先生も生徒も楽しめるおもしろい学校を。新制服を導入した愛媛県立丹原高校のルールメイキング

学校事例

愛媛県の自然豊かな地域に位置する、全校生徒約300名規模の愛媛県立丹原高校。

小さな頃から顔馴染みの生徒も多いことから学年を超えた関係も先輩・後輩ではなく近所に住む面倒見の良いお兄さん・お姉さんといったあたたかい関係性がある学校です。

そんな地縁がつよい丹原高校のルールメイキングの特徴は「先生も生徒も楽しめる学校をつくる」こと。

生徒主体の校則見直しは、一見すると時代に合わなくなった校則に疑問をもった生徒・先生たちがルール改善をするプロジェクト…と思われることもあります。丹原高校のように「楽しい学校」をつくるためにルールメイキングに取り組むとはどのようなことなのでしょうか。

ルールメイキングの担当教員である谷口先生にお話を伺いました。

tanomoプロジェクト=「丹原おもしろいプロジェクト」が始動

丹原高校では「地域に近い、先生と近い、海外に近い」といったキャッチコピーが印象的ですが、こういったものは先生が考えられているんですか?

谷口先生:そうですね。プロジェクトをやっていく時に旗印があったほうが、チームでやっている感じがして、みんなが動きやすくなるのではないかと考えました。企画やキャッチフレーズ、ロゴは、こういうことを考えることが好きな教員が集まってワイワイ話しながら決めました。

このキャッチコピーを掲げ「tanomoプロジェクト(=tanbara omoshiroi)」という学校を楽しめる場所にするプロジェクトを始めました。一緒に進めている先生は普通科、園芸科等複数の科に跨っています。それぞれの視点からこんなものをやったらおもしろいんじゃないかということを出し合いながら企画をつくって提案し、他の先生から賛同が得られたら実際に企画を進めています。
こういう活動の素地自体は学校にもともとありました。園芸科学科では「多肉植物の寄せ植え講習会」や栽培した野菜をリヤカーを引いて地域で販売する「リヤカー販売」、普通科では地域資源である「竹を活用した研究」など、さまざまな活動を地域で行っていました。

そういった元々あった取り組みに「tanomoプロジェクト」と名前をつけて盛り上げていきました。そのため地域との連携は日頃から多く赴任した当初から、お願いをしたらすぐにOKしてくれる地域の方が多い印象的でした。


生徒が思わずSNSにアップしたくなるような楽しい学校目指して〜新制服の導入プロジェクト〜

丹原高校ではみんなのルールメイキングとの接点を持つ以前から新制服の導入プロジェクトがあると伺いましたが、こちらはどういう経緯ではじまったのでしょうか。

谷口先生:わたしが赴任してすぐ生徒会担当になり、「生徒が思わずSNSにアップしたくなるような楽しい学校にしたい」と思い生徒のニーズを調査したんです。その結果、「制服が時代遅れに感じる」という声が多いことに気がつきました。

制服改訂までの道のりはいかがでしたか。

谷口先生:生徒と一緒に初めはスモールステップで制服のどこを直して欲しいかアンケート調査をしたり、ジェンダーの勉強もしながら、どうしたら変えられるかを考えていました。勉強してからというよりも、変えようとしながら勉強していた感じですね。

ただこの件を同僚の先生に相談したところ、「どうせなら一気に変えよう!」と、その足で校長室に行ったところ、「生徒が自分たちで動いているなら良いよ」との返答があり、すぐに実現に向かって動きだしました。

とてもスピード感がある意思決定ですね。

谷口先生:地元の中学がジェンダーに配慮した制服改訂に向けて動いていたことが追い風になった部分もあったと思います。

新制服の候補が決まった後は、文化祭でファッションショーを開催し全校生徒や保護者に関心を持ってもらい、とさまざまな意見を聞きながら決めていきました。

候補の絞り込み方も楽しく決めていることが印象的ですね。

谷口先生:そうですね。結果として「変えるなら大きく変えてあげよう」という学校の方針もあって、制服が完成し、制服が可愛いという声が生徒からもあがるようになりました。

はじめは抵抗感があるという声が教員内で出ることもありましたが、「みなさん、見慣れれば大丈夫ですよ!」と職員室に制服を飾ってくださる先生がいて、次第に馴染んでいきました。

独自に校則見直しを進めていた学校がルールメイキングプロジェクトに参加する意義とは?

既にルールメイキングに通じる活動を独自にされていたように思われますが、あえてカタリバのプロジェクトに参加した理由はどのような点にありますか?

