みんなのルールメイキングが考える、大人も子どももエンパワーメントするルールメイキング。

お知らせ

インタビュー

 今年度で立ち上げから5年目となるみんなのルールメイキング。既存の校則やルールを題材に、生徒が中心となって関係者との対話を重ね、納得解をつくることを通して、課題発⾒・合意形成・意思決定をする⼒を高めていく取り組みです。

 2022年度には文部科学省が定める「生徒指導提要」が12年ぶりに改訂され、生徒の意見を取り入れた校則見直しの必要性をはじめ、子どもの権利についての記述が盛り込まれるなど、「ルールメイキング=生徒を中心にした対話的なルールづくり」は社会に少しずつ広がっています。今回は、全国の学校現場の支援や取り組みの価値発信に関わるカタリバメンバーを招き、ルールメイキング事業の現在地や、今年で3回目の開催となる「ルールメイキング・サミット2024」への意気込みを聞きました。

藤本雅衣子 (ふじもと まいこ)

認定NPO法人カタリバ みんなのルールメイキング事業責任者

藤本雅衣子 (ふじもと まいこ)

1993年生まれ 愛知県豊田市出身。大学卒業後、ベンチャー企業にて医療・介護人材の人材紹介派遣事業に従事。1000人以上の転職・キャリア面談を受ける中で、将来に意欲を持てないことや、自身の生き方・働き方を自己決定することに難しさを抱える人の多さに課題を感じ、2021年5月よりカタリバへ転職し、みんなのルールメイキングに携わる。ルールメイキング・サミット2022 立ち上げを担当し、同イベント2023でも運営統括を担う。2024年4月より現職。また、東京都内の児童相談所にて「子どもアドボケイト」として活動し、子どもの意見表明支援に取り組む。

佐藤宏亮(さとう こうすけ)

認定NPO法人カタリバ みんなのルールメイキング職員

佐藤宏亮(さとう こうすけ)

1992年生まれ、愛媛県松山市出身。専門学校卒業後、旅行会社へ就職。しばらく働いた後に、英語を極めるためニュージーランドへ。帰国後は東京の専門学校で研修旅行の取りまとめやカリキュラム作成、教材開発を行う。その後、情操教育を専門とする教育コンサルティング会社での勤務を経てカタリバへ。ルールメイキング事業で広報活動や、ルールメイキング・サミットの企画・運営、地域共助の拡大を目指した地域パートナーとの連携や戦略立案・分析などを行っている。

教員同士が繋がり、お互いに学び支えあうコミュニティ

―よろしくお願いします。ルールメイキングが全国の学校現場に広がりつつある中で、カタリバとして取り組む課題も変化してきているのではないかと思いますが、どのように現状を捉えていますか。

藤本:ルールメイキング事業が始まったのは2019年。当時は、校則を見直すという取り組み自体がハードルが高く、カタリバと一緒にルールメイキングに取り組みたいと手を挙げてくれる学校はほとんどありませんでした。「ルールメイキング・パートナー」制度は私が立ち上げを担当したのですが、最初の3か月くらいは登録が全く来なくて。「日本中に、(ルールメイキングを)やりたい学校は無いのかもしれない」と絶望していました(笑)

 でも、その後は年を追うごとに参加してくれる教員・学校が増えています。生徒指導提要の改訂など社会の後押しもあって、2024年5月にはパートナーが400校を超えました。初期にパートナーになってくれた学校の教員が、現在は「教員アンバサダー」として活動していることも考えると、「諦めなくてよかったな」と思います。

 

佐藤:私がカタリバに入職して、みんなのルールメイキングにジョインしたのは昨年(2023年)の2月でした。2023年度だけでもパートナーが170校増えたので、ぐっと広がりを感じることができた1年でした。当初は理不尽な校則を撤廃する活動としてルールメイキングに関心を持つ方も多かったのが、「学校をより良くしていく」という未来への想いで取り組む学校が増えてきたのではないかと感じます。

