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- 「うっせぇわ」替え歌をYouTubeに公開して、校則に問題提起。先生と生徒を巻き込み、プロジェクトを進めるコツは?
「うっせぇわ」替え歌をYouTubeに公開して、校則に問題提起。先生と生徒を巻き込み、プロジェクトを進めるコツは?
山形県立遊佐高校では、生徒も先生も通いたくなる学校を目指して、今年4月から「ルールメイキングプロジェクト」をスタートさせました。ルールメイキングプロジェクトとは、学校の校則やルールを対話的に見直していき、生徒自身が主体的に関われる学校をつくっていく取り組みです。
遊佐高校の取り組みで特徴的なのは、若者を中心にヒットしているAdoさんの楽曲「うっせぇわ」の替え歌の動画を作ったこと。厳しい校則への不満を訴える生徒のリアルな声から始まり、「行動を起こして変えていこう!」という力強いメッセージが伝わってくる内容です。
生徒だけでなく先生も出演しての動画は、どんな風に作っていったのでしょうか?今回は、仕掛け人である遊佐高校ルールメイキングコーディネーターの鈴木晴也さんに、お話を聞きました。
地域おこし協力隊から、ルールメイキングコーディネーターに
鈴木晴也さんは、福島県出身。大学院で数学を専門に学んだ後、地域おこし協力隊として2020年から遊佐町にやってきました。福島から、遊佐町に来たきっかけは「facebookで遊佐高校が廃校になりそうなこと偶然を知ったこと」だそうです。
協力隊として教育委員会の配属になり高校魅力化コーディネーターになった鈴木さんは、遊佐高校の生徒と関わる中で「真面目だけれど、自信がない生徒が多い。なにか違和感があったときは、自分の気持ちを伝えられるようになってほしい」と、生徒に対して思うように。
そんな時に、元々教務主任だった先生から「ルールメイキングに取り組みたいと思うんですよね」という話を聞いた鈴木さん。「めっちゃいいじゃないですか!」と話が盛り上がり、先生や生徒の話し合いに伴走していくコーディネーターを担うことになったそう。
「『これを導入して、生徒たちが自分たち自身で何かを変えていくことで、成功体験が積めるのではないか』という期待を持ちました」と鈴木さんは話します。
廃校の危機も? 学校の魅力PRとルールメイキングを兼ねた企画づくり
遊佐高校は全校生徒数が約70人の小規模校。遊佐町内で唯一の公立高校ではあるものの、子どもの数も減る中、入学者数も減少。2年連続で定員の半分に入学者が満たない場合は、入学募集の停止・廃校になることが決まっていました。
「遊佐高校に子どもたちを呼び込もう」と、町では5年前からPRを開始。毎年地域でPR動画を制作して広報を続けることで入学者が増えたものの、まだ安心できる状況ではありません。
鈴木さんはもう1人の高校魅力化コーディネーターと話し合いを重ね、学校の魅力PRとルールメイキングプロジェクトとがコラボする形で、2021年度の動画制作を進めていきました。
「学校が変化を仕掛けているよ」という対外的なPRはもちろん、生徒や先生に対するルールメイキングプロジェクトへの動機付けの意味もあったと鈴木さんは話します。
動画制作に関わる生徒はチラシで公募し、応募してきた3人で主演、ボーカル、撮影サポートと役割を分担。週3日集まり、放課後の時間をつかって制作を進行していきました。
心配する先生とは1対1で対話。「出演しませんか」と巻き込みも
動画を制作する前の先生達の反応は賛成の方ばかりではなく、少し過激な歌詞の雰囲気に「どうなの?大丈夫なの?」と心配する先生もいたそうです。また、生徒がYouTubeに出演することを心配する声もあったといいます。
鈴木さんは、心配していた先生に対して「もう少しお話を聞かせてくれませんか?」と、誤解を招くところやマズいと感じたところを1対1でヒアリング。自分たちの思いを説明しながら、先生の思いも含めて作りますと話をしたそうです。
また、あまり乗り気じゃなかった先生へは「先生も出演しませんか」と依頼し、出演してくれることに。動画が会話のきっかけを生み、関係性が少しずつ変化していきました。
ルールメイキングのワークショップ準備をしていた時に「ただ教科書を読む授業よりも、生徒自身が学校のことを考える時間の方が成長につながるよね、頑張ってね」と声をかけてくれた先生もいたそうです。