谷口先生:制服改訂が一通り終わり、次は生徒会でどんなおもしろいことをしようかと考えていた時に、「〜メイキングプロジェクト」という言葉がふと頭に浮かびました。そのワードをそのまま検索にかけてみたところ「ルールメイキング」がヒットし、これだと思ったんです。実際に生徒からの不満で校則が上がることもあったので他の先生に相談したところ、賛同をいただけました。

自分たちで進めるには初めてでわからないことだらけだったので、他校の事例を聞けることで、それを参考に自分たちの流れをつくれるのではと思い参加したという経緯があります。

実際に参加してみてどのようにお感じになりましたか?

谷口先生:生徒交流会やルールメイキング・サミットといった交流の機会が沢山あるので、外部の人と話す機会があることはいいなと思っています。また何よりも生徒がこれまで触れ合わなかった他校の生徒や外部の大人と接する経験が積めるというのが、プラスに働いていると感じることが多々あります

特に外部の大人と接するということのメリットは大きくて、知識や見識の広がりというのはとても感じます。また、生徒の発言力はかなり上がりました大人に伝えなくてはと思い、必死に考え、発言してみることを繰り返したからではないかなと思います

せっかく楽しいことを企画・行動をしても、外部に発表する経験を積んでこなかったために積極的に発言できない子が多くいました。ですが、他の校内プロジェクトも含めて発言機会が増えたことで、「丹原高校に入学して、発言しても良いと思えるようになった」と学校アンケートに答えてくれる生徒も現れています。

また、不満を言うのではなく「対話」をするコンセプトが響いているのも感じますね。実際にワークショップを行う中でも、「先生の意見を聞いてみたいです」という意見が生徒の側から出てくることがありました。
ただ主張するのではなく、相手の意見を聞くことを、話し合いの場で手を挙げてできるようになった、というのは大きな変化ではないでしょうか。

学校内で生徒同士の理解を深めるコツも「対話」?

良い変化が現れていて嬉しく思います。ちなみにプロジェクトはどういう進め方をしていますか?

谷口先生:ルールメイカーは40名程いるのですが、情報共有をしっかりすることで、それぞれが参加できる時に参加するといった形態で進めています。ミーティングの参加者が2-3人のこともあれば、20名ほどの時もありますね。

大人数ですね!プロジェクトを進める中でうまくいっていること、難しいことどちらもあると思いますが、そのあたりはいかがでしょうか。

谷口先生:うまくいっているところでいうと、ワークショップの集まる生徒数の面では困ったことがないことですかね。学校柄、地域の方や卒業した大学生を呼ぶというのは比較的難しくないですし、先生方も参加してくれています。

難しいことというよりも、協力して進めていくために、私自身が気をつけていることは他の先生のご意見を聞いて・受け入れながら、自分のお願いしたいこともお伝えする、という姿勢を持つことは心がけています。例え意見は違ったとしても、生徒のことを大切に思う部分は同じだという信頼関係が教員同士の間で築けているからこそできることかもしれませんね。


先生自身が楽しむことが生徒の「楽しい」にも繋がる。

今後のルールメイキングについて何か展望はありますか?

谷口先生:できたらいいなと思っていることは2つあります。

1つ目は丹原高校に上がってくる可能性がある地元の中学生と一緒にルールメイキングをすることです。これから入る学校のルールを考える経験をすることで、入学前からルールメイキングの姿勢を身につけてもらえたらいいですね。
また2つ目は近隣の高校と合同で行うことです。丹原高校のある地域はいずれ統廃合があることも想定されるので、下地があれば統合されたとしても、この活動を続けていけるのではないかなと思っています。

先生ご自身としては、こんな教員になりたいという展望はございますでしょうか。またそれに向けて取り組んでいることはありますか?

谷口先生:そうですね…生徒から「やってみたい」という声をあげられる場をつくり出せること、またあがってきた時にそれをサポートしてあげられることができる教員でありたいと思っています。その為には知識や経験も必要ですし、自分自身がやらされているのではなくて、あれやりたい、これやりたいというモチベーションで動くことが大切だと感じています

私は地域の人との繋がりを大切にしたいと思って、「どんなところにもまずは顔を出す」ことを心がけています。まちの青年会にも顔を出して、それがきっかけで生徒がまちのお祭りを企画する機会をいただくこともありました。その活動をメディアが取り上げてくれて、生徒がさらに学びを得て…みたいなこともありました。

谷口先生がまちへ出て行って、そこから生徒の活動が広がるという連鎖が非常におもしろいですね。私たちも学ぶべきところがあるなと思います。

今回は愛媛県立丹原高校の谷口先生にお話を伺いました。何度も「楽しい」「おもしろい」という言葉が出てきたのが印象的な谷口先生。先生の「楽しい」によって生まれたものが、生徒にとっての「楽しい」学校に繋がっていく。そんなルールメイキングのあり方も素敵だと感じたインタビューでした。

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