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【ルールメイキングでつくり変える未来vol.1】NO YOUTH NO JAPAN代表 能條桃子さん
「ルールメイカー」に会いたい━━。
既存の社会規範に対して消極的に追従するのではなく、積極的に向き合い、ときには対話を通して改善を促していく「ルールメイカー」。彼ら彼女らに会い、何を考えているのか、何を感じているのかを知りたい。
ルールメイカーってどんな人なんだろう。
どんな人生を歩んできたんだろう。
何に違和感を覚え、何に情熱を傾けているのだろう。
そんな想いから始まった当企画。わたし、古野香織が「今会いたいルールメイカー」に会い、語らい、その胸の内を知り、感じたことや考えたことを綴っていきます。
今回お話したのは、日本の若年層の政治参加を促進すべく活動している「NO YOUTH NO JAPAN」代表の能條桃子さん。
能條桃子(のうじょう ももこ):1998年生まれ。豊島岡女子学園高等学校、慶應義塾大学経済学部、同大学院経済学研究科修士卒業。日本のU30世代の政治参加を促進する「NO YOUTH NO JAPAN」代表理事。
出会いは2019年。わたしは大学生時代に若者と政治をつなげることを目的とした団体を立ち上げ、活動の中で彼女の存在を知りました。主権者教育を研究テーマとし、政治参加の機運を盛り上げていきたいと思っていた当時のわたしにとって、能條さんはとても心強い存在でした。
あれから数年。お話しする機会はなかなか無かったものの、最前線で活動を続けている様子はずっと見ていました。当企画を始めるにあたり、手触り感のある身近なルールメイカーのロールモデルとして、真っ先に彼女の話を聞きたい。そんな願いが形になり、今回の対談インタビューが実現しました。
ルールメイキングでつくり変える未来の記念すべき第1回。最前線で若者の政治参加に取り組む若きルールメイカーの姿に迫ります。
対個人と対社会の両輪で進める。
古野:お久しぶりです。能條さんの活動はずっと見ていたのですが、なかなかお話しする機会が無く、今回対談が実現して嬉しいです。
能條さん(※以下敬称略):わたしもSNSやネットで古野さんの活動を見ていたのですが、「忙しそうだな」と思ってなかなか声をかけられず、やっと会って話せる言い訳を見つけたというか(笑)。だから今日はとても嬉しいです。
古野さんの根底には民主主義の考え方があり、力や速さ、結果が全てといった合理主義に傾かないところが素敵だなと思っています。また、政治に関する学生中心の団体を見た時に、女性でリーダーシップをとって活動している方ってまだまだ少ない中で古野さんの存在を知ったので、同じ立場の女性としていつも尊敬して見ていました。
古野:そう言ってもらえて光栄です。早速なんですが、能條さんの活動について聞かせてください。
能條:2019年の大学在学中に団体を立ち上げ、現在は以下の2つの活動を行っています。
■「NO YOUTH NO JAPAN」
若者い世代の積極的な政治参加を目指し、若者への啓発と社会の変革といった両輪で活動
■「FIFTYS PROJECT」
政治におけるジェンダー平等の実現を目指し、20代・30代の女性やノンバイナリー、Xジェンダーの地方議員を増やすことを目的に活動
古野:若者の政治参加に対する啓発だけでなく受け皿である社会側に対しても働きかけているんですね。
わたしは練馬区民なのですが、直近の統一地方選挙だと20~30代の投票率が3~4%程度上がりました。地方では国政とは違う景色が見え始めているのかもしれないと感じています。
能條:国政選挙だと、若者の投票率が数%上がっても当落に大きな影響は出ないことの方が多いですが、地方だと全体の投票率が3~4%上がるだけで当選する人が2,3人変わるくらいの影響力があるということがよく分かりました。そういった意味では、自分たちの手で代表を出した感覚が持てる地方選挙の方が効力感を持ちやすいですよね。また、テーマも身近で若者が考えやすいこともあって、最近は地方にとても可能性を感じています。
古野:変革を起こしやすい地方が突破口になり、少しずつ成功体験を積んでいくことで、若者たちが「自分たちで社会を変えていける!」と効力感を持つことができますよね。
