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企業と生徒、教員が互いに学び合う。資生堂ジャパンとともにつくる「スクールメイク」プロジェクトとは

対話を通して納得解をつくり、そのプロセスで学びを深めるルールメイキング。取り組みは学校現場だけにとどまらず、企業による参画も徐々に広がってきています。先進的に企業連携を進める大阪夕陽丘学園高等学校(大阪市)では、大手化粧品メーカーである資生堂ジャパンと連携し、「学校制服に合うメイクとは?」という問いを探究してきました。
今回は、同校教員で教務主任や生徒会顧問を務める長谷川誠さん(以下長谷川)と、資生堂ジャパン美容戦略部・社会活動企画推進グループの瀬村留美さん(以下瀬村)にインタビューを実施。ルールメイキングにおける学校と企業の協働の可能性についてお話を聞きました。
ーー現在、両者が手を取って進めているプロジェクトについて教えてください。
長谷川:学校生活や制服に合うメイクのあり方、定義を作る「OYG(大阪夕陽丘)スクールメイク」というプロジェクトを行っています。校内でメイクをしたいという生徒の声をもとに始まったもので、「メイクをしていいか、だめか」ではなく最適なルールを考えようというものです。2024年度からは、生徒や教員が資生堂さんの本社に訪問して「そもそもメイクとは何か」、「メイクすることの意味とは」といったことを教えていただいていたり、学校に来ていただいて全校生徒に話をしてもらったりしました。
瀬村:「化粧行為には二種類ある」とよく言うのですが、一つはスキンケアやひげ剃りのような、自分のためにする化粧行為。もう一つは、塗ったり付けたりするような、他者から見られることを意識した化粧行為です。どうしても校則や学校生活の中では「塗るメイク」のことばかり考えられがちですが、まずは自分のための化粧行為があるんだということをお話しました。
長谷川:私たちが考えていたメイクの概念が変わるようなお話でした。生徒たちにはめちゃくちゃ響いていたようで、メモを取る手が止まらなくなっていました。ひげ剃りなども含めてお話いただいたこともあり、「この話、全生徒が聞くべきじゃない?」と生徒が言い出して、実際に学校に来ていただけることになりましたね。

ーー人に見せるためのメイクだけでなく、自分自身のためのメイクがあるという発見は、学校でのルールを考える大きなヒントになりそうですね。
長谷川:論点が定まったような感覚でしたね。とはいえ、メイクは濃い・薄いの問題なので、どこまでが身だしなみで、どこからが娯楽的なファッションなのかの線引きはとても難しいです。受け取り手の印象の問題だし、その印象さえ、一人ひとりの顔の形によって同じ濃さのメイクでも変わるかもしれない。生徒たちも頭を抱えながら、毎日激論が続いているような状態です。
瀬村:コロナ禍を経て(マスク着用がスタンダードになったことで)、眉毛のメイクはOKになったと聞いていましたが、自分の顔や肌をよく知って、正しいテクニックでメイクをしないと、不自然になってしまいます。最終的な線引きの前に、自分に似合っていて不快感を与えないメイクを考えるために、自分のプラスを高めることと、TPOの考え方を意識的にお話するようにしました。

ーー改めて、両者の連携が生まれた経緯を教えてください。
長谷川:うちの学校はもともと女子校だったこともあってか、「校内でもメイクをしていたい」という声は常に生徒から上がっていました。ただ、ルールメイキング1年目の2020年には、制服のジェンダー平等など「安心安全に過ごせない人がいるようなトピック」を優先して議論することになりました。その後は瀬村さんが触れていたように、コロナ禍でマスク生活が多くなったため眉毛のメイクに関する規定は見直しが進んだのですが、それ以降は停滞してしまっていたんです。
瀬村:学校教員も一人ひとり考え方が違いますし、メイクについて(生徒が)提案して教員にOKをもらうのは本当に難しいですよね。ルールメイキングのイベント(ルールメイキング対話カフェ)に参加したときにも、皆さんのご苦労を感じました。

