「校則を生徒に守らせる」指導から、「自分たちで判断し考える」姿勢へ

2025.03.07

対話を通じて、児童生徒が中心となり学校校則やルールづくりに取り組む「みんなのルールメイキング」。現在は480校以上の学校がカタリバとともに活動しています。全国では、さらに多くの学校でルールメイキングが実践され、校則見直しにとどまらない様々な場面で児童生徒が主体となった学校づくりに発展している学校もあります。
連載「児童生徒主体の学校づくりから見えるもの」では、こうした実践の教育的意義をはじめ、教員や児童生徒の変化・成長を紹介していきます。また、児童生徒が参画する学校づくりの先にどんな景色があるのかを取り上げていきます。

スクールプランの中で、「 生徒が学校運営に参画できる場を設ける」という方針を掲げている福井県越前町立織田中学校。委員会活動の再編にも生徒の声を取り入れる中で、生徒が主体となった校則見直し活動にも取り組んできました。当初は教員の中には「校則やルールを生徒に守らせるべき」というような考え方がありましたが、徐々に「最終的には自分たちで考えて、判断する」という姿勢になってきたと言います。活動を支えてきた担当教員の笹川源也さん（以下、笹川）にお話を聞きました。

ーー貴校では2023年度に、頭髪に関するルールが見直されたようですね。取り組むきっかけを教えてください。

笹川）2023年度に改訂された本校のスクールプランに、「自分で考え 決定し、行動を起こす力を育成する」という方針があります。それを達成していくためには、「生徒主体の活動になるように支援する」「 生徒が学校運営に参画できる場を設ける」というような一文があり、生徒自らが決定し、行動を起こす土壌をつくっていくことになっています。

その中で学校にある委員会を「これはいらないんじゃないか」「この委員会はもっとこうしたほうが良いでのはないか」と、生徒たちの意見も取り入れながら再編しました。

こうした活動が根本にある中で、生徒たちからも多様な価値観があり、「頭髪に関する校則を変えていきたい」という声が出ていました。正直私自身、教員の立場からしても「指導しづらいな」と思う部分がありました。「前髪は目にかからないようにする」「襟足は短くする」など項目が多くて私も覚えきれないですし、「この子は良くても、この子はダメなのか？」というように、指導をすることに困難を覚える時もあって。それを見直していくことは良いチャンスになると思いました。

ーー学校全体で校則を見直すということに抵抗はなかったでしょうか。

笹川）社会の中で「ブラック校則」という言葉が出ていましたし、今の時代に合わない校則があるということも耳にしていました。実際に、近隣の学校でも校則を見直す活動が行われていて。生徒たちからも「〇〇学校の校則はこうなったらしいよ」という話が出ていて、自分たちのことを振り返って考える機会になっていたと思います。そこに対して、われわれ教員も反対の声はありませんでした。

ーー実際にはどのように取り組まれたのでしょうか

笹川）本校には生徒手帳がなく、校則を変えるために「全校生徒の承認が必要」などという指針もなかったので、まずは生徒会執行部で指針をつくるところから始めました。

見直し活動を始めるにあたって、「そもそも校則ってなんのためにあるのか？」ということを理解していないと、「校則を撤廃しましょう」というような話になってしまう。それでは良くないという懸念が生徒会執行部や教員にもあったので、生徒会執行部から全校生徒にプレゼンテーションを用いて丁寧に伝えました。

その中でまず、校則はトラブルや危険から私たちを守るためにあるという共通理解を図りました。その上で、「自己指導能力」つまり自分をコントロールする力を磨いていけば、校則が変わっても自分を守れるという話をしました。

この「自己指導能力」については、年度当初に校長先生から全校生徒に「身につけてほしい力」として話をされていたものです。また、織田中に通う全ての人が納得感を得る校則ではなくていけないことや、学校という場所がプライベートな空間ではないことを生徒と確認しました。

そして、各学級でどう見直していけば良いのか出し合い、風紀委員会や生徒会執行部にあげてもらいました。

頭髪に関して細かい規定がたくさんあったのですが、最終的には「活動にふさわしい髪型」「相手に不快な思いをさせない髪型」「清潔感のある髪型」の3つのルールにしました。それを全校に周知した上で、全校生徒アンケート、さらに保護者の方にもアンケートを実施しました。肯定的な保護者のご意見が半数以上でしたが、中には「感覚的、曖昧すぎる」「活動にふさわしいという意味がわからない」といったご指摘もありました。

