自治体発の取り組みを校内で実践する。つくば市立島名小学校へのインタビュー

学校事例

みんなのルールメイキングは、各学校のルールメイキング活動を個別にサポートするだけではなく、自治体と連携した普及にも取り組んでいます。

2023年度は茨城県つくば市で「幸せな学校づくりに向けたルールメイキング」をテーマに、つくば市教育委員会と連携して市内学校でのルールメイキングを支援しています。

ルールメイキングカタリバつくば市島名小学校

つくば市立島名小学校は、児童が主体となってICT端末に関するルールメイキングに取り組んできました。全国でも小学校のルールメイキングの事例は希少であり、つくば市主催のプレゼンテーションコンテストでも高く評価されました。

今回のインタビューではルールメイキングを担当する宮本先生に、自治体の呼びかけではじまった取り組みをどう校内で展開していくのかについてや、「正しさ」だけでルールをつくろうとしない大切さなどについて語ってもらいました。

児童と始動し、先生たちを徐々に巻き込む

ルールメイキングカタリバつくば市島名小学校

カタリバ:ルールメイキングをはじめた時期やきっかけを教えてください。

宮本先生:はじめた時期は昨年の6月頃です。私は校内のICT推進委員を務めており、つくば市とカタリバが開催した、持ち帰りGIGA端末に関するルールメイキング研修に出席したのがきっかけでした。

カタリバ:研修に参加し、どのような印象を持ちましたか。以前から課題意識があったのでしょうか。

宮本先生:元々つくば市は特別活動に力を入れており、子どもたち自身が自治的に学校生活の楽しさや規律をつくることを目指していました。一方で、基本的ではありますが、児童が主体的に委員会やクラブ・係をつくっていくことに難しさを感じていました。ですので、つくば市によるルールメイキングの呼びかけを聞いたとき、いよいよ本腰を入れて取り組むのだなと思いました。

カタリバ:自治体発の取り組みという点で、学校現場で実行する際に苦労はありましたか。。

宮本先生:はじめは、ルールメイキングを先生たち全員でやっていこうとする雰囲気は十分ではなかったのが実情でした。ルールメイキング自体をよく知らない先生たちがほとんどだったので、基本的には研修を受けた私が中心となってはじめました。

カタリバ:それから、どのようにして先生たちを巻き込んでいきましたか。

宮本先生:私が「ルールメイキングを一緒にやりましょう!」と大々的に呼びかけてどんどん進めてしまうと、先生たちは忙しいですし、十分な理解を得ることは難しいのではないかと考えました。そのため、まずは子どもたちと活動をはじめ、徐々に先生たちに参加してもらうことにしました。

先生たちには「ルールメイキングってこういう活動なんだ」「今までやってきたことに少しプラスすることでできるんだ」と感じてほしいと思いながら、少しずつ協力してもらいました。結果として、新しいルールができるころには、大多数の先生たちの理解を得られていたかなと思います。

「正しさ」だけでルールをつくらない

ルールメイキングカタリバつくば市島名小学校

カタリバ:ルールメイキングが始動したころの様子を教えてください。

宮本先生:はじめに私が担当している5年生の中から「ルールメイカー」と呼ばれる実行委員を決めました。そして、学内でのパソコン利用の課題を把握するために、ルールメイカーたちがFormsでアンケートを作成し、各学年で実施しました。アンケート結果は先生たちにも共有し、活動の様子を知ってもらいました。

カタリバ:アンケート調査後、どのように活動を進めましたか。

宮本先生:アンケート調査の結果、各学年ごとに課題が見つかりました。授業中に隠れてYouTubeを観ていたり、チャット機能を使ったりというような、つくば市のICT使用ルールにそぐわない利用も見受けられました。もちろん、これらは良いことではありませんが、一方でそのようなことをしたい子たちの気持ちも理解しなければと考えました。

実は、ルールメイカーはあえて、周りがよく見えてルールもしっかりと守りたい児童とそうでない児童の両方にお願いしていました。こうすることで、課題を整理する際に「でもYouTube見たいもん」「休み時間ならゲームしてもいいじゃん」といった子どもの本音も理解できました。

カタリバ:多様な思いを取り入れるということですね。

宮本先生:正しさだけでルールをつくってしまうと、子どもを活動主体とする意味がなくなるのではと思いました。そのため、子どもたちが本音で語り、プラスとマイナス両方の意見を受け止めたうえで判断する流れをつくろうと意識しました。実際、それぞれの考えを伝え合うだけで20分間の活動時間が終わることもあるほどでした。

