自らが得た知見を次世代へ ルールメイカーの挑戦と継承の歩み

インタビュー

学校事例

ルールメイキングは、生徒が中心となり教員など学校の関係者と対話しながら校則・ルールを見直していく取り組みです。「校則・ルールが変わる」という結果だけではなく、立場や意見の異なる違う人との対話を通じて納得解をつくるプロセスを大切にしています。

連載企画【ルールメイキングから始まるわたしの一歩】では、ルールメイキングやそのイベントに関わった生徒や卒業生、教員から思いを聞くことで、ルールメイキング活動の先にあるものを考えていきます。

今回お話を聞いたのは…

上田陽仁さん

追手門学院大手前高等学校・2年生

上田陽仁さん

中学1年生の時から生徒会に所属し、校内外でルールメイキングの活動に幅広く取り組む。
ルールメイキング・サミットには2年連続で参加。

生徒と先生の板挟みになりながら取り組んできたルールメイキング

ーールールメイキングを始めたきっかけを教えてください

高校1年生の5月ごろに生徒会として生徒にアンケートをとり、学校に対する要望を募集したところ、多かったのが自販機に関するものでした。すでに設置されている飲料自販機の価格や中身の変更、さらに、アイスクリームの自販機設置に向けて取り組みを始めました。アイスクリームの自販機を設置するためには、生徒がマナーを守れることを先生方に示す必要があり、「学校でアイスを買って食べ歩きをしない」「特定の場所で食べる」という厳しいルールを2つ作ることになりました。

ーー当時はどのように感じていましたか。

自分は当時生徒会の議長になっていて、他メンバーと一緒に10人の先生に対してアイスクリームの自販機設置に関する企画書を提出しましたが、「これはどうなんだ?」と言われてしまいました。学校帰りにアイスを食べたいと考える生徒と、学校が市の中心部にあるため、生徒の「食べ歩き」など外からの見え方を気にされている先生、それぞれの思いがわかるからこそ、板挟みの状態になって「しんどい」と思っていました。一方で、同時進行で進めていた飲料自販機の価格と中身の変更に関しては、要望が通ることに。生徒から「ありがとう」と声をもらえたので、本来の目的であった学校生活の充実という部分が少しは達成できたかなと感じました。結局、アイスの自販機設置に関してはルールの部分ではクリアできたのですが、学校側からは「甘いものを摂取し続けるのは栄養面でどうなのか」という指摘が入り、今も設置には至っていません。

ーーその他に検討したルールがあれば教えてください。

生徒から「学校指定のマフラーは薄くて着用する意味がないので、指定以外のマフラーも使えるようにしてほしい」という要望があったので、そちらについても検討することにしました。2週間期間を設けて、生徒が着けたいと考えるマフラーを自由に持ってきてもらい、写真を撮らせてもらうなどしたところ、紺・白・黒系が多かったんです。それらの単色系であれば学校側の許可も降り、これまでの学校指定のマフラーに比べて温かさの効果も見込めると考えました。そこで、基準を決めて案を学校側に提出したところ、単色マフラーの着用は校則として認められるようになりました。

企業の方と意見交換をする生徒たち(右)

ーールールメイキングをする際に工夫されていたことはありますか。

先生方がお忙しいことはわかっていましたが、粘り強く職員室の前で先生を待って声をかけ、対話ができる機会をつくるようにしました。それから中高一貫校で、中高それぞれからルールメイキングをするメンバーとして選出された4人が、どうプロセスを踏んで活動をしているか、周囲から理解されることをモットーにしていました。4人だけでやっていると、先生方に「何かやっているな」という程度にしか認識してもらえません。でも、他の生徒会役員も巻き込んで、12人体制にしてからは周囲の見る目も変わったので、大事なことだったと思います。また、どんなふうにルールを変えたのか後の生徒会の人が分かりやすいように、議事録もしっかりつけておいた方がいいと感じ、残すようにしていました。

ルールメイキングメンバーと生徒会役員メンバーを交えた活動の様子

勇気とヒントを与えたい 二度目のサミットに参加した理由

ルールメイキング・サミットは、認定NPOカタリバ「みんなのルールメイキング」が主催するイベントです。全国で校則見直しやルールメイキングに取り組む中高生100人が一堂に会し、地域や学年を超えたルールメイキングの仲間や社会で活躍するルールメイカーと出会い、対話し、学びを深め、発信する機会となっています。

ーー去年のルールメイキングサミットに参加したきっかけや感想を教えてください。

高校1年生の時に活動の担当をしてくれていた先生が、ルールメイキングの関西地域生徒大会に行かれて、サミットのことを知ったそうです。僕らも校内でルールメイキングについてちょうど活動を始めていたタイミングだったので、その先生が声をかけてくれました。ルールメイキングの手段はネットで調べても出てこないので、サミット前は悩んでいました。でも実際に参加してみると、それぞれの学校ならではの変え方があると知り、手探り状態でも自分たちのやっていることは正しいと感じられました。一番印象に残っているのは、「ルールを守ってもらうには、生徒一人一人に自分ごととしてルールを受け止めてもらう必要がある」ということでした。もしそれができれば、校則は決して厳しいものでなくてもいいのではないかと考えました。