そして、2021年7月に動画を公開。動画は、YouTubeで2ヶ月で4,000回以上、TikTokは35万回以上の再生回数に。中高生が多く再生してくれたようでした。
取り組んでみての感想を先生にも直接聞いてみると、動画に出演した生徒指導部の後藤先生はこう話しました。
「ルールメイキングプロジェクトは、生徒と先生が同じ土俵で対話しながら学校をつくっていく取り組み。こういったことを経験しないまま卒業してしまうと、社会で通用しないのではないか。まだまだ話し合い半ばだが、生徒自身が中心となって遊佐高校の校則を良いものに変えていければいいと思う」
動画を通して、ルールメイキングの意義を感じる生徒も
また、動画制作に直接関わっていない生徒にも、意識の変化がありました。
ルールメイキングプロジェクトメンバーになったばかりの高校1年生のかれんさんは、中学時代の友人に動画を送ったそう。その後のやり取りで、他校に通う友人にも「おかしい、変えたい」と思っている校則があることを知り、自分たちのプロジェクトの意義を感じたと言います。
「校則は自分たちの生活をより良くするためにあるものなのに、校則があることで気持ちよく生活できないのはおかしいと思う」とかれんさんは話しました。
また、ルールメイキングの取り組み自体が、生徒の特技を後押しするきっかけにもなりました。
ボーカルを担当した高校2年生のみはるさん。最初は動画の中で歌うことに抵抗感があったそうですが、「動画にうつるのは別の生徒が担当するし、声のみの出演だから」と言われ、参加を決めました。
今では「友人や家族から”歌手を目指したらいいんじゃない?”と言われた」「今後は個人の活動としてさまざまな楽曲を歌い、YouTubeに公開していきたい」と嬉しそうに話しています。
発言を慣れてない生徒に向けた、フラットで楽しい雰囲気づくり
遊佐高校のケースでは、ルールメイキングに取り組もうと最初に決めたのは学校側。
その中で、生徒の主体性を引き出していくためにはどのような工夫をしたのでしょうか。
鈴木さんに工夫を尋ねてみると、最初に返ってきた答えは「そこがめちゃめちゃ難しいんです」。
「まだ遊佐高校のルールメイキングは途中の段階。生徒たちが意識を持ち始め、芽が少し出てきてはいるけど、主体的にやっているとは言いきれません。今は、プロジェクトへの参加が少しでも楽しくなるよう、チェックインでクイズをやったりアイスブレイクを行っています」
「普段は一斉型の授業も多く、生徒がガンガン発言しているという感じではないんです。発言に慣れていないこともあるし、生徒自身が決定権や選択を大人に委ねているようなところもあります。なので、ルールメイキングの時は意見を言っても大丈夫だよという、フラットで楽しい雰囲気づくりにまずは力を入れています」
学校内で意見を通しづらかったら、外部の人をうまく使ってほしい
最後に、これからルールメイキングを始めたいと思っている学校へのアドバイスも、聞いてみました。
「生徒だけでなく先生の中にも、校則への違和感は少なからずあるはずです。でも、持っている違和感を共有できる人を学校内で見つけるのは難しいこともありますよね。学校の雰囲気にもよりますが、若手が意見を通すのが難しかったりする場合もあると思うので、自分のようなコーディネーターや外部の人をうまく使ってほしいです」
「学校の中だけで意見を戦わせず、ルールメイキングのような機会や外部のコミュニティを使うことで、変化を生み出せることもある。仲間が見つからなかったら、違和感を外に共有してみるといいのかなと思います」
先生や生徒を巻き込む難しさを経験したからこその鈴木さんからのリアルなアドバイス。確かに、学校だけでは変えづらいこともあるからこそ、外部の機会をうまく活用することが、これからの学校には大事なのかもしれません。
遊佐高校では現在、プロジェクトメンバーで見直したい校則やルールについて話し合いを重ね、全校生徒へのアンケートを取ろうとするなど見直しに向けて動き続けています。
生徒が主体となって動くことで、大人では思い浮かばないような柔軟なアイデアが出てくるのもこのプロジェクトの魅力。校則やルールの見直し過程で、これからさらにどのような変化が遊佐高校に起こるのか、楽しみです。
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