外部からの視点を取り入れた校則づくり 「社会に通用する」を自問自答していく

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対話を通じて、自走生徒が中心となり学校の校則やルールづくりに取り組む「みんなのルールメイキング」。現在は470校以上の学校がカタリバとともに活動しています。全国ではさらに多くの学校でルールメイキングが実践され、校則見直しにとどまらない様々な場面で児童生徒が主体となった学校づくりに発展している学校もあります。
連載「児童生徒主体の学校づくりから見えるもの」では、こうした実践の教育的意義をはじめ、教員や児童生徒の変化・成長を紹介していきます。また、児童生徒が参画する学校づくりの先にどんな景色があるのかを取り上げていきます。

2023年度から校則などの活動見直しに取り組む群馬県立前橋南高等学校では、独りよがりな校則やルールにならないように、地元の企業や大学への聞き取りを生徒たちが行っています。外部からの視点を大切にした取り組みについて、生活委員会の顧問を務めた教員 髙田慧さん(以下、髙田)に、お話を聞きました。

髙田 慧

群馬県立前橋南高等学校 教諭

髙田 慧

2020年4月に前橋南高等学校に着任し、校則の見直し活動をしている生活委員会の顧問を担当。外部の視点も大切しながら、校則やルールづくりに取り組む。

ー前橋南高校では、2023年度に群馬県教育委員会から、生徒のAgency(自分と社会をより良くしようと願う意志、原動力)』を重視し、『自ら考え、判断し、行動できる生徒の育成」を目指す「 Student Agency High school」(以下、SAH)に指定されたことがきっかけで、校則の見直し活動が始まったのですね。

髙田:はい、それが大きなきっかけです。SAHの指定校になるときに、教員の働き方改革も合わせて推進していくことになり、学校側の取組の一部を教員主体から生徒主体に変えていこうという話になりました。本校では、頭髪や身だしなみのチェックを定期的にやっていました。学期の始めに生徒全員が廊下に一列に並んで、教員が頭髪や服装の乱れなどをチェックしていました。

 同時期に、生徒会の投書箱に「頭髪に関する校則の中で抽象的なものが多すぎる」という意見が入っていて。生徒手帳には、髪型は「標準型」と記載されていて、何を指すのか分かりづらかったんです。本校は開校して来年度で50周年を迎えますが、一度も校則は改訂されていなかったようです。生徒からのこうした意見も、見直していく活動の後押しになりました。

ー髙田先生は当初からこの活動の担当になられたのですか。

髙田:はい。どこでその見直し活動を担うかという話になったときに、生活委員会がやるのが良いのではないかということになり、管理職も含むコアな教員のメンバーの中から、当時委員会の顧問だった私がやることになりました。

 最初は生活委員会の生徒を集めて、校則について思っていることを率直に挙げてもらいました。「厳しい」「文言が分かりづらい」という声もあれば、「このままで良い」という声もありました。ではどういう文言が校則に書かれていれば、生徒たちが主体的に「考えよう」と取り組んでいけるだろうか。それをテーマに、文言を生徒たちに考えてもらいました。
 具体的な文言を考えてくる生徒もいれば、抽象的な表現をする生徒もいたのですが、どの意見にも「清潔感のある」「社会に通用する」といったキーワードが共通して見られました。ただ曖昧な言葉ですので、自分たちだけでルールをつくると独りよがりになります。そこで、生徒たちが自ら大学や企業計5カ所に直接訪問したり、メールを送ったりして、ご意見をいただきました。

生徒たちによる地元の企業への聞き取りの様子(同校提供)
生徒たちによる地元の大学への聞き取りの様子(同校提供)

 話を聞いてみると、社会の中では校則のような決められたルールはないということが分かりました。ただ、企業であれば社員一人一人が会社の責任を負っている中で、誰もが「会社の看板に泥を塗らない」、「お客様を不快にさせない」と思えることが重要だと認識されていることも、実際に訪問してみて分かったことです。

ーそれを理解した上で、文言づくりに取り組まれたのですね。

髙田:はい、社会での認識と生徒たちの中にある認識にズレがないことが分かりました。身だしなみのルールの文言を具体的に肉付けしていく作業は、生徒たちが自ら行いました。途中から生活委員会のメンバーだけでなく、生徒会や有志も加わって30人ぐらいのメンバーで考えていきましたね。