長谷川:生徒は好きなようにメイクをしたいし、「誰にも迷惑をかけていないじゃないか」と感じます。教員は、地域の方から偏見を持って生徒が見られてしまうかもしれないし、私立なので受験者数への影響もあるのではないかと恐れます。意見が割れやすいトピックで、落とし所が全く見つかりませんでした。
そんな中、同じ学校法人が運営する大阪夕陽丘学園短期大学にトータルビューティーコースがあって、そこにもともと資生堂ジャパンで働いていた教員がいるとのことで、お話を聞きに行ってみたんです。自分たちだけで話し合いが進まないなら、プロフェッショナルである企業の話を聞きながらヒントを貰いたいと考えました。そこから瀬村さんたちに繋げてもらいました。
瀬村:最初にお話を聞いたときは正直、企業がルールメイキングの現場に入ることでルールを押し付けてしまうのではないかと悩みました。でも話を聞いていくうちに、私たちの商品やノウハウ、コンテンツを題材に、生徒自身が考えていくのであれば力になれるかもしれないと考えました。

ーー学校と企業の協働には、双方のメリットを明確に作るところがポイントとなります。それぞれの立場からどう感じていますか。
瀬村:メリットはたくさんありますね。企業は売ることが目的と思われがちですが、私たちは社会的な活動により資生堂を知っていただきたいと思っていますので、教育現場に貢献できる事自体が、私たちの部署の目的に合っています。学校での話し合いの様子を動画で送ってもらっていて、他部署も含めた近畿エリアの社員たちで見る機会も作りました。「こういう(教育現場の)活動もやっているんだ」と分かることで、社員たちのモチベーション向上にもつながっています。
また、私たちが提供する情報や価値に反応を貰えるありがたさも挙げられます。どうしても「大人向けの化粧品」と思われがちな企業ですし、商品ブランドごとのマーケティングが進んでいる分、若い世代の方は資生堂という名前を知っている人は少ないんです。でも直接取り組みにご一緒することで、企業名や部署の取り組みを知ってもらえるし、商品も使ってもらえます。
長谷川:目の前の売上だけでなく、よりよい社会を作るという目に見えない部分に価値を感じてくれる企業がいるおかげで、連携できていると感じます。私たちにとってはやはり、貴重な学びを得られることがメリットです。生徒は普段、同じ教員が同じ教科書を使って、同じ価値観で授業をします。そこに企業が入ることで、異なる視点や専門的知識を得られる。それに「あの会社の人に会ったんだ」という体験自体も大きな経験で、自信や主体性を育むきっかけになっていると思いますね。
教員も同じです。学校の中にいる大人は「井の中の蛙」になってしまう部分がどうしてもあって、企業の方と連携することで凄く視野を広げてもらえるし、学びが大きいです。

ーー企業と学校の連携事例はまだ多くない中、重要な先行事例だと感じます。今後の展望もお聞かせください。
長谷川:何より、なるべく長くお付き合いを続けたいというところですね。単発で連携することはできても、生徒の変容やルールメイキングのプロセスに一緒に伴走してくれる企業はなかなかいません。体力も工数もかかりますから。これまでの歩みにとても感謝していますが、引き続きご一緒できれば、お互いにさらにアイデアを出せるようになっていくはずです。
瀬村:もちろんです!(笑)。私たちも「イベント的」にやっているわけではないので。もっとどう協力すると何が生まれるか、まだ話し合いきれていないと思いますし、常に頭の中で考えています。生徒がわくわくできるようなことを一緒に作っていきたいですよね。メイクのコンテストとか。校内全体をルールメイキングに巻き込みたいというお話も聞いているので、無関心層に刺さる施策も考えたいです。アイデアは尽きませんね。
長谷川:メイクのコンテスト、面白いですね。考えてみます。学校教育現場の中で、まだまだメイクは認知も理解も足りないので、「その取組み、いいじゃん」と思える学校が増えてほしいし、その先頭を私たちで走りたいです。
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