「だって使いたいじゃん」という声が上がったら「じゃあなんで使いたくなるんだろう」と対話を深めていきました。当初、子どもたちは考えを口に出せないこともありましたが、段々と話し合いを掘り下げていく楽しさが生まれてきました。

「みんなの幸せ」を指針としたルールづくり

ルールメイキングカタリバつくば市島名小学校

カタリバ:始動当初は、先生が先頭に立って進められたそうですが、子どもたちのオーナーシップはどのように生まれましたか。

宮本先生:カタリバが夏休みに開いたワークショップが一つの契機でした。そこではルールのつくり方を学びました。ルールをつくるというのは、ルールを変える・増やす・減らすということを含んでいると。また教育長の「今あるルールを確認するということもルールメイキングの一つである」という話もありました。

これらを受けて子どもたちは「これまで新しいルールをつくれば良いと考えていたけれど、必要でないものを減らしたり、改めて考えたりすることも、ルールをつくるということなんだ」と認識したようです。

さらに、カタリバからの「ルールはみんなが幸せになるためにある」という言葉も児童たちにはとても印象的だったようです。それ以降「みんなを幸せにするためにがんばろう」という姿勢に変化したと思います。

カタリバ:つくば市が毎年主催しているプレゼンテーションコンテストの動画でも、「幸せって何だろう」というトピックに触れていましたが、そういう背景があったのですね。

宮本先生:そうですね、長い時間をかけて児童とともに幸せとは何か、たくさん対話をしました。そして、秋ごろには子どもたちなりに考えた幸せの定義がいくつか出てきました。これがルールづくりの指針となり「だからこういうルールが必要/不要」と判断できるようになりました。

「私もルールメイキングやってみたい!」刺激になったルールメイカーたちの存在

ルールメイキングカタリバつくば市島名小学校

カタリバ:ルールメイキングによってどのような変化がありましたか。

宮本先生:一番の変化はルールメイカー同士がとても仲良くなったことでしょうか。最近は活動がひと段落し、集まる機会が減っていたのですが、先日久しぶりに活動した際には、休み時間が無くなるにも関わらず「また一緒に活動できる!」と喜んでいました。

二つ目に、考え方が柔らかくなりました。いろいろな考え方があることを受け入れられるようになり、柔軟な対応ができるようになっていると思います。

カタリバ:校内への影響はどうでしょうか。

宮本先生:ルールメイキングにあたり、みんなの意見をまとめて発信する主体が、子どもたち自身だということが刺激的だったようです。例えば、ルールメイキング集会で、ルールメイカーが仮案を発表した際、他の児童たちは「同級生のルールメイカーたちが考えて、発信しているんだ」と驚いていました。私のクラスでは「私もやってみたい」とうらやましがる児童もいました。

カタリバ:一連の活動を経て、新しいルールはできたのでしょうか。

宮本先生:仮案に寄せられた児童たちのさまざまな質問や、保護者・管理職の意見をもとにブラッシュアップしました。その後完成したルールを発表し、各教室に掲示しました。現在はそれに沿った生活を送っています。

カタリバ:宮本先生ご自身がルールメイキングに関わったことで起きた変化や影響はありますか。

宮本先生:私はシチズンシップ教育に関心があり、担当している社会科の授業でも「社会参画」をテーマにしてきました。今回のルールメイキングを通じて、自分を取り巻く環境を主体的に変えようと働きかけるには、活動の基盤が大切だと実感しました。例えば、「ルールは幸せになるためにあって、幸せとは○○だ」という前提だったり、多様な考えを受け入れることなどが挙げられます。

カタリバ:今後のルールメイキングの展望を教えてください。

宮本先生:来年度、本校は2校に分離しますが、両方で今回の新しいルールを適用していく予定です。また、ルールは環境や子どもたちの成長に応じて変化させる必要があると思います。そのため、計画段階ではありますが、引き続きルールメイキングに取り組むための委員会をつくりたいと考えています。

カタリバ:最後に、学校づくりに関して先生が挑戦してみたいことがありましたら教えてください。

宮本先生:生徒会選挙にあたって、政治のように子どもたちが目指す学校像を公約としたグループをつくり、学校づくりを進めていくこともおもしろいのではないかと思います。そうすることで、学校が民主主義の場になり、より児童が主体になるのではないでしょうか。

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