生徒たちが具体的に考えた身だしなみの新ルール(同校HPより)

 その結果身だしなみに関する新ルールの中で、例えば頭髪に関しては、「清潔感のある髪型」ー自分で「清潔感のある髪型」について考え、判断しようーといった文言を記載しました。生徒たちの非認知能力を高めるために、一人一人が「これで良いのか?」と自問自答することが大切だと生徒たちは考えたのだと思います。

 定期的にあった教員による指導もなくなり、生徒たちはセルフチェックすることになりました。実際に生徒たちにアンケートをとってみると、頭髪チェックを気にせず「髪の毛を切るタイミングを自分で決められるようになった」などといった回答がありました。

全校生徒への新ルールの報告(同校提供) 

 本校では、校則やルールは毎年見直していくことを大切にしており、今年度は整髪料と化粧に重点を置いて取り組んでいます。昨年度の企業訪問の中で得たヒントである「社会で通用する」ということを考えた時に、社会に出ると化粧をするということがマナーになっていることが多く、それに従うのであれば学校でも化粧しても良いのでは?という声が出てきたからです。今後生徒たちは昨年度とは違う企業を訪問し、ご意見をいただこうと思っています。

ーこういった活動を通して、生徒たちから感じられる変化はありましたか。 

髙田:生徒の変化は数値化できるものではないのですが、生徒たちから教員に対して「やってみたい」と言いやすくなってきたなという実感はあります。例えば、校内に今年度アイスクリームの自動販売機が設置されました。これを提案したのは生徒で、企画書作りや管理職や教員たちへのプレゼン、アイスクリームの企業への聞き取りや先行して設置している学校へのインタビューなども行いました。最初は反対している教員もいましたが、今では受け入れられてきたと思います。

 また、1年次に学年で行っているスキー教室を2年次にも行ってみたらもっと上手になり、楽しめるのではないかという提案がありました。それに加えて、新型コロナウイルスが感染拡大していた時期にスキー教室に行けなかった生徒もいるので、そういった子たちが行けるような企画を旅行社とともに有志生徒たちが企画しました。実際に参加者を募り、スキーツアーの実施も生徒たちがやっています。

ー活動の中で、大変なことや困難だったことはどんなところでしょうか。

髙田:大変なのは教員間での合意形成です。SAHでは「失敗しても良いからやってみる」を大切にしていますが、これまで培ってきた経験の中で「学校とはこうあるべきだ」という考えを持っている教員もいます。それを崩していくことはハードルが高い。なかなか全員の合意をとって動き出すのは難しいのですが、校長が「生徒からの提案はまずはやってみよう」と言ってくれることもあり、動き出しながら他の教員も巻き込んでいます。教員から出される心配な点についても生徒たちが解決策を考え、承認を得ており、少しずつ理解が深まっているように感じます。

ー生徒が主体となった学校づくりのために、教員が持つべき視点とは何でしょうか。

髙田:教員とは生徒たちを導く立場になりがちですが、そうではなくて伴走者であるべきではないでしょうか。もっと言えば、後ろにいて生徒たちを見守り、踏み外しそうになったときはこっちだよと伝えていくことが、生徒の主体性を伸ばすことにつながると思っています生徒たちはもっと失敗しても良いと思っています。挑戦した結果、失敗しても成功しても学びがあるのです

 その中で、今後はもっと生徒からの呼びかけで全校を巻き込みながら、授業や文化祭などのイベントをどんなふうにしていきたいかというアイデアが増えていってほしいなと思っています。今はどうしても生徒会が窓口になっていて。でもその子たちが中心に動き、その子たちだけがスキルアップしても意味ないので、もっと全校を巻き込んでいきたい。

 教員たちも生徒のやりたいことを陰で支えながらも、生徒が「自分たちでやった」と感じてもらうことがとても大切だと思っています。というのも、主体性を伸ばすと言っても、本当の意味で「生徒主体」にすると、教員は何もしなくても良いことになってしまうので。教員は黒衣(黒子)となって表には出ませんが、生徒を支援し生徒をその気にさせたり、「こういうのもあるんじゃない?」と言って生徒を走り出させたりすることが非常に重要だと思っています。生徒たちに、たくさんのきっかけを与えられるような関わり方を大切にしていきたいですね。

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