【校長が語る】生徒だけじゃない。「教員にも大きな変容があった」と振り返る大阪府の小津中学校のルールメイキング。

学校事例

生徒が中心となり先生や関係者と対話しながら校則・ルールを見直していく取り組み「みんなのルールメイキング」。
校則見直しに関する報道の多くは、生徒の人権や教育的価値に焦点を当てて語られてきたものでした。
 
しかし、わたしたちが学校の中で感じていることは、単に校則が変わったことではなく「学校魅力化」や地域に「開かれた学校」のような学校とそれを取り巻く環境の変化でした。
マガジン「ルールメイキングと学校」では、ルールメイキング実践校の校長先生を対象に、学校経営者から見たプロジェクトの導入から実践、その後の変化と今後の展望を伺います。校則見直しの導入を検討している学校の校長・先生方に向けて、はじめの一歩を踏み出すきっかけになれば幸いです。
 
第3回目は大阪府にある泉大津市立小津中学校の高橋校長にお話を伺いました。
前校長が決定されたというルールメイキングの導入。「学校の雰囲気が変わった」というほどの影響があった1年間の活動を経て、2年目も継続した活動を決定されました。

この1年間に感じられた学校の変化や背景をお聞きしました。

1965年 大阪府堺市生まれ。泉大津市立中学校教諭(美術科)、泉大津市立小中学校教頭を経て、泉大津市立楠小学校校長。現在、泉大津市立小津中学校校長。

ルールメイキングが学校の雰囲気を変えた

ルールメイキング導入に対してどのような思いがありましたか?

高橋校長:私が本校に校長として着任したのは昨年度なので、ルールメイキングの導入は前校長が決めたことでした。前校長がSNSでルールメイキングプロジェクトの情報を見つけ、「これはわが校の目指す学校像そのものだ」と感じて導入を決定したと話していました。私はその様子を羨ましく見ていたんですよ(笑)
 
ここに着任する前は5年間小学校で教頭・校長として勤務していたのですが、小学校の制服に対してはずっと疑問を抱いていました。泉大津市では、全小学校制服が指定されているのですが「外遊びの多い小学生にとって制服は動きづらいのではないか」「冬に短いズボンは寒いのではないか」といった違和感は常にありました。

しかし保護者や地域の方々の制服に対する強い思いもあり、それを変えることはできませんでした。やはり校長主体の変革には限界があります。だからこそ、生徒主体で行う今回のルールメイキングには期待がありました。

先生方の反応はいかがでしたか?

高橋校長:当初、先生方のなかでは「なんだかよくわからないがやるしかない」という空気があったと思います。担当教員の一人がしっかりと内容を理解して、先生方にその意義を周知してくれました。

ルールメイキングを通して学校には変化がありましたか?

高橋校長:本当に、驚くほどの変化がありました。違う学校なのではないかと思ってしまうくらいです。
私が校長に着任してきた1年前は、学校内にどこか重苦しい雰囲気がありました。学力向上に力を入れたり新たな取り組みを続々と導入したりしたことで教員は疲弊していましたし、生徒たちからもエネルギーがあまり感じられませんでした。以前小津中に教諭として8年間勤務していたこともあり、「小学校で勤務していた数年のうちにずいぶん変わってしまったなあ」と少し寂しい思いを抱えていました。

しかし、プロジェクトがスタートすると、みるみる学校に活気があふれてきました。生徒の達成感や効力感はこちら側にも伝わってきましたし、表情も変わりましたね。学習面でも効果がありました。そんな生徒たちに感化されて、教員の意識や行動も変わっていきました。さまざま良い結果を生んでいます。これは決して大げさに言っているわけではないんです。

教員にも大きな変化をもたらした

「教え導く」指導から、「信じて待つ」かかわり方へ

その変化の要因にはなにがあったのでしょうか?

高橋校長:先生方の意識が大きく変わったことだと思います。特に変化が印象的だったのが、ルールメイキングの担当である生徒指導の教員です。

学校教員のなかには「生徒は教え導くものだ」という既成概念を持っている人は多いですが、彼もその一人でした。ルールメイキングに取り組む前は、「どうルールメイキングに落としどころをつけて、どうそこに生徒たちを導いていくか」を考えていたと話していました。そんな彼にとって、今回のルールメイキングは生徒指導観を変える大きな転換点になったようです。

生徒との丁寧な対話を重ね、生徒自身が生み出していくものを信じることができるようになったといいます。生徒に対する彼のかかわり方は「教え導く」ものから、「信じて待つ」ものに変わりました

もちろん変化は彼ひとりのものではありません。教員に対するアンケートでは多くの先生方が、生徒をより信じる関わり方ができるようになったと答えていました。これは大きな財産です。
 
私は校長という立場上、生徒との直接の関わりは少ない。教員のマネジメントを通じて生徒のよりよい環境づくりをするのが私の役目だと思っています。だからこそ、教員のなかに大きな変容があったことは個人的にとても嬉しいです。

校長先生自身は、ルールメイキングにはどのように関わられていたのですか?

