伝統と規律を重んじる校風と変化の共存。対話を大切にするルールメイキングとは

学校事例

1935年の創立から数えて、88年もの歴史をもつ純心中学・純心女子高校。

「清く・かしこく・やさしい女性に」を建学の精神の一つとしており、伝統ある学校として規律を重んじる校風であることは地域からもよく知られています。

規律重んじることと、ルールメイキングを推進することは一見相反するように思われますが、純心中学・純心女子高校はその両立がうまくできている事例のひとつです。

そこで今回は、伝統がある私立校でどのように校則・ルールが見直されてきたのか、その裏側について着任して15年になる森先生に聞いてみました。

はじめは先生主導の校則改訂を。そこから生徒主体の校則改定へ

-純心中学・純心女子高校では、生徒主体の校則見直し(ルールメイキング)に取り組む以前から校則改訂が行われていたそうですが、どのような流れで改訂が行われていたのでしょうか。

本校では生徒の意見を聞こうという姿勢自体はここ数年できつつあり、生徒総会で生徒からの要望を吸い上げることをしていました。それから、先生達のなかで審議を行い、結果を生徒へフィードバックするという流れです。毎年できることから少しずつ校則の改訂は行われてきました。

一見すると「生徒の声」を反映しているようにみえます。ただ生徒の視点に立つと、要望は聞かれるものの、審議の過程に生徒は含まれず、忘れた頃に結果だけが伝えられるという状況だったんです。

校則の議論が取り上げられる社会の変化が追い風となりもっと生徒と対話しながら校則改訂を進めても良いのではないかという雰囲気が、学校全体の中で醸成されはじめました。

そのようなタイミングの中で、私がカタリバのルールメイキングを見つけました。生徒を巻き込んだ校則改定の上手な進め方などの情報を知りたいと思い、パートナー校に登録した経緯があります。

-貴校は、周辺地域の中でも厳しい校則がある学校として有名だと伺いましたが、他の先生方からの反応はいかがでしたか?

確かに長崎県では、純心といえば校則が厳しい学校というイメージはあると思います。

厳しい校則が残る背景としては、やはり戦前からの歴史がある学校ですから、なかには祖母・母・娘と3代に渡り、本校を選んでくださる場合もあります。自分の子ども・孫にも同じ制服で、同じように通って欲しいという保護者の思いや、そういった伝統を大切にしたいという学校側の精神が影響しているのかもしれません。

実際、職員会議でルールメイキングへの参加を打診した際、長く勤務されている先生方からは「プロジェクトに参加することで変化を強制され、大切にしたい伝統まで壊されてしまうのではないか」といった不安の声も上がりました。また「卒業生が母校の変化をどう捉えるのか」といったことも懸念事項として上がりました。

ですが、パートナー校になる=変化を強制される、ということではなく、自校のやり方を尊重しながら進めてもらえる、ということをお伝えしたところ、それであればと承認してもらいました。

コロナ禍を経て「学校外の繋がり」が減少。オンライン生徒交流での出会いが起爆剤に

-その後ルールメイキング・パートナーへ参加してから1年が経ちますが、先生からみた変化はありましたか??

パートナーになって良かったと感じたことは、カタリバが主催するイベントに参加することで、「この日に発表をする」という目標設定ができたことです。発表機会あることで、生徒がモチベーションを保って活動に参加できたことだと思います。

当初の想定としては、中学・高校ともに協力して多様なメンバーの中でプロジェクトを進めることを考えていました。ですが実際に始めてみると、ルールメイキング以外のさまざまな活動との兼ね合いもあり、なかなかメンバーを集められず、思うように活動が進みませんでした。

しかし生徒が「みんなのルールメイキング 中高生メンバー」に参加したことで、大学生と話す機会や、校則改定に取り組む他校の生徒と意見交換をする機会が生まれました。

他校の生徒から刺激を受けて、生徒のモチベーションが保たれたと感じています。放課後、家に帰ってから連絡を取り合って、オンラインで議論するというようなこともあったみたいです。

自分自身もそうですが、やっぱり目標や期日が明確になることで、勉強や準備に力が入ることってありますよね。なので、参加して良かったなと思います。

またこれは個人的な意見ですが、コロナ禍も相まって生徒が社会と関わりながら成長する機会が、減ってしまったように感じていました。なんとか学校外の他者と関わる機会をつくってあげたいな、と思っていて、そうした機会の提供にも繋がったと思います。

生徒と先生が対話したことで、信頼できる関係性が生まれた

-先生ご自身として変化があったと感じられることはありますか?