能條:そうです。今、株式会社日本総合研究所と一緒に「YOUTH THINKTANK」という取り組みをしています。これまで若者の投票率が低いことは何度も叫ばれてきましたが、その背景に何があるのかといった分析に基づいた施策展開というのはなかなかできてこなかったかなと思っています。そこでわたしたちはU30世代5000人にアンケートを行い、そのクラスターを分析しました。
調査の結果、政治参加への姿勢は、目標を達成するための能力を自らが持っていると認識する「自己効力因子」と政治的・社会的問題への意識の差「問題解決因子」の2軸があり、それらの高低が影響していることが分かりました。
古野:わかりやすい…!「自己効力因子」と「問題解決因子」は「自分たちの行動で社会を変えていける」と考えるルールメイカーの資質ともつながっていますね。
能條:若者たちの自己効力感や問題意識を高めていく必要がある一方で、社会側もそうした若者たちの意欲を削がないように変わっていく必要があると思っています。
これまで多くの政治家と会ってきましたが、若者の将来に対する漠然とした不安感を話しても、「俺たちの時代はもっと大変だった。今の若い人たちは恵まれている」と返されてしまうんですよね。たしかに昔と比べると豊かになったかもしれません。しかし、メンタルヘルスの問題やジェンダーの不均衡など、色んな問題はまだまだ残っているはずです。
これは若者たちが「どうせ自分たちの話なんてわかってくれない」「声を上げても何も変わらない」と思ってしまう原因の一つになるんじゃないかなと思っています。
古野:なるほど。若者への啓発だけでなく、社会への働きかけも同時に行っているんですね。ルールメイキングの活動でも同様に、個人の資質や能力に全てを求めるのではなく、取り巻く環境である一般社会や学校の姿勢も大事だなと感じています。
根底にあるのは、育ててくれた地域社会への恩返し。
古野:日本の既存ルールや法制度に違和感を覚えたとき、海外などの自分に合う環境へ移住する選択肢もあったと思うのですが、なぜ日本に留まって活動を続けているのですか?
能條:わたし自身、とてもパブリックマインドが強いんです。それは、自分が地域社会に育ててもらったという感謝があるから。だからこそ、社会に恩返しをしたいという感情が、活動の基本にあると思います。
また、海外に出る選択をする人もいて、それはそれぞれの判断でいいと思うのですが、仮に自分が今いる環境から出ていけたとしても、家族や友人といった大切な人たちも同じ選択ができるとは限らないじゃないですか。自分が持っている力を何のために使いたいかを考えたとき、わたしは大切な人たちのために使いたいと思うので、それがモチベーションの一つになっていますね。
古野:社会への恩返し、ですか。地域社会に育ててもらった話について、もう少し詳しく教えてください。
能條:わたしは神奈川県の平塚市出身で、小学校の頃から子ども会や市が行っている青少年プログラムに参加していました。野外キャンプをしたり、青少年議会をやったり、姉妹都市の交換留学でホームステイに行ったり……。楽しい思い出がたくさんあります。
それらは市の職員の方々の尽力があってこそのプログラムで、わたしたちと一緒になって考えたり、良きメンターとして関わってくれたりしていました。以来地元への愛着を強く持つようになりましたね。
また、通っていた中学校では自分たちの学校の校則を自分たちで変えていく取り組みがすでにあり、漫画が読めるようになったり、ペットボトルを持ち込めるようになったりと、自分たちの声が日常をつくり変えていく実感を得られる機会が多くありました。
市の方はもちろん、地域の大人たちもわたしたちの活動を本気で応援してくれていて、自分が思っていることを言葉にしたり、やりたい気持ちを引き出してもらえたりする環境で育ったことは、今の自分を形作る上で大きく影響していると思います。
古野:後半の話はまさにルールメイキングですね。自分たちのために本気で頑張ってくれる大人に出会えるかどうかって、とても大事なことだと思います。ルールメイキングもまさにそこを目指していて、子どもたちが学校の中で自己効力感を高められるように取り組んでいます。
対立を乗り越える鍵は「世論」にある。
古野:社会や学校でも、時に意見が対立してしまうこともあるかと思います。能條さんはこれまでどのようにして乗り越えて来たのですか?