藤本:事業体制としても変化がありました。2019年~2021年の事業立ち上げ当初はカタリバメンバーが一校ずつ直接サポートする体制で、私たちが直接学校に行って、生徒や教員の対話や会議の場に出席するなど現場のコーディネートをしたり、オンラインを活用してルールメイキングの進め方の相談を受けたりしていました。でも、想いを持っている教員が学校内で孤軍奮闘の状態になり、次第に「火が消えてしまう」事例も目にするようになって。せっかくカタリバに連絡をくれたのに、他の教員の協力が思うように得られなかったり、同じ思いを持つ仲間が集まらず、泣く泣く取り組みを中止するという報告を受けたこともありました。

 

佐藤:学校現場の仕事の複雑さで起きる「ジェンガのような状態」が原因の一つかもしれません。やるべき業務が複雑に絡み合っている中で、校則も見直していこうとすると、保護者や地域住民への説明をどうするのかや、教員同士での生徒指導のあり方のすり合わせ、誰が校則見直しを担当するのかという教員間での分担など、校則見直しに紐づいて調整しなければならない事項がでてきます。

ただでさえ多忙な学校現場に精いっぱい向き合っている教員にとって、ルールメイキングに対して不安な気持ちが勝ってしまうのは、仕方ありません。

 

藤本:子どもたちと一緒にルールメイキングに取り組みたい、校則に疑問があって見直したいという想いを持った教員はいます。でも、取り組みを継続することに難しさがあることに課題を感じます。そして、私たちカタリバが直接繋がって支援できる学校の数にも限界がでてきますし、普段は学校現場にいない私たちでは分からないこともあります。次第に、必要なのは「教員同士が支えあう」ことではないかと考えるようになりました。そこで、カタリバがハブとなって、近しい境遇にいる教員同士が繋がれるコミュニティを作り、教員をエンパワーメントしようという方向にシフトしていきました。

 

ルールメイキング・サミットでの教員同士の交流の様子

佐藤:学校現場にいる教員から直接事例を聞くことで、自分自身が置かれている境遇や悩みを共有できるし、より踏み込んだ議論が生まれると感じますね。何より、「先生は1人じゃないですよ」というメッセージを伝えたいです。実際に、ルールメイキング・パートナーに参加した教員の方から「ルールメイキングのコミュニティは、職員室以外のもう一つの居場所」と言ってもらえたことも印象的でした。

 

藤本:「先生って本当にすごいな」って思いますよね。目の前の子どもたちのために「こうしてあげたい」「これをやったら面白い」と考えて、実行する力。尊敬しかありません。こういった方々の協力と努力があるから、私たちがカタリバとしてルールメイキングの価値や意義を自信をもって発信できているのだなと感じています。

―みんなのルールメイキングとして、今後挑戦していきたいポイントはありますか?

藤本:ルールメイキング事業が最終的に目指すのは、校則が見直されることとか、理不尽な校則が無くなることではありません。対話的な合意形成を通じて、自分の周りの身近な社会を、自分でより良くしていける「ルールメイカー」が増えることです。校則を題材として、学校現場で対話的に合意形成する経験を積むことで、ルールメイキングが多くの子どもにとってユニバーサルな体験となるのではないか、と私自身は考えています。

でも、まだまだルールメイキングは社会に完全には浸透していません。誰にとってもルールメイキングすることが当たり前になるにはどうしたらいいのか、事業担当者として考え続けたいです。

 

佐藤:校則見直しに取り組む学校は増えていますが、「理不尽な校則の一斉撤廃」というプロジェクトになったり、教員が中心となって改訂を進めたりするなど、子どもの意見が十分に反映されていない取り組みもあります。もちろん、それも大切なのですが、ルールメイキングの本質である、生徒が中心となって教員や保護者、地域の方との対話を通じて納得解をつくるプロセスそのものを、もっと全国に浸透させていきたいと感じています。

仲間と出会い、エネルギーを持ち帰るための「サミット」

―今年度の「ルールメイキング・サミット」の参加申し込みも解禁されました。これまで2度の実施を経て、サミットの意義をどう考えていますか?