高橋校長:もちろん担当教員とは密に連絡を取って常に全体の動きを把握していますが、内容には決して口を出さないようにしています。先ほど言った「信じて待つ」というのは、先生方に対する私自身の関わり方でもあります。丁寧に先生方の思いを聴いて理解したうえで、あとは「よろしく」と言って任せる。最終的な決定に責任は持ちますが、それまでのプロセスは委ねるようにしています。

「信じて待つ」というのは、なかなか実際にやろうと思うと難しいものですよね。

一方で生徒を含めた、学校全体の巻き込みはどのように行っていましたか?

高橋校長:全クラスでルールについて話し合う「全校クラス会議」を開きました。ルールメイキングの中心生徒が各教室で会議を仕切ってくれました。「学校全体として進める」という意識は広がったと思いますし、生徒たちがクラスのなかで出てくるさまざまな意見に触れる機会にもなったと思います。
昨年度の立ち上げのときには、担当教員2名と、それに加えてルールメイキングに興味のある数名の先生方がルールメイキングに関わるという形でした。しかし活動が進んでいくにしたがって、全校生徒たちを完全に巻き込んだ大きな取り組みとなっていったので、任意の先生方が都合の合う会議のみに参加するという形では対応しきれない部分がありました。

そこで今年度からは、校務分掌のなかに「ルールメイキング」を入れて、生徒活動部の中に「ルールメイキングプロジェクト」を生徒会本部と対をなす組織として位置づけました。これを機に5人の先生方を正式に担当の係として割り当て、5人の先生方の会議の時間を業務時間内で定期的に定めることが可能になりました。

この一年で、我々が目指す学校像にはルールメイキングがとても合っていると強く感じたので、これを単発的な取り組みではなく、学校を挙げてこれからも継続する活動としていきたいという思いもありました。

これからも学校を挙げて継続する活動に

ルールメイキングを通じて、生徒たちが外の世界に目を向けるように

ルールメイキングにおいて外部人材の存在はどのようなものでしたか?

高橋校長:文部科学省や他校の動きを知っている人の客観的な意見は、われわれ教員や生徒たちの世界を広げてくれました。昔ながらの地域で、ある種閉塞感があった本校に、新しい風を吹かせてくれたと感じています。

保護者の方々や地域、学校外との関わりはありましたか?

高橋校長:保護者の方々に対してルールメイキングについて説明を行ったり、アンケートを行ったりしました。保護者の方々が真摯に向き合って意見を出してくださることが生徒たちにとっては自信になったようです。

そこでの意見を活かしてさらに提案をブラッシュアップしていました。保護者の方々にこのような形で直接意見を聞いてもらうのは、生徒たちには初めての経験だったと思います。

また、今回の取り組みをきっかけに、他のルールメイキング校の生徒とのつながりも生まれました。井の中の蛙だった田舎の中学生が他の地域の生徒と同じテーマで話すなんて、なかなかない機会ですよね。生徒たちが外の世界にも目を向けてしっかりと発信している様子には、私も驚きました。

子どもたちはルールメイキングを通して「外の世界」とつながった

ルールメイキングは、小津中学校が目指す学校像にぴったりだったと話していましたが、先生が思い描く理想の学校の姿というのはどのようなものなのでしょうか?

高橋校長:まず、多様性を大事にできる学校でありたいです。あらゆる立場にある人の価値観を、きちんと理解して認められる子どもたちを育てる、これは本校の目標である「みんなが安心 みんなで創る あなたが輝く学校」という言葉にも表れています。

また、学校は自分で道を切り拓いていける子どもたちを育む場であってほしいという思いがあります。実は私自身、教員になったこと自体が「切り拓いてきた道」だと思っています。
というのも、学生時代、学校があまり好きではありませんでした。校則を守らせることだけに注力した生徒指導や、学力や偏差値というような単一の指標で人をはかることに違和感を持っていました。
それでもそこから遠ざかるのではなく、そんな学校を変えたいと思ってあえて教員を目指すことを選んだのですそして今こうして学校を変えるプロジェクトに関わることができている。

先生方や生徒たちの表情が生き生きとしていく様子を見て、今の仕事がとても楽しいです。
 
生徒たち、そして生徒に関わる教員も、先入観や既成概念にとらわれずに世界に目を向けて、自らの道を切り拓いていってほしい。それを実現するための一つの方法がこのルールメイキングなのではないかと思います。

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