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目指すのは「よりよい社会の創造者」ー継続的な校則見直しで素地を育む

対話を通じて、児童生徒が中心となり学校の校則やルールづくりに取り組む「みんなのルールメイキング」。現在は480校以上の学校がカタリバとともに活動しています。全国では、さらに多くの学校でルールメイキングが実践され、校則見直しにとどまらない様々な場面で児童生徒が主体となった学校づくりに発展している学校もあります。連載「児童生徒主体の学校づくりから見えるもの」では、こうした実践の教育的意義をはじめ、教員や生徒の変化・成長を紹介していきます。また、児童生徒が参画する学校づくりの先にどんな景色があるのかを取り上げていきます。
熊本市教育委員会の方針を基に、2021年度から毎年度、校則の見直しに取り組む熊本市立芳野小学校。児童の「よりよい社会の創造者」としての素地を育てています。継続的な取り組みの中で、少しずつ児童が「率直に決まり事に対して声を上げてよい」と捉えられるようになってきたのではないかと話します。活動を中心に担っている学校長の西釜勝久さん(以下、西釜)、校則見直し検討委員会の主査の坂田日和さん(以下、坂田)、同委員会の教職員代表の藤本咲さん(以下、藤本)にお話を伺いました。

熊本市立芳野小学校 校長
西釜 勝久
熊本市立壺川小学校等を経て、2020年度に熊本市立芳野小学校に着任。児童が「よりよい社会の創造者」として育っていくため、校則見直し活動などを支えている。

熊本市立芳野小学校 教諭
坂田 日和
2024年度に熊本市立芳野小学校に着任。校則見直し検討委員会の主査を務める。「気づき 考え 行動」できる人の育成を目指している。

