ルールメイキングの挫折を乗り越えて。大阪夕陽丘学園高校の場合

学校事例

ルールメイキングプロジェクトがスムーズに推進できるとは限りません。メンバーの意見がまとまらないこともあれば、プロジェクトに参加していない先生たちや保護者から反対されることもあります。

今回取り上げるのは、大阪夕陽丘学園高等学校。同校のルールメイキングプロジェクトも、あと一歩のところで大きな壁に直面しました。この壁をいかにして乗り越えたのか。大阪夕陽丘学園高校の長谷川誠先生とプロジェクトメンバーの加納美優さんに聞きました。

ルールメイキングにチャレンジする2つの意味

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「みんなのルールメイキングプロジェクト」に参加した経緯から教えてください。

長谷川先生:私が2020年末ぐらいに「カタリバがルールメイキングの実証事業校を募集する」というお知らせを見かけたことです。学校としてはチャレンジする価値があると思ったので、管理職に相談し許可をもらい「とりあえず応募だけしてみよう」と。

“チャレンジする価値”とは?

長谷川先生:大きく分けて2つあります。1つは、生徒自身が学校運営に関わっていくこと。これだけ世の中が変化しているわけですから、3年間教員が決めたことをただ守れば“いい生徒”として扱われるような状況にメスを入れる必要があると感じました。

もう1つは、教員でも親でもない学校外の大人たちと接する機会を設けたかったからです。カタリバのメンバーはもちろん、外部の有識者やセクターの方たちとやり取りしながら物事を進めることは生徒たちにとっていい経験になると思いました。

2021年3月ごろに採択が決まってからはどのように動いたのでしょう?

長谷川先生:プロジェクトに関わるコア教員を集めるところからスタートしました。同時に生徒会にも声をかけて。5〜6月の段階で教員7名、生徒会の生徒14〜5名が集まりました。

ただ、日々の活動で生徒も教員もフルメンバーが参加することはありません。基本的には参加できる人が参加して、残りのメンバーは議事録などをチェックして内容をキャッチアップしてもらうようにしています。

加納さんはなぜプロジェクトに手を挙げようと?

加納さん:最初はルールメイキングに参加するつもりは全くなかったんです(笑)。

前提として、大阪夕陽丘学園は各委員会の委員長が生徒会執行部のメンバーとして活動することになっているんですね。たまたま私はクラスの学級代表で、学級代表委員会の委員長を決めるときに「受験で使えそうやな」と何気なく立候補したんです。いざ生徒会執行部に入ったらルールメイキングもやることになっていました。

プロジェクトメンバー間でモチベーションに差はなかったですか?

長谷川先生:ありましたよ。でも、3年生で進路に向けて準備が必要な場合などは無理強いできませんからね。基本的に僕が参加して生徒に情報を共有していますし、生徒の中にも常連メンバーが決まってくるのでそういった子たちを中心に動かしてもらっていました。加納さんも最初はあまり乗り気ではなかったようでしたが、参加するにつれて気持ちに火がついて、いつの間にか中心メンバーとして活動してくれています。

何があったのですか?

加納さん:プロジェクトに参加し、校則によって困ったり悩んだりしている生徒が一定数いることを目の当たりにしたことで「そういう生徒たちに寄り添える人間になりたい」と思ったからです。これまでこういう活動に関わることはなかったのですが、実際に当事者を目の前にしたら、「やるしかない」と思えましたね。

学校内のメンバーだけだったらこれほどまで気持ちが奮い立たされることはできなかったかもしれません。外部の方が参加していることで「本気やねんな」「ちゃんとせなあかん」という気持ちになりますし、自ずと思考も前向きに変わってきたと思います。

リサーチ、リサーチ、リサーチ!

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実際のプロジェクトの進め方を教えてください。

加納さん:1学期は生徒会のメンバーでプロジェクトのゴールを共有してから全校生徒にアンケートをとってヒアリング。夏休みの間に分析して、ルールメイキングの方向性を決めました。2学期からは実際に見直しの対象となった校則に必要なリサーチを実施。冬休み前から3学期にかけて新たなルールに対してコア教員以外の先生方に提案するためのプレゼンテーションをしました。

アンケートの際の全校生徒の反応はどうだったのでしょうか?