ルールメイキングに限らず、探究学習などでもいえることですが、生徒と対話をすることで、自分自身も考えたことのなかったことを考える機会になったと思います。

例えば、帰宅途中の寄り道について生徒と議論していたことがありました。そのなかで「学用品を買うための寄り道」は認められるか否かが話題にあがりました。確かに学用品の購入は必要ですが、そうすると今度は必要なこととそうでないことを分ける基準をどう引くのかを改めて考えることになります。「もしかしたら事故にあった際の保険の適用範囲と関連するのかもしれない…」と、これまで気にしたことのなかったことを調べるきっかけにもなりました。

私自身考えさせられることが多く、良い機会になりました。こうした会話ができるのも、生徒たちが一方的に意見を通そうとするのではなく、対話をしながら考えを深める姿勢をとってくれるからだと思っています。

だからこそ、ルールメイキングに関しても暴走を恐れず、生徒の自主性に任せてみることができました。

変化を受け入れ、対話を重んじる校風が、さらにひき立つ雰囲気に

―対話をしながら考えを深める、というのはルールメイキングにも通じる大切なポイントだと思いますが、そうした生徒さんの姿勢はどこから生まれているのでしょうか。

はじめにも述べましたが、うちは規律を重んじる一方、変化を拒否するということはなく、生徒から意見が出てきたことであれば「まずは検討してみよう、検討した上で納得がいくことであれば変えていこう」という雰囲気はここ数年できつつありました。

だからこそ対話を重んじていて、ワールドカフェの手法を生徒の学びにも、教員研修にも取り入れていたりします。例えば今のルールメイキングのコアメンバーは高校1年生の時から「充実しているとは何か」、「私たちにとっての学びとは」などのテーマを取り上げ、対話する機会を定期的に設けてきました。

ディベートとは違って、心理的安全性を確保した中で得られる対話の面白さというものがあると思います。そういった「対話を楽しいもの」と感じてもらう仕掛けがじわじわと効いてきて、生徒対先生の構図にならず、対話的に進めようという生徒の姿勢にも繋がっているのではないかと感じています。

これからの教員に必要な対話の場をつくる力。保護者も巻き込んだ対話的な学校づくりを目指したい

―伝統や規律を重んじつつ、対話の姿勢を大切にすることで、対立的ではないルールメイキングの進め方を可能にしている印象を感じました。今後の展望はありますか?

今後は生徒と先生だけではなく、保護者も含めた対話が行えるといいなと思っています。対話の機会や空気が広がっていくことでより魅力的な学校になる気がします。

また、ルールメイキングは「この校則を変えたら終わり」というものではなく、時々で立ち止まって考えることが必要な「終わりのない取り組み」だと考えています。

だからこそ、対話への深い理解を持ち、対話の場を推進できるファシリテーション力を身につけた先生が増えていくことも必要だと思います。

そうした環境が整うことで、どの先生もスムーズにプロジェクトに参加することができ、活動が継続していくのではないでしょうか。

より先生と生徒が対話的な関係を築き、周りの人も巻き込んでいける、そんな学校づくりがしたいと思っています。

先生同士のコミュニティで実践のヒントを学びませんか?

ルールメイキング・パートナーは、生徒主体の校則見直しや学校づくりをはじめたい、既に実践している小・中・高校の先生が無料で参加できるコミュニティです。登録には学校承認は不要で、先生個人での申込みが可能です。毎月、教員交流会と題したオンライン勉強会・交流会に参加できる他、ルールメイキング事務局との無料相談や、生徒同士の交流会への招待等をご案内しています。

(登録までの所要時間:1-3分程度)

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