「変えること」が目的ではない 最上位理念に立ち返ることで見えてきたもの

インタビュー

学校事例

ルールメイキングは、生徒が中心となり教員など学校の関係者と対話しながら校則・ルールを見直していく取り組みです。「校則・ルールが変わる」という結果だけではなく、立場や意見の異なる違う人との対話を通じて納得解をつくるプロセスを大切にしています。

連載企画【ルールメイキングから始まるわたしの一歩】では、ルールメイキングやそのイベントに関わった生徒や卒業生、教員から思いを聞くことで、ルールメイキング活動の先にあるものを考えていきます。

今回お話を聞いたのは…

藤谷柚子穂さん

愛知県立足助高等学校・2年生

藤谷柚子穂さん

有志から構成される校内のルールメイキングの活動に1年生時から参加。
現在はスマートフォンの利用について考えるグループのリーダーとして活動中。
ルールメイキング・サミット2024には招待生として参加。

山岡紅留未さん

愛知県立足助高等学校・2年生

山岡紅留未さん

有志から構成される校内のルールメイキングの活動に1年生時から参加。
現在は全体のリーダーとして活動中。
ルールメイキング・サミット2024には招待生として参加。

中本真人さん

愛知県立足助高等学校・教諭

中本真人さん

2023年4月に初任で足助高校に着任し、ルールメイキングの活動の担当となる。
2024年度からは主担当の教員として、生徒と共にルールメイキングの活動に励んでいる。

中学や高校で興味を持ったルールメイキング。活動の中で見えてきた楽しさ

ーールールメイキングを始めた理由を教えてください。

山岡)中学生の頃に委員会で校則を見直す活動を行っていて、実際にいろんな人と話して校則が変わったことに楽しさを覚えたからです。

藤谷)中学までは校則にあまり関わってきておらず「校則は守るもの」と思っていましたが、高校でルールメイキングの発表を聞いて、校則を作ることができると知り、興味を持ちました。中学校までは校則は変えられないと思っていたし、変えることができたとしても難しいと思っていました。高校では新しいことに挑戦してみようという気持ちもあり、チャレンジしました。

ーー具体的にはどんな活動をしてきましたか。
山岡)本校では20名の有志の生徒が集まって、身だしなみ・スマホ・バイトの三つの班に分かれて活動をしていて、私は全体のリーダーをしています。

藤谷)現在、学校へのスマホの持参は許可されていますが、敷地内に入る時には電源をオフにするルールになっています。授業中にタブレットは使えますが、机の大きさ的にノートや教科書と一緒に置けないという問題があります。スマホであればその問題が解決できるので、日常的に利用できるようにしたいと考えています。活動をするうちに校則ができた理由などをメンバーと話すようになり、楽しくなってきました。

▲3つの班に分かれて、見直したい校則ごとに話し合いを進めます。

ーー中本先生はどのように関わってこられましたか。

中本)2023年の春に初任で足助高校に赴任しました。赴任してすぐに「ルールメイキングの活動に関わってほしい」と指示を受け、ルールメイキングに関わり始めました。僕自身は元々「ルールは守るもの」「社会にも法律があるのだから、校則を守っていくことは社会勉強の一つ」と思っていたし、活動を立ち上げた前任の先生方はほとんど異動して抜けていってしまっている状況で…。

事前情報がない中でしたが、活動の立ち上げをした教員が1人だけ残っていたので、一緒に活動を立て直すために動き出しました。

情報を求めて参加したサミット。他校の仲間から得られた気付き

中本)「生徒主体の活動なので、教員が入りすぎない方が良い。教員も生徒も同じ立場で、校則に対しての意見を対話することで、ルール改定を目指すように」と言われていたので、上から指示をするのではなく生徒に「どう思う?」と声掛けを工夫するよう意識してきました。

本校は全校生徒135人の小規模な学校で、小学校・中学校も小規模校で過ごしてきた生徒が進学する現状があります。どうしても視野が自分たちの学校に限られるといいますか、仲間内での意識が強くなっている現状があったので、外の世界を知り、刺激を受けて殻を破ってほしいと思っていました。そこで、生徒たちに「ルールメイキング・サミットに参加してみないか」と声を掛けました。

