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「知的障害を持っていても、自分の人生を自分で作れるはず」。高等支援学校における対話とルールメイキングの価値とは?
「『自分は障害を持っているから』という思いを、根っこから変えたい」――。軽度の知的障害を持つ生徒が通う札幌市立札幌豊明高等支援学校では2024年度から、対話を通じて生徒主体の学校づくりを進めるルールメイキングの取り組みを始めています。「障害を持っていても、社会に貢献できる・変えられる」ことを生徒に感じてもらうことが狙いで、同校が以前から取り組む「ウェルビーイングの根っこを育てる」カリキュラムの延長線にあります。
今回、同校教員で生徒指導主事を務める斉藤来さん(以下、斉藤)に、知的障害を持つ生徒との対話現場のリアルについて話を聞きました。
札幌市立札幌豊明高等支援学校
斉藤来
北海道寿都町出身。サッカーJ下部組織に合格後、札幌へ移住。大学は岩見沢教育大学へ進学。卒業後は、医療機器の会社へ就職し、営業で多くの病院を担当する。入社後は東京支店で大学病院を担当し、2年後に札幌支店へ移動。
北海道に帰省後、再度、特別支援教育に携わりたいと思い、札幌市の教員へ転職。中学校の特別支援学級を経て、現在は、豊明高等支援学校の学年主任兼、生徒指導主事を担当。
―よろしくお願いします。まず、学校の概要を教えてください。
斉藤:軽度の知的障害を持つ生徒が通っており、各学年に約40人ずつ在籍しています。1977年の開校以来、卒業後に生徒が社会人として自立できることを目指し、教科学習に加えて就業に向けた作業学習を行ってきました。
しかし、時代の変化により、求められる人材像や教育のあり方も変わってきました。2020年に校内で「学びのアップデート」を目指すチームが発足し、まずは「自分の人生をより良く生きようとする人を育て、社会のウェルビーイングを実現する」という新たな目標(スクールミッション)を定めました。
―社会に合わせて能力・スキルを訓練するのではなく、自分自身で人生をつくっていける能力を身につけてほしいということでしょうか。
斉藤:はい。「やらせる指導よりも、支える・考える指導を」とよく話し合っていました。うちの学校では、卒業後は就業する生徒がほとんどです。今までは「自分には知的障害があるから社会に貢献なんてできない。自分の将来もどうだっていい」というマイナスな想いを持って社会に出ていってしまう生徒が多かった。小学校から特別支援級に通った子も中学からの子も、バックグラウンドは様々ですが、やはりずっと障害者として差別されたり、いじめを受けたりと、成長段階でかなりつらい経験をしてきているからです。
でもそうじゃなく、「自分でも社会に貢献できるし、社会を変えられる。自分の将来も切り開いていける」と感じてほしかったんです。
―まず変化が現れたのはどの部分からでしょうか。
斉藤:生徒たちに対しては、全授業の中にアイスブレイクとグループワークを入れるようにしました。まずは対話スキルを育てるという目的でしたが、生徒たちはとても楽しんでくれているようでしたし、「こういう話し方をすると相手に伝わらないのか」と自分の課題に気づき、自らどんどん改善していってくれました。
結果として、集団の中でのトラブルも大きく減りましたし、不登校の生徒数も以前は120人中10人くらいだったのが、現在は3人程度で、全国的に見てもとても少なくなりました。生徒自身がお互いの違いを認め合える力がついてきたし、「既存のルールに馴染めないから学校に行かない」のではなく、周囲の環境自体をより良くする方法を、自分で考えられるようになってきていると思います。
―対話の楽しさを知ることで、生徒の自信にも繋がっていきそうです。
斉藤:はい。正直、対話は教職員たちよりも生徒のほうが上手いですよ(笑)。実際、生徒を対象に2023年に実施した「ウェルビーイングアンケート」ではほぼ全ての項目で全国平均を上回り、▽自分の強みを理解している▽利他性▽自己効用感――などの項目が特にポジティブな結果となりました。
―知的障害を持つ生徒向けのワークを考える上で、課題や難しさはありましたか?
斉藤:最初は何をやれば良いか分からず不安でしたし、バタバタの試行錯誤でした。やっぱりコミュニケーションが苦手な子が多いのは事実なので、なるべくアイスブレイクはシンプルなものに。グループワークも、慣れるまでは多人数ではなくペアワークに。しっかり段階を踏んでいくことが大事だと教員側も学びながら進めていました。
当初はアイスブレイクが生徒のキャパシティを超えてしまい、ぽかーんとされてしまうこともありましたが、教員同士で情報や事例を共有をしながら指導案を作っていきました。
―教員同士の対話も重要になります。授業外でも変化はあったのでしょうか。
斉藤:学校の方針を考え直していく中で、職員会議のあり方が変わりました。生徒のウェルビーイングを高めるカリキュラムを考えるため、教職員もグループワークで対話していく時間を新たに設けました。特に教科学習のあり方については一つの結論に定めるのが難しく、悩みどころも正直多いのですが、少なくとも教員の中に当事者意識が生まれ、学校全体に対話の雰囲気が広がってきたと感じています。
―対話のあり方のヒントを探る中で、2023年度末にはカタリバのルールメイキング・パートナーにも登録いただいています。
斉藤:もともと私は「なんで大人がルールを決めているんだ」と違和感があり、自分が生徒指導主事になったら生徒自身がルールを作れる環境を作りたかったんです。生徒主体の学校づくりについて、もっと多くの事例を学びたいと考えて登録しました。
実際、現在は生徒会のメンバーといっしょに、週に2回・お昼休みにルールメイキングの活動を行っています。雰囲気や状況はとても良く、「豊明の課題って何?」というテーマにかなり多くの意見が集まりましたし、「もっといろんな生徒に聞いてみるべきでは」という声が上がり、1学期の終わりには、全校集会で全生徒が意見を出し合うグループワークを実現しました。
―全校集会でのルールメイキングは、支援学校でなくとも決して簡単ではありませんが、様子はどうだったのでしょう。
斉藤:ジャムボード機能を使ったのですが、あっという間に画面が意見で埋まるほどでした。生徒たちは積極的に意見を出してくれたし、その中身も深く掘り下げられていて驚きました。たとえば、支援学校では自転車通学が禁止となっているのですが、「そもそもなぜ禁止なのか?」「危ないことが理由なら、保険に加入すれば良い?」と、背景事情を考えながら、思いを実現するための方法をを自ら考えていました。
やはり、普段から対話的なコミュニケーションを実践しているという積み重ねがあったからこそ、こういった場でも建設的に話し合えたのだと思います。
―スキルや自己効用感を日常で培っていた成果ですね。今後の展望や課題はいかがでしょうか。
斉藤:まだまだ、生徒の根っこにあるマイナス意識を完全に払拭することはできていませんので、取り組み続けていきたいです。学校の中ではいきいきしていても、卒業したらまた「障害者扱い」によって苦しむことも現実的にありえますし。
大人側、社会側がもっと変わらなければいけない部分だとも感じます。「あの子達は障害があるからこれはできないよね」と守ろうとするのではなく、本人たちの可能性を信じて引き出さなければいけない。まずは特別支援教育に関わっている全国の大人や、その生徒たちに、うちの生徒たちの対話やルールメイキングに取り組む姿を知ってもらい、その価値と生徒の力を理解してほしいと思っています。
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