教員と生徒それぞれのイメージを共有し、ともに考えるプロセスを通して築く関係性

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対話を通じて、児童生徒が中心となり学校の校則やルールづくりに取り組む「みんなのルールメイキング」。現在は500校以上の学校がカタリバとともに活動しています。全国では、さらに多くの学校でルールメイキングが実践され、校則見直しにとどまらない様々な場面で児童生徒が主体となった学校づくりに発展している学校もあります。

連載「児童・生徒主体の学校づくりから見えるもの」では、こうした実践の教育的意義をはじめ、教員や生徒の変化・成長を紹介していきます。また、児童生徒が参画する学校づくりの先にどんな景色があるのかを取り上げていきます。

山口県宇部市教育委員会の方針により、2023年度から校則見直し活動に取り組んでいる宇部市立西岐波中学校。2024年度は髪型の見直しに取り組みましたが、個人によって捉え方の幅が広く、難しさを感じたといいます。そこで、全校生徒や教員にフリー素材を用いたアンケートを実施することで、それぞれの立場が持つ髪型へのイメージを共有できるようにしました。「明確な基準がないからこそ、教員と生徒と一緒に考えることで、お互いの関係性を築ける」と話すのは、生徒指導主任の青木勇太朗さん(以下、青木)。青木さんに詳しくお話を伺いました。

青木 勇太朗

宇部市立西岐波中学校 教諭

青木 勇太朗

宇部市立桃山中学校を経て、2020年度に宇部市立西岐波中学校に着任。2023年度から生徒指導主任として、生徒主体の校則の見直し活動を支えている。

ーー宇部市教育委員会が校則見直しに関するガイドラインを作成したことをきっかけに、貴校では見直し活動に取り組みはじめていますね。

青木:そうですね。教育委員会からのガイドラインに基づいて、校則見直しに取り組もうということになったときに、まずは各クラスで気になる校則について話し合ってもらいました。2023年度は「制服」に関する意見が多く出てきたことから、生徒会執行部を中心に進めていきました。本校では女子生徒はセーラー服を着用していますが、冬用と夏用のセーラー服しかないため、体温調節がなかなか難しいという側面がありました。そこで、ポロシャツの導入を検討しました。また、靴下の色も指定の色は白だけでなく、黒もよいのではないかという意見があり、見直す対象にしました。

2024年度は、生徒と一緒に「髪型」の見直しに取り組みました。髪型に関しては、前年度から生徒からもたくさん意見が出ていたので、生徒たちもずっとモヤモヤした気持ちを持っていたのだと思います。ただ制服を見直した時と違って、髪型は個人によって捉えられる幅が広いため、合意形成をとることに苦労しました。

ーー青木さんご自身は、この活動がはじまった当初はどのように受け止められましたか。

青木:例えば、「こういう髪型をすると、周りからはこういうふうに見られるよ」といった社会的な見方を、生徒たちには伝えていかなくてはいけないと思う気持ちは半分ありました。その一方で、生徒たちの視点も取り入れながらどういうルールをつくっていくか、一緒に考えていかなくてはいけないという気持ちもありましたね。

私が学生のときは、ルールや校則など、定められたものを「なんでなんだろう?」と考えることはあまりありませんでした。「決められたものだから」と、淡々とそのルールに基づいて生活してきたように思います。ただ、前任校のときから生徒指導を担当していますが、指導する上での難しさを感じることがあったのは事実です。例えば、ツーブロックについて「なぜだめなんですか?」と生徒や保護者から聞かれても、私自身は理由が分からず、答えられないことがありました。校則では認められていない髪型も、「学校で支障が出なければいいのでは?」と、個人的に思う気持ちもありました。でも学校ごとの基準に沿って指導しなくてはいけないので、どういうふうに生徒たちに伝えていったほうがいいのかと悩み、苦労することもありました。

ーー他の教員の反応はどうだったでしょうか。

青木:校則見直しについてはニュースでも取り上げられている現状を、私たち教員も知っていました。なので、いつまでも「こうであるべき」という考えではなく、現状に合わせて見直していく必要性があるという認識でした。ただ、2024年度は髪型について取り組みましたが、30年前を知っている教員からは髪型を自由にした後で、学校が荒れるような状況になったこともあったので、「今回もそういったことが起きるのではないか」といった不安の声はあがっていました。

ーー他の教員と合意形成していく上で、工夫された点はありますか。

青木:まず校則見直し準備委員会とよばれる、教員で構成する組織をつくりました。そこに生徒会担当の教員などにも入ってもらい、私以外にも校則見直しに関わってもらう教員を集めました。各クラスで話し合いをするときなどに、どうやって進めていくかを伝えました。