ーールールメイキングサミットに参加したきっかけを教えてください。

ルールメイキング・サミットは、認定NPOカタリバ「みんなのルールメイキング」が主催するイベントです。全国で校則見直しやルールメイキングに取り組む中高生100人が一堂に会し、地域や学年を超えたルールメイキングの仲間や社会で活躍するルールメイカーと出会い、対話し、学びを深め、発信する機会となっています。

藤谷)中本先生からサミットのことを聞いて、ルールメイキングの活動をする生徒が全国から集まると聞いて参加したい!と思いました。当時、私はスマホ班の活動で、スマホをテーマにすると内容や対話を進めることが難しく、先生方へのインタビューを行った際、反対側の意見にすごく納得してしまうことがあって。意見のまとめ方も難しく、何をしたらいいかわからない状態でした。すごく悩んでいた時期だったので、他の高校のスマホ利用に関する情報を得たかったんです。

山岡)私も校内でリーダーになったばかりだったので、話がまとまらない時に、他の学校ではどのように話を進めたのかということや、アプローチの方法などを学びたいと思っていました。

▲ルールメイキング・サミット2024 招待生として開会式に臨む山岡さん(右)

中本)前任者のころから「対話」を最上位理念として、「校則が変わらなくてもいい」と生徒には伝えています。でも同時に、自分自身の教員経験の中ではどう考えたらよいのか迷うこともあり、担当教員として活動する中で「活動が進んでいる方向が正しいのか」「もっと違うイメージがあるのでは」と悩んでもいました。生徒ももちろんですが、私自身も何かヒントを得たいという気持ちはありましたね。

ーーサミットで得られた気付きやその後の動きを教えてください。

藤谷)私は自分から人に話しかけることが苦手でしたが、グループの子が話しかけてくれたので、コミュニケーションの方法を学べたと思います。具体的には、周りの先生方の話の進め方や生徒同士の声のかけ方、対話のアドバイスなどを学びました。生徒からは対話をしやすいように仲の深め方や、他校でのルールメイキングの活動についてどのように進行しているかなどを学びました。その学びを活かして、サミット後には、今までよりも校内の活動で会話を増やせるようになりました。私たちの学校での最上位理念は対話にしていますが、サミットで校則を変えることに集中している仲間にも出会えたので、校則改革を進める側にも視点をあて、アンケートを取るようにもなりました。今までは行事でスマホ利用がOKになった感想を聞いていましたが、スマホを日常の場面でも利用できるようにするために、今後は「どうして使いたいのか」をアンケートで聞こうと思っています。

▲ルールメイキング・サミット2024で同じグループになった生徒と一緒にワークに臨む藤谷さん(右)

山岡)私は他の学校の生徒から「生徒同士でも考えの違いがあり、活動がうまく進まない」と聞き、最上位理念である対話の重要性を再確認し、共有をすることで活動がもっとスムーズに進むと感じました。学校に帰ってからは、改めて対話の重要性をメンバーに共有し、同じ認識で活動できるようにしました。加えて、活動の雰囲気に慣れていない1年生が馴染むことができるよう、話し合いの場以外でも声をかけることや笑顔でいることを心がけるようになりました

中本)サミットに参加してルールメイキングに取り組む全国の先生の考えや実践を聞き、実際に変わった学校の話を聞くと、生徒自身が「自分たちで校則を変えた」という成功体験になっている様子もあり、そのような体験も時には必要なのかもしれないと思いました。対話を通してルール改定を目指す中で、「ルールメイキングを通して何を目指したいのか」という教員である自分自身の意志に迷いがあると気づくと同時に、それを実現する経験が足りていないと感じました。生徒たちに殻を破ってほしいと参加したサミットでしたが、まず自分が変わらないといけないなと

▲生徒がゲームワークショップに参加する裏で、教員らはルールメイキングの教育的意義や実践方法について議論しました。

活動の中でついてきた自信。ルールが変わる過程で得られるもの

ーールールメイキングの活動でご自身の変化はありますか。

山岡)ルールメイキングの活動をする前は自分の意見を端的にまとめることや、わかりやすく表現することに対して自信がありませんでした。否定されたり、誰からの反応もなかったりするのではないかと思って、怖いと感じていたのですが活動の中で先輩や後輩と話したり、サミットで初対面の人と会話をしたりする中で、自分のことを話すことに抵抗がなくなりました校則は今までとても堅苦しいものと思っていましたが、自分の中で噛み砕いて、背景も考えてみると、意外と理不尽だと思っていた校則が理にかなっていることや、本当に不要な校則があることにも気づけました

