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自己決定と自己効力感が共通点――中国エリア地域パートナー・NPO法人だっぴインタビュー
対話を通じて、生徒主体の学校づくりに取り組む「みんなのルールメイキング」。全国に活動が広がる背景には、各地域でルールメイキングの普及・啓発に取り組む「地域パートナー」の存在があります。ルールメイキングに取り組んでいる・取り組みたいという学校のサポートや地域内でのコミュニティ形成・強化のために活動するパートナー団体のことで、2024年度現在は、全国7つの地域で協働を行っています。
地域ごとに特色のある教育現場を実際に回り、学校との関係構築や教員・生徒向けイベントの企画などを行う地域パートナーは、どんな思いで、どんな活動をしているのか。今回は、中国エリアで活動する地域パートナー、NPO法人だっぴ(岡山市)の代表理事・森分志学さんにお話を聞きました。
記事後半では、2月下旬に実施予定の「ルールメイキング中国地域生徒大会2025」といったイベントの情報も伺ったので、是非最後までご覧ください。
NPO法人だっぴ 代表理事
森分志学
岡山県出身。大学院生時代に高校生と大人の対話プログラムを高校と連携してつくる。卒業後は広告代理店に勤務し、高大接続領域に従事。2017年に岡山にUターンしてNPOだっぴに入職、2020年より現職。県内20市町村50校以上の学校や自治体の教育に携わる。2023年より岡山県生涯学習審議会委員・岡山県社会教育委員を拝命。
NPO法人だっぴ
NPOだっぴは若者の可能性と実現力を開拓することをミッションに、中学生~大学生への教育プログラムを提供。2013年に法人化し、2015年より中高生が多様な大人と対話するワークショップを実施。2021年より進路探究メディア「生き方百科」を展開。2024年、「キャリア教育アワード」コーディネーターの部優秀賞を受賞。
――NPO法人だっぴは2013年の設立後、中高大学生向けの対話プログラムなどの出張授業を手掛けています。改めて、普段の活動内容を教えてください。
森分:現在の主力事業は、キャリア教育プログラム「中学生・高校生だっぴ」です。一人ひとりが意欲を持って自分らしく生きていける社会を創るために、地域で活躍するいろいろな大人を招き、学生と対話する内容ですね。
また、学生がインタビュアーとなって、地域の大人の生き方を紹介していくWEBメディア「生き方百科」なども手掛けています。
もともとは大学生向けに、社会人と対話する中で働き方や仕事のあり方について考えるプログラムを提供していた任意団体でしたが、中高生の頃からもっと自信や自己効力感を持てたり、将来に期待できたりするような機会を作ろうと、プログラムを拡大してきました。
――森分さんとだっぴの出会いはいつ頃だったのでしょうか。
森分:大学4年生の頃に、いち参加者として学生向けプログラムに参加したことがきっかけですね。大学院に進学してからは、中高生向けのだっぴを新規開発する実行委員として、高校生たちと一緒に準備にあたりました。
大学では教育学部にいたのですが、特に高大接続に関心があって。自分の体験も踏まえて、高校生がもっと多様な価値観に触れ、豊かな選択肢の中から進路を決めてほしいと思っていたんですよね。
――大学院を卒業後は、一度就職されてからだっぴへ戻られたんですね。
森分:はい。教員にはならずに、大阪の教育系広告代理店に就職しました。自分は昔から教員のことがあまり好きになれない人間だったんです。自分の中学校は荒れていて、教員は生徒を管理しようとするし、生徒は教員と敵対するような状態でしたから。
会社員として働いていた中、だっぴが事業型NPOとして拡大するタイミングの2017年に、当時の代表から「手伝ってほしい」と声をかけてもらいました。ソーシャルビジネスに関心があったこともあり、岡山にUターンして職員として働き始め、2020年からは代表理事となりました。
――ご自身の体験が原点となっている部分も多いと感じました。森分さんはどのような10代を過ごされましたか。
森分:僕は小学生の頃から「一人暮らしをするのが夢」な子どもでした。大学受験の時も、一人暮らしができれば学校はどこでも良かったので、高校の先生に言われた大学をただ受験するだけだったんです。入学後は、できるだけ楽をしたいと考えて、何も有意義なことをしませんでした。