さらに、全校生徒や全教員にアンケートを実施し、髪型に関するフリー素材を用いて、それぞれの髪型についてどういった印象を持つか、「〇×△」をつけてもらいました。そうすることで、教員と生徒の感覚を照らし合わせることができました。また、アンケートを実施することで、全体で話し合う場で表現できない生徒も、意見を表明できる機会にしたかったんです。

そして、代表の生徒、教員、保護者、地域の方で構成される「校則見直し委員会」をつくり、話し合う場を設けました。アンケート結果をそこで提示し、それぞれに意見を出してもらいました。生徒は22人参加し、大人よりも生徒が少し多いぐらいになるように分けました。生徒の数を多くすることで、彼らが意見を言いやすい場にしたいと考えていました。また教員は、「ファシリテーター」としての役割と担うことで、生徒たちが保護者や地域の方にも意見を伝えやすくなるように工夫しました。

代表の生徒、教員、保護者、地域の方で構成される「校則見直し委員会」

——アンケートでは、教員と生徒の認識に大きなズレはなかったでしょうか。

青木:教員側からはこれまでの経験に基づいて、「やはりこの髪型は学校に適していない」という意見があり、一方で生徒からは「もっと柔軟でよい」という意見もあり、認識に差がありました。でも、生徒の中でも「奇抜だ」という声や、生徒の言葉を借りると「ヤンキーのように見える」といった意見もあり、それが自分にとってマイナスの印象に伝わることや、学習する上でふさわしくないといった意見もありました。

代表の生徒、教員、保護者、地域の方で構成される「校則見直し委員会」

校則見直し委員会が終わったあと、最終的に職員会議で、見直した文言を提案した時には、「こういう場合はどう指導するのか?」といった懸念の声があがりました。

それでも、アンケートの中で一つの画像を土台に考えていくことで、見直し活動に不安を抱いている教員にも、イメージを持ってもらえたと思っています。教員と生徒の間で、イメージの共有もできました。

いきなり全員の教員が同じ認識を持つことは難しいですが、こういった過程を経て、少しずつ生徒が見直した校則を受け入れていく土台が、教員側にできつつあると感じています。

宇部市立西岐波中学校で行った髪型に関するアンケート結果

ーー実際に取り組まれている中で、生徒の行動や学校としての変化はありますか。

青木:校則見直し委員会の代表として出席した生徒は3年生です。3年生たちが自分たちで考えた校則を、実際に経験してもらうという成功体験を味わってもらうことが大切だと考え、2024年度に見直した髪型の校則は、3学期から導入しました。

大前提として、自分たちで決めた校則に対して、大きくズレるような行動をする生徒は見受けられなくなりましたね。

そして、校則を守れていない生徒がいたときに、以前より声のかけ方が変わり、指摘しやすくなりました。「みんなで決めたことではないの?」「話し合った意味がなくなるよ」といった伝え方になってきましたね。

ーー生徒が自分たちで考えたからこそ、「自分事」としてルールを捉えられるようになってきたのですね。

青木:そうですね。何のためにルールがあるのかを考えることで、より守れるようになったのだと思います。

そして、中学校の次には、高校での生活があります。事前に高校の先生とも生徒指導について情報共有する場があり、そこで各高校の髪型についても聞いていました。生徒総会の場でも、私から「どの学校も、学習の場にふさわしいかどうかというところが基準にある。それも踏まえて、中学校も学ぶ場なので、学習が成り立たないと学校の意味がなくなってしまう」という趣旨の話をしました。生徒たちもそれを踏まえながら、髪型の見直しにも取り組んでいたように思います。

校則見直しについて話し合う生徒たち

私の担当教科は数学ですが、授業の中でも生徒たちが主体的に考えていく姿勢を大切にしています。ですので、生徒たち同士で解き方について一生懸命教えている時や、意見を出し合っている時には、わざわざ入らないようにしています。「計算式などが分かる、分からないではなく、学びに向かう姿勢を評価するよ」ということは定期的に伝えています。分かる生徒は、分からない生徒に考え方を共有し、分からない生徒は分からないということをしっかりと言えることが大切だと考えています。

ーー活動を通して、青木さんご自身の指導観に変化はありましたか。

青木:髪型に関しては正直なところ私自身も、今でも明確な基準を持っているわけではありません。ただ、ツーブロックが良い・悪いという話ではなく、「学習に適した髪型である」といった考えが大切だと改めて認識できるようになりました。

また、頭ごなしに決めるのではなく、明確な基準がないからこそ、教員も生徒も一緒に確認し、考えていくという姿勢で取り組んできました。そういった過程を通して、お互いの関係をつくっていくことができるのだと思えるようになりましたね。

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