ーーそういった不安の声にはどのように対処したのでしょうか。

笹川）生徒会執行部で、「曖昧だ」などの不安な声はどうやったらなくなるかを再び話し合いました。髪型を結ぶ位置などについて指定はしないが、自分の活動だけではなく相手の活動にも影響を与えないとか、「不快な思い」というのは、相手に恐怖を与えないことなどを確認していきました。

生徒会執行部の中から「全校生徒に伝えても、守らない生徒がいた場合はどうするのか？」という意見がありました。私からは「みんながここで身につけなくてはいけないのは、判断力、そして責任感を持つこと。どんな髪型にするのかを自分たちで判断していくことは、これから起こりうることに対して、校則のせい、人のせいにせずに、自分で判断して責任を持つこと。見直し活動を通して、そういった力を身に着けていくのが大切ではないか」という意見を伝えましたね。

最終的には全校生徒から大多数の承認を得ることができました。

ーー校則を見直したことで変化はあったでしょうか。　

笹川）幸いにも見直したからといって、何か問題になることは起きていません。われわれ教員が手を離しても、自分たちでしっかりと考えて自己管理する生徒が多いです。生徒たちがしっかりとこの3つのルールを自覚しているからか、保護者からも何か批判が来るというようなことは実際はありませんでした。

　教員の中にも、これまでは「指導とは生徒たちに校則を守らせること」というような考え方があったので、最初はためらうこともあったと思います。時々「ちょっとこれはどうなのかな？」という髪型の生徒もいますが、教員側も「守らせる」ではなく、「その髪型どうなのかな？活動にふさわしいかな？」と一つの意見として生徒に話すようになりました。そして、どんな髪型にするかを判断したのは生徒たち自身なので、最終的には「君たちが選んだんだよね」というように、そこから起こりうることに対しては生徒自身が判断するという共通認識を、教員の間で持つようになってきたと思います。

　私自身も以前は、「ルールは決まりだから守るべきものだ」と考えていたところがあります。それを「なぜこのルールはあるんだっけ？」「なぜこれを守らなくてはいけないんだっけ？」と考えることで、「だからやっぱりなくてはいけない」と再認識したり、「これって無くても良いかもしれない」と気づかされたりしました。そうすることで、「ここはもっと生徒の判断や行動に委ねて良い」といった指導観の変化がありましたね。

ーー生徒たちの中にも変化はありましたか。

笹川）生徒たちは、校則の見直し活動や委員会の再編の取り組みを通して、「校則は変えられるんだ」「学校って先生が全部決めているのではなく、自分たちの生活って自分たちでより良くできるんだ」 ということに気づけたのではないでしょうか。

　例えば、生徒総会などを見ていても、各委員会の活動に対して生徒たちから意見が出てくることが増えましたね。それも上級生ばかりから意見が出るのではなくて、各学年から意見が出てくるんです。自分の意見を出したり、活動したりすれば良い方向に動いていくということを、生徒たちは身をもって感じ、自信がついたのかなと考えています。

ーー生徒主体のルール作り、学校づくりをしていく中で、大人が持つべき視点は何でしょうか。

笹川）誰かに指示されたからではなく、生徒たちが自分の考えを持つことが大切だと思っています。自分で考えて試行錯誤していく。その中でいろんな人の意見に触れながら考えを改めたり、行動に示していったりすることはすごく大事なことだと思います。我々大人は、そういう生徒の姿勢をサポートしてあげて、それが大切であると伝えてあげることが重要ではないでしょうか。今回の校則改正の活動を活かして、これまでは学校や各委員会で決められていたけれど、「こうするとさらに良くなるんじゃないかな」「こんな風に変えれるのではないかな」という意識が生徒たちからもっと自然に出てくれば良いと思っています。

「ルールメイキング・パートナー」にあなたも参加してみませんか？

　ルールメイキング・パートナーは、生徒主体の校則見直しや学校づくりをはじめたい、既に実践している小・中・高校の教員が無料で参加できるコミュニティです。

　登録には学校承認は不要で、教員個人での申込みが可能です。探究学習で生徒が校則をテーマに取り組んでいる学校や、生徒を中心にした学校づくりに関心がある全国の教員を対象に「ルールメイキング・パートナー」を運営しています。個別相談や情報収集のみでもご利用いただけますので、お気軽にご参加ください。