ーー今年二度目のルールメイキングサミットに参加したのはなぜですか。

新しいルールメイカーたちに、自分の経験をもとに「1年でこれだけ変わる」ということを伝え、勇気とヒントを伝えたいと思ったからです。例えば1回目のサミット後には、行事を自分ごとに捉えてもらうために新たなスポーツ大会を実施して、学校運営に生徒が関わりを持てるようにしました。その結果、コロナで中止になっていた文化祭での飲食の提供を復活させようと企画した際にも、生徒を巻き込みやすくなり、生徒同士での活発な議論の結果、実現させることができました。このような効果があった出来事を、他の参加者に伝えたいと思っていましたね。

ルールメイキング・サミット2024で、ゲームに参加する上田さん

ーー他の人に継承するモチベーションの源は何ですか?

校内的な視点では、お世話になった先生がたくさんいるので、恩返しをしたいという思いがモチベーションになっています。生徒会は自分から入ったわけではなく、中学生の時に部活の顧問に誘われて入りました。それがきっかけで自分は変わることができたので、その恩返しをしたいと思っています。自分もいずれは学校を卒業してしまいます。さらに学校を良くしていくためには、後輩に引き継ぐことが大事だと考えているので「こういうことを僕らはしてきた」「こういう活動を引き継いでほしい」と伝えています。とはいえ、当事者にならないと分からない難しさやプレッシャーもあると思うので、当時者になった時に共感してもらえるような大事なことは、議事録などでまとめるようにしています。他校の子に引き継ぐ理由としては、ルールメイキングがなければ得られなかった新しい友好関係があるからです。その人たちからモチベーションを高めてもらっているところがあり、その経験を伝えたいと思っています。他校の校則の違いを見るのは楽しいですし、2023年度の関西地域生徒大会にはルールメイキングに取り組む小学生も来ていて、負けていられないなと勇気をもらいました。

期待されていなかった生徒会 誰も傷つかないルールメイキングを目指して

ーーご自身は活動を通してどんな力が身についたと思いますか。

自分の情熱を全面に押し出せるようになったと思います。暗い感じで話していても「情熱がない人に周りはついていこうと思わないかも」と思ったので、情熱を読み取ってもらいやすいよう明るく伝えることを心がけていましたね。具体的には、自分が校内の状況や他の生徒たちが思っていることをどこまで理解できているのか頭の中で整理するなどして、自分自身がやっていることの解像度をあげることを意識しました。そうすることで、みんなの前で発表するときも紙がなくても話せるようになり、情熱が伝わりやすくなったと思います。おかげで味方が一気に増えて、僕らの活動を見て生徒会に入る子も多くなりました。

ーー学校全体ではどのような変化がありましたか。

ルールメイキングに取り組む前は、生徒会に要望が来ることは少なく、期待をされていないように感じていました。今では生徒からの声が届くようになったので、少しずつ生徒会の捉え方が変わったのかなと感じています。多くの生徒が関わる行事では、いろんなところで生徒会役員以外の生徒がリーダーになっている状態にして、生徒が主体的に関れるようにしてきたことが大きな要因だと思います。ルールメイキングに取り組み、たくさんの意見を聞いて合意形成を図ることで、他の人が孤独を感じたり嫌な思いをしたりしない、誰も傷つかない状態にすることができるのではないでしょうか。何かを決める時に多数決をとることは簡単ですが、ルールメイキングの強みはこういった側面だと思います。

ルールメイキングメンバー以外の生徒を交えた意見交換会の様子

ーールールメイキングの経験を今後はどのような場面で活かしていきたいですか。

ルールメイキングを通して、自分たちがやりたいと思っている企画を進めるには、学校が大切にしているもの、守りたいものを理解することも大切だと分かりました。そして、イベントの事前準備などをメインでやってくれているのは、生徒会役員以外の生徒たちだと気付かされました。今ではリーダーシップよりもフォロワーシップが重要だと思っています。だからこそ大学に入った後は、リーダーとフォロワーのどちらの役割も担えるようにしたいと思っています。

「ルールメイキング地域イベント」に参加してみませんか?

 生徒主体の校則見直しや学校づくりをはじめたい、既に実践している学校の教員や生徒が集まり、各地域ごとで対面・オンラインのイベントを行っています。2月は年に1度の「地域生徒大会」が各地域で開催されます!
 参加校によるルールメイキング実践発表や、教員・生徒同士の交流を通じて、自分の学校の活動に繋がるヒントを得られる機会です。
 見学・観覧も募集しています。みなさまご参加お待ちします。


■北海道・東北
【2025年2月26日(水)】北海道・東北地域生徒大会@オンライン
■東海
【2025年2月24日(日)】東海地域生徒大会@なごのキャンパス
■九州・沖縄
【2025年2月23日(日)】九州・沖縄教員交流会
【2025年2月24日(月祝)】九州地域生徒大会@オンライン

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