能條:ここ数年は国会議員に会って話をする活動を地道に続けているのですが、なかなか話を聞いてもらえないこともあります。国会議員は大多数の世論が無いと動きにくいから、大きな動きをつくろうと思って被選挙権年齢引き下げを求める裁判を起こしたり、派手な動きをすることもありました。
古野:あの裁判にはそういった意図があったんですね。
能條:全ての人が賛成する変革なんて無いですし、わたしは全員が変革に納得することを目指していません。有名な「2:6:2の法則」がありますが、賛成でも反対でもない無関心な6割の人たちをターゲットにし、動かすにはどうするかを考えた結果、世論で動かしていくのが一番良いと思って今の活動をしています。
古野:ルールメイキングでも、数年前から活動を初めて不安の声もありましたが、「生徒指導提要」が改定されるなど今は少しずつ”校則の見直し”などを皮切りに、社会が変わりつつあります。それによって目の前の人が少しずつ変わっていく・動いていくようになっていくと感じています。
能條:制度や文化が人の常識や価値観をつくるので、昔のそうした環境下で育ってきた人たちが今のわたしたちと異なる価値観を持つのは仕方がないことです。変化に対し、不安や抵抗を感じるのも当然のこと。
わたしたちは、新たな取り組みが進んでいる実例を紹介し、それでも社会や学校は壊れないよ、大丈夫だよ、安心してねと伝えていくことが大事ですよね。
古野:ルールメイキングでも、校則を変えたら、その裁量を子どもに渡したら、学校が荒れるんじゃないかといった不安を口にする方もいます。でも、実際ルールメイキングを導入した学校で荒れているところってほとんどありません。
これまで上手くいっていた方法を変えることに対し、不安や抵抗感を覚える人たちとどのように対話を重ねていくかが重要ですし、そこは諦めたくないです。
ポジティブな感情で旗を立て、仲間と一緒に進んでいく。
古野:最後に、この記事の読者であるルールメイカーに伝えたいメッセージはありますか?
能條:既存のルールや社会構造を変えることは1人ではできません。同じ志を持つ仲間を集め、一緒に取り組んでいくことが大事です。
仲間づくりにおいては、怒りや悲しみといったネガティブな感情で人を集めると、後々活動が難しくなります。わたしも過去に経験があるのですが、怒りで集まった組織ってマネジメントが効かないんですよね。だから続かない。変革までの長い道のりを進むには、「楽しい」や「ワクワクする」といったポジティブな感情で旗を立てた方が人はついてきやすいです。
古野:実体験からの学び、ありがとうございます。これからルールメイカーを目指す人たちに対するメッセージはありますか?
能條:まずは声を上げてみること。わたしも最初は自分がこんなに力を持っているなんて思ってもみませんでした。
行動してみて自分の力に気づく。小さな成功体験を少しずつ重ねていくことで、もっともっとやってみようというエネルギーが湧いてくる。こうした正のループに入ると、ルールメイカーとして勢いづくかなと思います。
最後に、ルールメイカーを生むのって環境だと思うんです。社会や会社が声を上げにくい制度や雰囲気をつくっていれば、当然ルールメイカーは育ちません。受け皿である社会や会社が、声を上げやすい土壌をつくっていくのも大事なのではないでしょうか。
古野:たしかに、個人の資質だけでなく、それを引き出し育む土壌も大事ですよね。個人への啓発と社会への働きかけ、その両輪で活動している能條さんだからこそのメッセージだと思いました。
私たちのルールメイキングの活動でも、児童生徒に対するアプローチだけでなく、学校や教職員といった彼らを取り巻く環境への働きかけにも力を入れていきたいです。
長時間に渡るインタビュー対談でしたが、最後まで楽しく深いお話ができて良かったです。ありがとうございました。
能條:わたしもとても楽しかったです。ありがとうございました。
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