熊本市立芳野小学校 教諭
藤本 咲
2023年度に熊本市立芳野小学校に着任。2024年度の校則見直し検討委員会では教職員代表として、生徒や保護者、地域の方と活発な話し合いを実施した。
——貴校では熊本市教育委員会の方針に基づいて、2021年度から校則見直しに取り組まれていますね。
西釜)はい。以前は校則に、児童たちの規範意識の育成、社会の一員としての資質の向上、安心して生活できる教育環境の保障といった効果があったのは事実です。ですので、子どもたちに校則見直しを任せると、少なからず好き放題にして、校則の効果が失われてしまうのではないかという懸念はありました。
その反面、児童たちは規則を「無条件に受け入れる」という時代がずっと続いてきたと思っています。それが、教員側の「参加する権利」という視点の欠落につながっているのではないかと。児童の指示待ちの態度や、ひいては政治への無関心な対応も作ってきたんじゃないかなという反省があります。なので、自分たちでよりよい社会をつくる創造者という素地を育てていく視点で取り組みを開始しました。
——具体的には、どのような形で取り組まれているのでしょうか。
西釜)本校では「生活の決まり」と呼んでいますが、その生活の決まりの中で、何か変えた方がいいことはないだろうかと児童に呼びかけることからスタートしています。それに対して、いわゆる「目安箱」を設置して、児童に書いてもらうというところから始めました。
初年度は鉛筆入れの中身について議題に上げられたので、それを確認しました。シャープペンを持ってくることや、鉛筆入れ自体にキャラクターが付いてよいのかなどを学級で話し合ってもらいました。その後、児童代表や職員代表、それから保護者代表であるPTA会長、地域代表に校則見直し検討委員会に参加していただき、児童から意見を発表してもらい進めていきました。
——貴校のホームページで2021年度からの見直し活動を見ていると、最初はシャープペンシルなどといった自分たちの身の回りの小さなものから見直しが始まり、徐々に制服など対象が広がっていったように感じます。
坂田)シャープペンシルから広がったというよりは、「率直に決まりに対して 声を上げていいのだ」という思いの方が強くなったのかなと私自身は感じています。物理的なものではなく、思考の素地が育まれ、それが共有されてきたと考えていますね。
——なるほど。小学校で校則見直しに取り組む場合、1〜6学年あるため発達の程度に差もあるかと思いますが、どのような工夫をされているのでしょうか。
藤本)私は4年生の担任ですが、クラスの児童17人全員が参加する学級会を開きます。その中で、まず生活の決まりをもう一度全部確認した上で、「このままでいいと思うところ、変えた方がいいと思うところがあれば意見を出してください」と伝えています。
児童は、最初はとりあえず何でも言いますよね。けれど、やはり「なんでそうした方がいいの?」という理由はしっかり持って、そこはちゃんと言おうねと伝えています。そうするうちに、出てくる意見に少しずつ変化が出てきて。例えば、半袖の上からベストやセーターを着てはいけないという決まりがあるのですが、それを今年度は見直すことになりました。児童たちは、学校に来るときに山登りみたいな長い坂道を登ってきます。その時は歩くから暑いので、半袖でもいい。でも学校に着いたら、山の上なので寒くなってきてしまう。だからセーターなどを着て、 自分で調整したいという理由を聞かせてくれました。経験に基づいた理由があることに対して、他の児童からも「たしかに」という反応があって。そうやってお互いの反応も大事にしながら、取り組んでいますね。
西釜) 本校には一斉下校の決まりがあります。これに対して一昨年前に、「自由下校にしたい」という意見がたくさん出ました。当時の6年生からの意見で、「友達と喋りながら帰りたい」といった理由だったのですね。一方で、反対意見も出ていて。本校は、先ほど藤本さんも話していたように、児童は急な坂を下って下校するため、たまに転んでケガをする。そのときに、下校する同じグループ、もしくは近くにいたグループの児童が、一旦学校に戻ってきて事故を伝えてくれ、上級生はその間に応急処置などをしてくれます。自由下校に反対する児童からは、「今まで、下校時にケガをするなど困った時に最上級生から自分たちは助けてもらった。だから、今度は自分たちがその役割を果たす番ではないか」という風な意見が出たのです。結果的に 6年生としての意見は「自由登校にする」と決まり、検討委員会に上げられたのですが、実際の委員会の時にはその否決された一斉下校についても継続審議するという形で提案されていました。そして、検討委員会では児童が熟慮した結果、自ら「一斉下校継続」を選択しました。
——藤本さんは昨年度も校則見直し活動に参加されていますが、昨年度と今年度で児童に変化はあったでしょうか。
藤本)昨年度は2年生の担任でしたので、一概に比較することはできませんが、4年生になってくると、学校生活に慣れてくることによって疑問点が出てくるようになってきたのかなとは思います。児童は校則の見直し活動を毎年やっているので、学年が上がるごとに、校則に対して「何かおかしい」「なんか少し違うな」 という意識を持つことができるようになっているのかもしれません。
西釜)変化ではありませんが、児童は以前から周囲の児童の意見を大切にしてくれているということを感じています。たとえば、先ほどの一斉下校の例もそうです。「友達と一緒に話しながら帰りたい」という思いで自由下校を提案しつつも、これまでの経験などを踏まえて、周囲への思いやりや他の児童の声を大切にし、少数派の意見(これまで通りの一斉下校)も否定しないでいてくれたのではないかと思っています。
校則の見直しの最終判断は学校長がすることになっています。私自身が気を付けていることは、児童が出してきた決まりが、児童自身の生命を脅かす 、人権を脅かす というようなことだと、すんなり認めるわけにはいかない。けれども、仮に命や人権を脅かすような決まりが出てきたとしても、児童たちの話し合いで、「いやいや、それはよくないよ」と考えられるようにしていきたいという願いがあります。一斉下校の例はまさしく、児童がいわゆる自分たちの自由だけを考えたのではなく、公共の福祉、他人の幸福を総合的かつ適切に考える力を自ら育むいい機会になっていると感じています。
——校則見直しを通して、皆さんそれぞれの教育観、指導観の中で何か変化はありましたか。
坂田)児童が社会に出た時に、「ちょっとおかしいな。本当にいいのかな」と声を上げる子になってほしいと思っています。変化が激しく、混沌とした時代になってきていて、どの情報が正しいのか判断しづらくなってきたと感じています。人から言われたことをそのままやるのではなくて、「今自分たちがやってることは本当にこれでいいのかな?」と一度立ち止まって考え、思考するという態度を大人になっても大切にしてほしいと思うようになりましたね。
藤本)「児童の声に丁寧に耳を傾ける」、常日頃からこれは大切にしなくてはいけないと思っています。児童からのちょっとした疑問に対して、受け流してしまうこともあるのですが、「確かにそうかもしれないね」といった受容や、理由を尋ねられた時に「こういう理由だから、こういう風に決まっているんだよ」と私自身が言えるようにしておきたいと考えるようになりましたね。
西釜)私自身は、児童が自分の権利を行使して意見を表明することが、十年、二十年、三十年後の社会の幸福に繋がると思っています。 よりよい社会を作るために、今のうちから自分で考えて意見を伝えるということを経験しておくということが、 子どもたちだけじゃなく社会全体のためになるということを、校則見直し活動を通して、我々教育者も気づかされました。
——最後に、よりよい学校にしていくために、児童が主体的に関わるには大人にはどういった視点が必要でしょうか。
藤本) 結局自分の意思を伝える場は、児童にとっては授業が一番多いと思っています。その授業で自分の意見を言えない子は、やはり生活の中でも「あれ?おかしいな」と言ったり、声をあげたりしにくいのではないのでしょうか。私としては、児童が生き生きと主体的に学ぶことのできるような授業づくりに取り組んでいきたいですね。
坂田)社会に出て「おかしいな」と思うことでも、社会の波に流されて飲み込まれていくことはやはりありますよね。だから、教員や大人自身も、「本当にこれでいいのかな?」と考え続ける姿勢が大切だと思っています。その考えの積み重ねが、学校や社会、世界も変えていけるのではないかと。学校は小さな社会なので、大人がそういった視点を忘れてはいけないですよね。
西釜)こども基本法の基本的な理念は「こどもまんなか社会」ですよね。我々もこれは同じで、社会の幸福、民主主義社会の繁栄のために、今目の前の児童の権利をきちんと擁護することが大切だと思っています。本校では大々的な取り組みではなくても、地道に少しずつこういった活動を継続していきたいと思っています。
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