【校長が語る】校長自身の変化と探究学習としてのルールメイキング

学校事例

マガジン「ルールメイキングと学校」では、ルールメイキング実践校の校長先生を対象に、学校経営者から見たプロジェクトの導入から実践、その後の変化と今後の展望を伺います。

第6回目は愛知県にある県立足助高等学校の谷上校長にお話を伺いました。

「実はわたしはとても厳しい教員だったんです」と語った谷上先生。その後、厳しい指導から自律を大切にする指導へと考え方が変わり、ルールメイキングを通してそれを実際に体現する行動力も身についたそうです。

また、足助高校は探究学習とも関連させてルールメイキングを行っており、「学校」という存在をフレキシブルにアップデートしようと奮闘しています。

今回の谷上校長のインタビューでは、ルールメイキングを通じて生徒だけではなく教員や校長自身も成長できるという勇気や、それを実践する具体的なヒントが多く見つかるのではないでしょうか。

愛知県立足助高等学校

谷上 正明 校長先生

厳しい指導から生徒の自立を促す指導へ

元々は厳しい先生だったと伺いましたが、当時を振り返ってどう思われますか

谷上校長:そうですね、服装や校則に関して厳しかったと思いますよ。学年主任を6年間担当していたこともあり、「生徒は厳しく育てるべきだ、ルールをきちっと守らせることで生徒は成長する」と長い間思っていました。

変化のきっかけは、別の学校に赴任したことです。そこでは指導するなかで「そんなに厳しくしちゃいかん、生徒が伸びない。」と言われました。ですが、当時の私は「なぜ厳しく指導してはいけないのだろう、厳しくしないってどういうことだろう」と思っており、ちゃんと理解できるようになったのは、再度転勤しその学校の外に出てからでした。

客観的にその学校を振り返ってみて、私のような厳しい指導のもとにいた生徒たちと、生徒の主体性や自主性を尊重してのびのび育てた生徒たちの間にある、成長スピードの差に気がつきました。

前者の生徒たちは一定のスピードで正比例して成長していったのですが、後者ははじめのころはあまり変化がみられなくても、最後に自分たち自身でスイッチが入り急激に大きく成長していきました。学習でも部活動でも、自分事として生徒が捉えはじめるということが一番大切だと思います。

それから2,3年経ち、「生徒がもっと自由にのびのびと勉強や運動をしてほしい」という思いとともに、現在の校長の職に就きました。

生徒たちが自分自身でスイッチを入れるためにはどうしたらよいのでしょうか

谷上校長:普段から自分で考えるという習慣をもたせることでしょうか。生徒たちは親や先生、周りの言うことを聞いてさえいればよいと、意外と人任せで生きているのではと私は感じています。また、私たち教員も「わがまま言うな」と生徒に教えてきましたよね。

ですが、今は生徒たちに「もっとわがまま言いなさい」と声をかけています。というのも「自分はこうしたい、ああしたい」ということを普段から考えさせないと、自分のスイッチの押し方が分からないまま育ってしまうのではないかと思うからです。

メンバー集めは教員も生徒も公募型で

そのようにご自身の指導のあり方も変化していったなかで、どのようにしてルールメイキングがはじまったのでしょうか

谷上校長:この足助高校には2年前に赴任してきたのですが、1年目に生徒指導主事に校則見直しを持ちかけたところ、強い反対を受けほとんど進展しませんでした。ただ、その指導主事は勉強家で、探究学習の事例などを読み漁っていました。そのようななか、私が渡したプリントに掲載されていた、岩手県大槌高校のルールメイキングの事例を彼が教えてくれました。そして、私がカタリバのルールメイキング・パートナーに応募したのがはじまりです。1月ごろだったと思います。

実際にルールメイキングの活動が立ち上がったのは昨年度の4月からです。生徒指導主事が転勤になったので、新しい先生を中心にはじまりました。メンバーは「自分がやりたい!」という生徒や先生に参加してほしいという思いから、指名ではなく公募制にしました。そして、生徒が24名、教員が5名集まり、その中でスマートフォン・アルバイト・身だしなみの3つのグループに分かれ、次のような取組みを行いました。

  • スマートフォングループ:スマートフォンの使用禁止 → 学校行事で使用できるように
  • アルバイトグループ  :アルバイト禁止 → 届出制で許可
  • 身だしなみグループ  :LGBTQの生徒にも対応した身だしなみの校則を目指し、男女の髪型や制服の差をなくす。

印象的なエピソードとして、先生方の校則への向き合い方の変化があります。アルバイトについて「許可制ってどうなのか?」という声が、生徒からではなく先生方から挙がったんです。当初、生徒たちはアルバイトの許可は先生たちに判断を委ねるという提案をしました。すると、逆に教員側から「先生に判断を任せるの?本当にそれで良いのか?」というフィードバックがありました。その後、生徒たちはもう一度話し合い、届出制という形に落ち着きました。つぎは近々開催されるPTA総会で承認を得たいと考えています。

また、プロジェクトではヒアリングを大事にしており、メンバーたちは週1回集まり、教員一人一人へのインタビューや生徒へのアンケート調査を実施したり、地域の人たちに「校則についてどう思いますか」と考えを聞いたりしました。単に校則を変えるというよりも、このプロセスのなかでさまざまな人たちとつながったり、対話したりできたことは生徒たちにとって良い経験だったと思います。ただ、週1回の活動は負担だったとの声もあったので、今年度は少しスローダウンを検討しているところです。

ルールメイキングを1年間やってみて生まれた変化や今後の展望について教えてください

谷上校長:地域の方々から「生徒たちがすごく変わってきたね」と言われることがあります。様々な場で発表を行ったり、町に出て話をしたりする生徒たちの姿を見て、以前の雰囲気と全然違うと感じているようです。

私も日々感じますが、生徒たちが実にのびのびと明るくなりました。「話し合ってごらん」と声をかけると、すぐに周りの人たちと意見を交わしはじめる雰囲気ができつつあります。

現在は有志と生徒会が中心に活動していますが、今後はいかに学校全体を巻き込むかに取組みたいですね。全校でのミーティングや対話をどうにかして実現させたいです。例えば、生徒全員がタブレットを持っているのでチャットでの議論という形で、全員が発言する場面をつくることができるかもしれません。

また、ルールメイキングとあわせて学校横断型の探究活動というものもはじめる予定です。そこでは主に地域探究をテーマに、地域の魅力と課題を発見・発信するといった内容を考えています。
例えば、東京のある高校がスタディツアーとして足助に来て、ともに地域課題について考えるという計画があります。
ほかにも、物理的にも学校を良くしようという取り組みとして「木々(もくもく)プロジェクト」というものも密かに進めています。生徒と地元の大学生、木材を扱っている業者の方などと一緒に、木工で校内をより良くしていこうという活動です。もちろんお金の問題も出てくると思いますが、それも生徒たちとともに考えたいですね。

最後に、校長になって3年目とのことですが、これからどのような学校にしていきたいですか

谷上校長:自分の意見をちゃんと言える生徒たちになってほしいですね。自分の考えを声に出して言語化できる、ということをやっていきたいです。
やっぱり学校は生徒のものだと思うので、生徒たちに作っていってもらいたいですね。生徒と先生の両方が学校に愛着をもってほしいと願っています。

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