藤谷)活動を始めた時は、スマホ班に私しか1年生がいなくて緊張していましたが、先輩方からアンケートの書き方なども教えてもらい、今では班のリーダーとして、ファシリテーターの仕事もできるようになりました。元々は「絶対リーダーなんてできない」「仕切ることは難しい」と思っていましたが、先生たちに支えられたり、認められたりして「私にもできるんだ」と自信をつけることができました

山岡)校則や社会のルールに文句を言っているだけで、何も行動を起こさず他人任せにするのではなく、変えたいルールが変わるまでの過程で得られるものもたくさんあると思うので、とにかく行動してみてほしいし、ルールメイキングにも参加してほしいと思います。

藤谷)以前は「ルールメイキングをして校則が変わらなかったら恥ずかしい」という思いから、活動に参加していない友達に話をすることをためらっていた時期もありました。しかし、最上位理念である対話を目標にすると、活動をしていない友達にも「どんな活動しているのか」や「他の高校はこんな感じらしい」という会話ができるようになり、以前より活動に興味を持ってもらえるようになりました

たくさんの人の意見があった方が対話も弾みますし、活動としてもいい方向へ向かうと思います。興味がある人は、ルールメイキングにぜひ参加してほしいです。

生徒と共に成長していく。教員としての変化と学び

中本)僕自身は教員になった当初「校則は守るべきもの」と考えていましたが、生徒と活動をしていると「学校や社会が作った規定概念は、生徒の楽しい学校生活にはそぐわない部分がある」ことを認識するようになりました。生徒に対して上から押さえつけるのではなく「なぜこのルールがあるのか」という背景をしっかりと伝えること、そのルールが時代に合わないのであれば、我々の固定概念や先入観を変えていく必要があると考えるようになったのは、僕自身の教員としての変化です

そして同時に、周りの教員の変化も感じています。文化発表会や学期ごとのタイミングで全校に対して、ルールメイキングのメンバーが話す機会を作っていて、活動の状況を伝えているのですが、他の先生方から「今こういうことをやっているんだね」「生徒が考えたアイデアをやってみよう」と声をいただくことが増えました。ルールを変えた後には、生徒から先生方にアンケートやインタビューをする機会を作っていて、多くの先生方が率直な意見をくださっている印象を受けます。校則に対する先生からの意見と生徒からの意見がぶつかり合うことで、活動が濃く深い内容になっています。

ーー先生から見た生徒の変化はありますか。

中本)ルールメイキング活動に取り組む生徒は、普段の日常生活にもルールメイキングの考え方を落とし込んでいると感じています。例えばクラスをまとめたり、発表したりするときも、周りの意見をよく聞いて、一生懸命話をしてくれています。活動に取り組む生徒が、部活動で中心となって頑張っていたり、話を進めたりしていることを実感できるようになってきて、この活動は間違いではなかったと感じることができています。

もともとは赴任して指示を受けて参加した活動でしたが、最近では、校内でいかに活動を次の世代に繋げるかということも考えるようになりました。校長や現場の先生が異動され、ルールメイキングの活動ができなくなってしまう学校もあると聞いたので…。

サミットには2年生の生徒を誘って参加しましたが、次世代となる1年生を中心に東海地方の地域イベントへの参加や、校内での発表をしてもらう機会も作っています。

生徒と一緒にルールメイキングに取り組んできて、自分自身も考え方や生徒と向き合うスタンスなど、変わる必要があると感じることができました。活動に興味を持っている方がいたら、ぜひご一緒したいです!

「ルールメイキング地域イベント」に参加してみませんか?

 生徒主体の校則見直しや学校づくりをはじめたい、既に実践している学校の教員や生徒が集まり、各地域ごとで対面・オンラインのイベントを行っています。2月は年に1度の「地域生徒大会」が各地域で開催されます!
 参加校によるルールメイキング実践発表や、教員・生徒同士の交流を通じて、自分の学校の活動に繋がるヒントを得られる機会です。
 見学・観覧も募集しています。みなさまご参加お待ちします。

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