そのまま大学3年になった頃に、周りの学生が就活を見据えて立派な「ガクチカ」(学生時代に力を入れたこと)を語り始める一方、自分には何もなくて。「自分の(人生の)目標設定、おかしくないか」と感じるようになった頃に、だっぴの「高校生が大人と対話して自分らしい進路を考える」というプログラムを知り、飛び込みました。
そう思うと、学生時代から続く自分のキーワードは「自己決定」かもしれないですね。自分の後悔が原動力の一つになっていると思います。
――ルールメイキングの活動にもつながる、カタリバとの出会いについてもお聞かせください。
森分:だっぴは昔からカタリバの活動を参考にしていて、僕が大学院生として「中高生だっぴ」の内容を考えていた頃にも、カタリバの方を招いてレクをしてもらったことがありました。現在でも大学生メンバーを「キャスト」と呼んでいるのはその名残です。その後も、2019年には「全国高校生マイプロジェクトアワード」の中四国大会実行委員会のメンバーとして活動させていただくなど、つながりは続いていますね。
カタリバが当初から取り組んでいる「きっかけ格差」には、地方出身として共感する部分が多いですし、先ほど挙げた自己決定というキーワードとも絡むので、活動内容や理念の面で共通点は多いですね。特にルールメイキングは、自分を取り巻く世界から変えていくことで自己効力感を高める狙いがある取り組みであることから、親和性は高いと感じています。
――ルールメイキングの地域パートナーとしては2024年春からカタリバとの協働が始まりました。この1年はいかがでしたか。
森分:まず「プレイヤーの発掘」に取り組みました。地域の学校現場の情報を改めて集めて、いくつかの学校に連絡したり訪問したりしたところ、「ルールメイキングを中国エリアで盛り上げよう」ということに興味を持ってくれる教員が数人集まりました。
もともとルールメイキングに近い取り組みをしている学校があることも分かり、有志の教員たちのアイデアで情報交換やネットワーキングを目的とした「教員交流会」が実現するなど、現場側のコミュニティはある程度できたかなと思っています。
だっぴは主権者教育をメインでやっていたわけではないので、正直、最初は「我々の団体で良いのかな」とピンときていなかった部分があったんです。ただ、岡山県内の中学校・高校とのパイプが強く、いつでも声掛けができる学校が約50校程度あることは自分たちの強みだなとも思っています。カタリバと連携することで、他地域の先進事例や現場の工夫、取り組み内容を岡山の教育現場に持ち込めることもメリットですね。
――2月にはルールメイキングに関心がある生徒向けのイベントも実施されますね。
森分:2月8日に開催予定の「ルールメイキング中国地域生徒大会2025」は、昨年のルールメイキング・サミットで話題に上がっていた「サンドボックス」をまさに構築してみるようなイベントです。中国エリアのルールメイキングは、まだ学校全体に実装するフェーズではないところが多いからこそ、まずは試行実施が有効だと思っています。
そのために、「どんな期間で、どんな『実験』をやってみたいのか、それはなぜなのか」、とみんなで妄想を膨らませながら解像度を高めていく場をつくりたいです。
教員に憤っていた僕の中学時代のように、日常に何か違和感や憤りを抱えている生徒さんには、是非参加してほしいと思います。当時の僕たちは対立することしかできなかったけれど、対話や交渉によって対立点を解消し、制度自体を変えていけるということを感じられるイベントにする予定です。
――是非多くの生徒さんに参加してほしいですね。ご自身としても、ルールメイキング地域パートナーとして活動する中で、学校教育への見方が変わった部分がありますか。
森分:やはり教員の方の立場を理解できるようになったのは大きいですね。実際、管理型ではなく生徒に寄り添おうとする風潮はかなり浸透してきました。
だからこそ、生徒と教員の関係は対話的であることが大事だし、一個人の希望をぶつけるのではなく、所属する共同体を意識した対話が必要だと思います。制服の着方を「自分はこうしたい」と教員に主張するのではなく、「この学校では、こういうルールが良いのではないか」と提示できれば、教員も生徒も同じゴールを共有できるはずです。
そういう考えをもっと中国エリアに広めていきたい。生徒の考え方も、学校側の意思決定フローも、先進事例を参考にしながらどんどんローカライズして発展させていきたいですね。
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