果的に生徒の提案は実現しました。ある種開き直りというか、わかりあえない相手とはなかなかわかりあえないので(笑)、さらに違う立場に相談するというのも解決になります」
東さんは、頭髪規定を見直す際に校内で反対を受けたことを、前向きに捉えたことを明かします。
東さん「反対派の中には、校則を変えたくない人もいれば、生徒が苦労せず簡単に物事を変えて良いのか、という考え方の人もいて。結果的に私の学校の場合は校則を変えるのにだいぶ時間がかかってしまったんですが、その経緯の中で生徒は『物事を変えるための方法』を覚えられたとも思うので、反対する人がいてよかったのかなと、ようやく思えました」
意見の衝突自体を避けるのではなく、異なる考えの相手との対話と合意形成を進めていくことが、大人・教員にも求められるようになっています。東さんはさらに、そもそもの他者理解の重要性にも触れました。
東さん「教員全体で、『価値観』についてのワークショップをやってみたんです。カードを使って一人ひとりが大事にしている考え方を可視化していくんですが、『あ、公平性よりも誠実さを取るんだ』みたいなことを話し合えて。お互いの価値観を知ることで、意見の違いを乗り越えることにも、得意なスキルを引き出すことにも役立ったなと思っています」
同時開催されていたルールメイキング・サミットでは、中高生たちも「わかりあえなさ」の解決の糸口を探るため、互いの背景事情や目的の違いを理解し合うことの重要性を話し合っていました。「多数決や説得、強行突破ではなく、全員と合意しながらルールメイキングを進める」という理想の実現は、大人にとっても簡単なことではなく、進め方に特定の正解もありません。
生徒だけでなく大人も真剣に対話に臨んだ全国教員フォーラムは、教員たちも「対話的な取り組みを支えるのは、想像力を持って他者と向き合うこと」と確認しあう機会となり、盛況のうちに幕を閉じました。
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