ルールメイキングで子どもたちに主体性を。つくば市立二の宮小学校 

学校事例

GIGAスクール構想が加速し、教育の現場でタブレット機器が使用される場面が着実に増えてきました。 端末の導入が増えていくなかで整備が急がれるのは利用時のルールです。

今回、私たち「みんなのルールメイキング」は学校ICT教育をいち早く推進している茨城県つくば市と連携し、市内45の小中学校を対象に児童生徒主体でルールの見直しを実施しました。 結果として、つくば市立二の宮小学校は市内の各校がICT教育に関する取り組みを発表するプレゼンテーションコンテスト (以下、プレコン)で優秀賞を獲得。

同市では前例がない状況で児童主体でルールメイキングに取り組んだ、同校の特別活動主任・根本先生を中心に、宮良先生、片山先生、青柳先生に話を聞いてみました。 

前例がないルールメイキングプロジェクト

2022年6月、ルールメイキングをやることが決まったときの率直な感想を教えてください。 

根本先生: 正直、大変そうだと思いました。 慣例で物事が決まることが多い教育の現場で、 前例が少ない状況下でのスタートだったので.…。

ただ、教員同士の会話でも、保護者からの意見としてもタブレットの使い方について課題を感じている部分が大きかったので、テーマについては違和感はありませんでした。不安もありつつも、一人の教育者として、 時代の流れを受けて、子どもたちと新たなチャレンジができることは楽しみでしたね。 

ルールメイキングプロジェクトのメンバーはどのように集めたのでしょうか? 

根本先生: まず、学校の中心となる委員会の一つ「代表委員会」を中心に活動しました。 

ただ、 代表委員会でも「じゃあルールメイキングやりましょう!」と話を広げるのではなく、「他県ではネットでいじめが起きているらしいよ」「タブレットが事件のきっかけになっているんだって」と世の中の動きを伝えるところからスタート。 

そのうえで「二の宮小は大丈夫かな?」と声をかけ、子どもたちに“自分ごと化”してもらうことで、「自分たちでも考えていかなくちゃ」とルールメイキングに着手しました。 

いくら教員や保護者が課題と捉えていても、子どもたちが同じ意識を持てないと主体的に活動に向き合えません。旗振り役の代表委員会の子どもたちが「先生が決めるんじゃなくて、自分たちでやらなきゃ」 という気持ちになれるようにしました。 

児童たちが”自分ごと化”できるように

根本先生から見て、スタートダッシュは切れた印象でしたか? 

根本先生: そうですね。少なくとも“やらされている感”はなかったように思います。 

代表委員会だけではなく全校児童が自分ごととして考えられるように全員に「タブレットについて、何か困っていることはありますか?」というアンケートを取ったんです。低学年は担任の先生が口頭で聞き、中学年はプリントで、高学年はFormsで打ち込んでもらう形で、全校児童のタブレットに関する困り事の洗い出しから始めました。 

集めた意見は、代表委員が「こんな意見があります。どうしていけばいいと思いますか?」と全校児童に投げかけ、議論を生みます。 自分の意見も反映されることもあって一人ひとりに「自分たちが考えなくちゃいけないんだ」という意識が芽生えたのではないでしょうか。 

プロジェクトの途中でつまづくようなことはありませんでしたか? 

根本先生: 子どもたちは、思ったよりつまづいていませんでした。 

むしろ、つまづいてしまったのは私の方だったかもしれません。「細かくルールを決めなくちゃ」という思考が働き、「あれはダメ」「これはダメ」という方向に傾きかけたことがあって… 宮良先生をはじめ先輩の先生方に アドバイスをもらったことがありました。 

宮良先生: 確かに根本先生は少し苦労している印象を受けました。 教員はルールを決めようとすると 「決まり事を子どもたちに浸透させなきゃ」という思考になってしまうんです。 

でも、「あれはダメ」「これはダメ」というルールだと「あの子は守っていない」「あの先生は指導していない」などといった対立構造が生まれかねない。 

だから根本先生には「ルールメイキングはあくまでも手段のひとつで、話合いを通じて自分たちで自分たち のことを決めていく能力を高めていくことが狙いですよね?」と、今回のルールメイキングで達成したい目的を確認しました。 

根本先生: とてもありがたかったですね。おかげで「二の宮小の五か条の心得」として、 ポジティブな形で集約できたような気がします。 

自信が自信を生む

プロジェクトが6月にスタートし、夏休み前に「五か条」ができました。 その間の子どもたちの印象も教えてください。 

宮良先生: 子どもたちは根本先生が言うようにイキイキと活動している印象でした。「自分たちの活動が形になる」 という目標、そしてプレコンというゴールがあるので、やればやるほど加速度的にイキイキ、 伸び伸びとしていたように思います。 

子どもたちがイキイキと取り組めるように意識したことはありますか? 

