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生徒の「できた」を積み上げる。それが生徒の自信、教員との信頼関係に
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対話を通じて、生徒が中心となり学校校則やルールづくりに取り組む「みんなのルールメイキング」。現在は全国430校以上の学校がカタリバとともに活動しています。全国では、さらに多くの学校でルールメイキングが実践され、校則見直しにとどまらない様々な場面で生徒が主体となった学校づくりに発展している学校もあります。
連載「児童生徒主体の学校づくりから見えてきたもの」では、こうした実践の教育的意義をはじめ、教員や生徒の変化・成長を紹介していきます。また、児童生徒が参画する学校づくりの先にどんな景色があるのかを取り上げていきます。
「自ら考え正しい判断ができる生徒」を教育目標の一つに掲げている国立市立国立第三中学校(東京都)。2022年から校則の見直し活動に取り組むと同時に、「カジュアルウィーク」と呼ばれる制服、体操服、私服、どれを着ても良い期間を設けています。生徒自らが考えて校則を見直し試してみることで、生徒たちの「できた」という実績を積み上げていくことを大切にしています。当初から、校則見直しの活動を進めてきた同校の山口 茂校長(以下、山口)に、お話を聞きました。
国立市立国立第三中学校(東京都) 校長
山口 茂
東京都青梅市教育委員会の指導室長を経て、2016年から同校の校長。生徒指導提要の改訂をきっかけに、校則の見直し活動に取り組んでいる。
ーー国立第三中学校では、いつから校則やルールの見直しに取り組んでいるのでしょうか。
山口:2022年度に生徒指導提要が改訂されたことがいちばんのきっかけです。本校の教育目標の一つが「自ら考え正しい判断ができる」こと。こういった自己指導能力を身につけさせる経験の必要性を感じました。そのために何ができるかを考えた時に、本校の校則でも「時代にそぐわない」と思うものがあり、私から生徒会に校則の見直し活動を提案しました。
ーーどんなふうに取り組んだのですか。
山口:まずは、各学級で「校則は何のために必要なのか」を考え、話し合ってもらう時間を設けました。ただ「校則を変える」だけでは、「あれも変えたい、これも変えたい」となってしまう。そうではなくて、校則がある価値、理由をしっかりと検討してほしいと思いました。
その上で、各学級でどんな校則を見直したいか、対話を通して考えてもらいます。その後、生徒会役員や各学年の学級員、各委員会の委員長、教員で構成させる校則検討委員会に上げ、そこでどの提案なら実際に見直しができるのかを考えていきます。最終的には、校則検討委員会から校長である私に提案し、承認するという流れにしています。
ーー実際には、どんな校則を見直したのでしょうか。
山口:例えば、昨年は「体操服のシャツを出すか出さないか」を検討しました。出すとどうしてもだらしなく見えるので、今までは教員たちはズボンの中にシャツを入れるように指導していました。「シャツを出しても良いじゃないか」と思った生徒たちは、「25度以上の日はシャツを出してもよい」というルールを提案してきました。暑い日にはシャツを出すことで涼しくなると考え、「25度以上」と設定した生徒の視点がおもしろいですよね。
ーー自分たちなりの妥当性を考えたのですね。一方で、校則を変えることで「風紀が乱れる」という声はなかったのでしょうか。
山口:実はそういった心配は私にもありました。ですので、一旦生徒たちが考えた通り1年間やらせてみることに。そしたら、シャツを出したからといって生徒たちが不良になる、風紀が乱れるといったことは一切なかったのです。これは、自分でつくったルールを「しっかりと守ることができた」という実績を、生徒自身の手で作ったということになります。
1年間やってみて教員たちの中でも「こうあるべきだ」という考え方から変化してきたと感じています。本校の教員は生徒を思うあまり、校則が変わることに対し「生徒たちの健全育成上良くないのではないか」と悪いほうに考える傾向があったように感じます。でも、こういった校則見直し活動を通して、校則が変わっても「問題ない」ということに気づけたのです。これは生徒たちも同じです。
生徒たちの実績を少しずつ積み重ねていくと、教員側にも「できたじゃん、じゃあ次はもう少しやってみようか」と生徒への信頼が生まれ、次のステップに向かうということになっていきます。こういった信頼関係の構築は重要だと思っています。
一方で、生徒たちから上がってくる提案の中には、「これはちょっとまずいのではないか」と思うこともあります。その場合は生徒に考えた理由を聞いた上で、こちらでも承認できない理由を説明します。その上で「来年の様子を見て、やはり校則を見直したいと思ったらまた来年やってみて」と伝えています。
ーー体操服は今年もさらに見直したのですね。
山口:そうなのです。昨年問題がなかったので、今年も見直してもっとシンプルに。体操服での登校が認められている期間は、25度以上に関係なくシャツは出しても良いとなりました。
また、本校では2022年から「カジュアルウィーク」を設けています。この期間は、制服、体操服、私服、どれを来ても良いことになっています。「今日はどんな服を着ていこうかな?」と思うこと自体が、自ら考えるということ。生徒たちは小学校の時は私服なのですが、中学校に入ると制服を着ることが当たり前になってしまって。始めた当初は、制服以外の服を着る子は2割ほどでした。でも徐々に「自分で何を着るかを考える」に慣れ、制服ではない服装をする子が増えました。
もう一つ、こういった機会があることで、生徒たちに相手のことを尊重する力が生まれました。みんな制服なのに、自分だけが違う服装をしていても、それは「相手の個性」として見られるようになっていったと感じています。
実は当初、「何を着ても良い」となると個性的な服装をする生徒に対して、いじめが起きるんじゃないかと心配していました。ただ、この取り組みをメディアで何度か取り上げていただいたんです。そうしたら、自分たちのやっていることは間違いじゃない、社会の中で認められている、と生徒たちは感じたのでしょうね。いじめは一切起きませんでした。これは予想外の追い風でしたね。
校長 山口茂さん
ーー学校全体で変化はありましたか。
山口:これまでは生徒たちの間で「決められたルールは守る」という考え方でしたが、「自分たちが参加して見直した校則を守ろうよ」という意識に変わってきたと感じますね。教員の指導の仕方も「それ校則違反じゃないか、決められたものは守りなさい」という言い方から「みんなで決めた校則じゃないか。どうして守れないのだろう?」と問いかけるような指導の仕方に変わってきました。
生徒たちの中でも「自分たちが校則を変えることができる、見直していける」という意識が芽生え始め、生徒会活動に参加したい生徒が増えてきましたね。
ーー今後についてはどのように考えていますか。
山口:私は、持続可能性は生徒たちにあると思っています。公立学校の教員はどうしても異動があります。でも、生徒間では教員よりも先輩への憧れや親しみが強いため、先輩から後輩へと繋がっていきます。だからこそ、「あの先輩が今年こんなことに取り組んでいたから、来年は私たちがこれに取り組んでみよう」というようになっていけばいいなと思っています。そのために教員は、子どもたちが主体的に取り組んでいける仕掛けをつくっていくことが大切だと考えています。これから本校の校則がどんなふうに変わっていくのか、とても楽しみです。
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