【校長が語る】「地域になくてはならない高校」に。学校内外に影響を与えた千葉県姉崎高校のルールメイキング。

学校事例

生徒が中心となり先生や関係者と対話しながら校則・ルールを見直していく取り組み「みんなのルールメイキング」。
校則見直しに関する報道の多くは、生徒の人権や教育的価値に焦点を当てて語られてきたものでした。
 
しかし、わたしたちが学校の中で感じていることは、単に校則が変わったことではなく「学校魅力化」や地域に「開かれた学校」のような学校とそれを取り巻く環境の変化でした。
マガジン「ルールメイキングと学校」では、ルールメイキング実践校の校長先生を対象に、学校経営者から見たプロジェクトの導入から実践、その後の変化と今後の展望を伺います。校則見直しの導入を検討している学校の校長・先生方に向けて、はじめの一歩を踏み出すきっかけになれば幸いです。
 
第4回目は千葉県にある千葉県立姉崎高等学校の加瀬校長にお話を伺いました。
プロジェクト開始当初は「厳しい校則」が存在していた姉崎高校。プロジェクトを行う中で学校内のみならず地域活動においても生徒たちの変化が見られたという1年間の活動についてお聞きしました。

加瀬直人校長

千葉県立姉崎高等学校

加瀬直人校長

1986年千葉県立上総高等学校教諭、企業研修を経て平成7年より千葉県立姉崎高等学校教諭に。(12年間)生徒指導部長として改革に参画。千葉県総合教育センター、千葉県教育庁、市原市姉崎中学校教頭等を経て2020年より千葉県立姉崎高等学校校長。

厳しい校則を守らせることが生徒のエネルギーを奪っていた

はじめに、ルールメイキングプロジェクト導入の背景について教えてください。

加瀬校長:わたしは校長に就任する以前にも、姉崎高校に勤務していた時期がありました。
その頃は「厳しい校則をきちんと守れる学校にしよう」と、今回のルールメイキングとは違った方法で校則に向き合う取り組みを独自に行っていました。当時は指導困難な学生も多く教員も疲弊していましたが、根気強く指導を重ね、最終的には校則を「守らせる」ことができました。
その後私は姉崎高校を離れましたが、その間にもさらに校則は厳しくなっていたようです。
 
校則を厳しい方向に持っていくというのは異論が出にくく、ある意味簡単です。一方で、それを緩和していくのは教員にとって非常に難しいものです。こういった典型的な教員文化の影響を受け、私が校長として再び着任したときには、姉崎高校は地域の中でも「校則の厳しい学校」となっていました。

厳しい校則によって学校や生徒はどのような雰囲気だったのでしょうか。

加瀬校長:結果として以前の乱れていた頃に比べると生徒たちはかなり落ち着いていました。しかし、なにか新しいことに踏み出そうというエネルギーは感じられず、当時目指していた改革の先にある「活気のある学校」ではないと私は感じていました。
 
そんななか、生徒会のある生徒から「校則が厳しすぎるので見直したい」という申し出がありました。やるなら建設的に、きちんと順序だててやりたいと伝えたところ、生徒会担当教員の協力もあり、ルールメイキングの導入を提案してくれました。このように生徒がなにかを提案しに来るというのは私の教員人生の中でも初めてのことでしたし、挑戦することに決めました。

生徒からの校則見直しの提案をきっかけにルールメイキング導入の検討が始まった

導入を決めたときの先生方の反応はいかがでしたか?

加瀬校長:基本的に先生方は賛成してくださいました。やはりそれまでの校則が厳しかったというのは先生方も感じていたのでしょう。厳しい指導は教員も疲弊しますし、生徒と教員の間の距離も生まれるものです。学年ごとの指導のずれを指摘する声もありました。
 
一方で、校則を緩めることに対する不安を抱く先生方も一定数いました。入学する生徒にも影響があるのではないか、と。しかし社会においても全員が賛成する議論などないはずです。むしろルールメイキングを行っていく上で、そのような不安を持っている先生方にこそ「チェック機能」としての役割を担っていただきたいと考えておりましたので、意識変革などはあえて行いませんでした。
先生方の懸念や反対意見を知り、理解しながら進めていくということも生徒たちに学んでほしいという思いがありました。

生徒のみならず教員・地域にも幅広く影響があったルールメイキング

1年間のルールメイキングを通じて、どのような変化がありましたか?