根本先生: カタリバさんからもよく言われた 「対立じゃなくて、 対話を大切にする」ですね。児童も教員も「一緒に考えよう」という姿勢で取り組めるようにしました。

全校へのお知らせも「先生からのお知らせ」ではなく「代表委員会からのお知らせ」と児童主体で発信することを意識していました。 

夏休み後にプレコンがありました。 堂々としたプレゼンの様子も印象的です。 

根本先生: 当初は、プロジェクトの流れを淡々と紹介するスライドでした。でも、これまでのプレコンの動画を見たら、「もっと伝わるようにするにはどうすればいいんだろう」「聞いている人が楽しくなるような発表をしたい」と子どもたちが自主的に動き出して。 

過去の受賞校のプレゼンを見ながら意見を出し合い、ブラッシュアップしていきました。

子どもたちの成長を感じた瞬間はありましたか? 

根本先生: やはり、プレコンでの優秀賞受賞は子どもたちにとって大きな自信になりました。 

プレコン以外ですと、二つあります。一つ目は、夏休み期間に全校児童と保護者に回答を依頼したアンケート。「代表委員の子どもたちに一言」という項目で、多くの保護者が子どもたちにとても肯定的な意見を記載してくれて。彼らに伝えたところ、とても嬉しそうにしていました。 

二つ目は自分たちの活動の成果でもある「五か条」が全クラスに掲示されたこと。 自分たちの活動の成果が目に見える形でアウトプットされたことでやり甲斐を感じたのではないでしょうか。 

子どもたちが主体の学校へ

カタリバとの関わりについても教えてください。 

根本先生: オリエンテーション的にカタリバさんと5~6年生の全クラスをつないで、ルールメイキングとはどんなものだろう?」「対話ってどんなふうにしていくの?」「お互いの意見を受け入れるってどんな感じ?」といった解説をしていただきました。 

あの日をきっかけに、 子どもたちも「たくさん意見を出して、受け入れていこう」という意識が強くなったような気がします。 

先生方にはどのような学びがありましたか? 

根本先生: 一番心境の変化があったのは私かもしれません。先ほどもお伝えした通り、元々は「ルールを決めたら、子どもたちに徹底させなくちゃ」という気持ちだったので…。でも、ルールメイキングを通じて対話や自分たちのこ とを自分たちで考えていく過程の大切さを痛感しました。子どもたち主体で進めることの意義を目の当たりに できたことが、私にとっては大きな学びでしたね。最近では、授業も子どもたち主体になってきています。 

他のクラスではタブレット利用以外でも、子どもたち同士で「自分たちが考えたんだから、自分たちで守ろう」 という意識が強くなり、きちんと対話する場面が増えてきています。 

青柳先生: 給食委員でもルールメイキングしました。最初は私自身もやることが見えていなかったのですが、 子どもたちは大人には思い付かないようなアイデアをたくさん出してくれたことが印象的でした。 

対話の時間を重ねて考えたのが「二の宮小 給食マナー3つの約束」です。先生から言われたからやるのではなく、自分たちが楽しく生活するための方法を自分たちで考えている点が、大きな変化だと感じます。 

今回のプロジェクトがうまくいった要因はなんだと思いますか? 

根本先生: 校長先生をはじめ「チャレンジしよう」「一緒に頑張ろう」というスタンスの先生が多いことはありがたかったですね。当初は不安な気持ちも大きかったのですが、皆さんの後押しのおかげでくじけることなくやり抜くことができました。 

青柳先生: 側から見ていて、根本先生がすごく頑張っていることを強く感じていました(笑)。 

確かに給食委員会のルールメイキングをお願いしたときも、全てのクラスがすぐに話し合いの場を設けてくれたので。 根本先生が言うように先生方が新しいチャレンジに協力的なことはありがたいです。 

今回の経験を活かして、 今後やってみたいことはありますか? 

根本先生: タブレットや給食以外でも、さまざまな場面で「こんなルールメイキングができるんじゃないか」という意見が出るようになりました。 修学旅行の行き先も自分たちで決めています。「自分たちで自分たちのことを決める」という空気ができたので、これからもいろんなことにチャレンジしていきたいですね。 

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