藤本:サミットは2022年度が初回でした。校則を変えたという成果を競い合う場ではなく、まずは「ルールメイキングに取り組んでいる現場、関わっている子どもと教員はこんなにいるんだ」ということを可視化して、社会に発信しようと考えたことが立ち上げの背景です。

 

佐藤:その初回は私がカタリバに入職する前のタイミングでしたが、一般観覧としてオンラインで参加していました。地元の愛媛県の学校が参加していて、「どんな地域でもルールメイキングはできるんだ」と勇気をもらえたからこそ、自分が今ここにいるなと感じます。

藤本:22年度は、新たにパートナーになりたいという学校も含めて17校180人の生徒が参加してくれたことが手ごたえでした。どの学校も精一杯に自分たちの実践から学んだことを発信してくれ、堂々とした生徒の姿に勇気をもらいました。ただ、どうしても「各校の代表生徒が取り組みの概要を発表する」という場になってしまい、画面の向こうには、発言機会が回ってこなかった生徒がいたんじゃないかということが、心残りでもありました。

サミットの創り手として、ルールメイキングが大切にしている「対話」が本当にできる場だったのだろうか、とサミットが終わってから何度も自問自答しました。

 そこで2023年度では、代表生徒が学校の取り組みを発表する形式ではなく、参加生徒全員が1人1人の等身大の思いを共有する「100人100物語ピッチ」を実施しました。

 

佐藤:23年度は、私たちカタリバメンバーが事前に参加生徒全員と対話し、「自分自身がルールメイキングを通じて叶えたいこと」の言語化からお手伝いしましたね。

 当日、似た境遇の子どもたち同士が仲良くなっていたり、「仲間がいることが分かった」「もっと色んな子に参加してほしい。次は、自分の学校の他の友達も連れてくる」といった感想が出てきたりしたことが印象的です。

ルールメイキング・サミット2023の様子

子どもも大人も、ルールメイキングの仲間となる場に

―改めて、今年のサミットはどんな場にしたいと考えていますか。

佐藤:サミットはルールメイキングの取り組みのゴールではなく、参加する子どもたち一人ひとりがルールメイキングで実現したいことに近づくための学びのプロセスです。全員が安心安全に本音を話せて、お互いに刺激を与えることで「気付き」や「問い」を持ち帰れるような場にしたいです。

 

藤本:子どもたちは、サミットを終えてからの人生のほうが圧倒的に長いですからね。たった数時間ではありますが、あの場所で聞いたこと、出会った人、得たものが、明日からの糧になってくれればと思います。

 教員の孤立の話もありましたが、校内で活動する生徒も、同級生から後ろ指をさされることもあるし、エネルギーやモチベーションが消耗してしまうこともしばしばです。だから、サミットという少し日常から離れた場所で「自分の気持ちに共感してもらえた」「もやもやしていることを正直に言えた」という経験を通して生徒をエンパワーメントしたい。そして次は、その生徒が参加しなかった生徒にも熱量を伝えて、ルールメイキングの仲間を増やす存在になってくれたら嬉しいです。

 

佐藤:大人側への伝播も大切ですね。ルールメイキングの取り組みを応援してくださる企業の方にもボランティアで参加していただいており、「ルールメイキングって大事だよね」と共感してもらえる場になると嬉しいですね。そして、「今の子どもはこんなことに取り組んでいるんだね!すごい!」とエールを送っていただくだけではなく、自分たちも子どもたちと同じルールメイカーとして奮闘する仲間として関わっていただきたいです。ルールメイキングは学校の中だけのことではなく、社会全体のために必要なもの。子どもだけでなく、大人にとっても重要です。世代を超えて、一緒に取り組む「ルールメイキング仲間」がもっと広がるきっかけにしたいですね。

藤本:学校現場の大人で言えば、去年のサミットでは教員の方々がすごく楽しそうでした。サミットのオリジナルTシャツを作ってくる方もいて(笑)。

ルールメイキングは難しい場面にもたくさん遭遇するし、一筋縄ではいかないことも多いです。でも「ルールメイキングって楽しい、面白い」ということが参加者に伝わって、大人もこどもも「自分でもやってみたい」と感じてもらいたいです。

 

佐藤:楽しむ気持ちは大切ですよね。つい、「サミット」と聞くと成果を発表する「大会」という印象を持たれがちですが、校則を見直すための技術やノウハウを知るだけではなく、仲間と出会うことでお互いをエンパワーメントしながら、ルールメイキングを通じて生まれた問いを深め、明日につなげていくスタートの場でもあります。ルールメイキングに少しでも興味・関心があれば遠慮なくエントリーしてもらえたら嬉しいです。

ルールメイキング・サミット2023の様子

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