加瀬校長:以前までは黙って終わるのを待つだけという生徒が多かったのですが、いまは積極的に自分の意見を言える雰囲気が生まれているのを感じます
 
象徴的な出来事として、先日生徒が事務室に予算案について意見を言いに来たのです。「なぜこういう配分をするのか、不公平ではないか」と。予算案は例年、生徒総会の中で全校生徒に確認するのですが形骸化していたというのが実態でしたから、こうして生徒のなかから異議が出てきたと聞いて驚きました。
ルールメイキングを通じて生徒と教員の対話の文化が醸成されたこと、そして学校運営に対する生徒の主体性が生まれたことを実感しました。

地域の方々の反応はいかがでしたか?

加瀬校長:校則の変更に際して、地域の方々向けにアンケートを実施しました。かつては教育困難校とも言われた本校の生徒がこのような取り組みを行っているということ自体に前向きな印象を持っていただけたようで、変更を後押ししてくださる声が多かったです。
 
今の時代、校則を見直したからといって地域や企業に悪い印象を持たれることは少ないと思います。そのプロセスの価値がきちんと評価されるようになってきています。今年度以降は本校の取り組みを学校外にきちんと伝えていくことにも力を入れていきたいです。

地域にてインタビュー活動等も行った

入学希望者数などには変化がありましたか?

加瀬校長:入学希望者数は昨年度と比べると増加しました。
 
しかし、昨年度から選抜方式が変更になったこともあり、まだ定員割れしているのが現状です。少子化が進み県内の学校の統合が進むなか、それでも地域に残り続ける学校でありたい。そんな思いから、中学校に向けた取り組みの周知にも力をいれています。ルールメイキングの活動を壁新聞にして中学校に貼ってもらったり、本校の生徒が中学校で自分の実体験を話す機会を頂いたりしています。

地域になくてはならない学校に

ルールメイキングを行うなかでの外部人材の存在はどのようなものでしたか? 

加瀬校長:学校というのは、教員と生徒のみの閉じられた環境です。しかし、新しい学校指導要領で「社会に開かれた教育課程」と言われているように、生徒たちにとっては外部のさまざまな大人との出会いが必要です。

ルールメイキングのコーディネーターの方との対話で、生徒のなかには今までになかった気づきや反省がたくさんあったはずです。そういった対話のなかで生徒たち自身が自主的に学び取れる環境があったのは、生徒にとって良いことだったと思います。

コーディネーターと呼ばれる外部人材も活躍した

ルールメイキングを通じて、どのようなことをめざしていきたいですか? 

加瀬校長:姉崎高校を「地域になくてはならない高校」にしていきたいです。
本校のある市原市では少子高齢化が進み、過疎化が問題になっています。地域内の町会でなにか活動をしようとしても、人手不足でなかなか実現できないというのもしばしばあることです。
 
そんな地域とのつながりを作れないかと、昨年度、本校の生徒が主体となって地域の方々との交流の場となるカフェをオープンするという取り組みを行いました。こういった取り組みをこれからも行いながら、地域とつながり、地域に貢献し、そして地域を盛り上げていきたいと考えています。地域の方々と対話の機会を持つことで、生徒も人間的に豊かになっていくと思います。
 
高校生のあり方は変化しています。成人年齢も18歳に引き下げられました。これからは教員が生徒に一方的になにかを与えるのではなく、生徒が教員と同じテーブルで一人の大人同士として向き合うというかかわり方が重要になってくると思います。ルールメイキングをきっかけに生まれた対話の文化を大切にしながら、地域に根ざしたよりよい学校運営を一緒に行っていきたいです。

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