加納さん:今もそうですが、正直なところこちら側の本気度が伝わっている感覚はなかったですね。アンケートを取る際も2つの方法を試したんです。

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1つは、夏休み前に校舎の階段に画用紙でクリスマスツリーを模したポスターを掲示して、「サマークリスマス」というタイトルでみんなの学校生活での願い事を書いてもらうように呼びかけました。

もう1つは全校生徒に対するWebアンケートツールの配信です。ところが、サマークリスマスにはふざけたコメントが書かれるし、Webアンケートでは全校生徒約1200名に対して回答者数は150〜200名程度。そこまで期待はしていなかったけれど、本音としてはもっとたくさんの生徒に回答してもらいたかったですね。

2学期以降、どの校則に着手することに?

加納さん:「メイク」「髪型」「式典服」「制服の移行期間」「お菓子の持ち込み」「放課後の寄り道」の6つです。「生徒の心身に問題を引き起こしているもの」と「学校の方針である“自律した学習者の育成”に背いていないもの」の2つの軸で選びました。ちなみに、生徒の意見で特に多かったのが「メイク」「髪型」です。

長谷川先生:ただ、6つに絞ったものの、生徒会の中でも「ルールメイキングは1か10かじゃない」という議論はよくしていて。納得解を置くポイントについては常に探っていましたね。

どの項目にも通じるのですが、ロジカルに考えなければいけないし、自分たちの経験則の中だけでは判断できないことがほとんどなので、生徒自らアポイントを取りリサーチに奔走しました。外部セクターの方やLGBTの方、弁護士の方にインタビューしたり、アトピーの方たちのためのサロンを経営している方と意見交換をしたり、大学の入試センターに「髪型が受験に響くと学校の先生は言うけど、本当ですか?」と取材したり、難波の高島屋の前で「高校生にふさわしくない髪型は?」と街頭調査したり……あげればキリがないです。

でも、数多くの客観的な意見を聞けたからこそ、「全部解禁したいけれど、不安に感じる可能性もあるので、メイクは眉毛のみOKにする」という納得解を見つけられましたし、逆に式服などはジェンダーの問題なども含めて「すぐに変えるべき」という意見に着地できました。

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加納さんはリサーチを通じて何か学んだことはありますか?

加納さん:先生も生徒もみんな思い込みが強いということですね(笑)。

たとえばメイクの話だと先生からは「地域の人たちの目があるからダメ」と言われていたのですが、実際に話を聞いてみると「絶対だめ!」という人もいましたが、「そんなの気にしないよ」という声も結構あって。言葉を選ばずにいうと、根拠がないまま昔からの習慣で大事にしている意見があることに気付かされました。

先生たちへのプレゼンでの挫折。そして……

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そして、いよいよ先生たちへのプレゼンです。手応えどうだったのでしょうか?

加納さん:ひと言でいうと「議論にならなかった」ですね。確かに私たちの準備不足な部分はあったけれど、本質ではない部分に突っ込まれたり、揚げ足取りされたりして、思わず「見てほしいのはそこじゃないねん!」と。

たとえば「お菓子の持ち込み」についても、もともとは禁止されていたんですが、なんなら先生たちも一緒に食べているような状態だったので、「もう持ち込みOKでいいですよね?」と提案したら、「その理論でいくんやったら、もっと厳しく取り締まろうか」と言われて。

生徒たちは少なからずショックを受けたと思いますが、何と声をかけたのでしょう?

長谷川先生:「『ああ言えばこう言う』の論争は終わろう」ということです。「ああ言えばこう言う」は何も生まないし、前向きな意見にもつながらないので。「もし『ああ言えばこう言う』論争に陥りそうになったら、自分たちの軸に戻ろう」という話はしていました。先ほど加納さんが話した「生徒の心身に問題を引き起こしているもの」と「学校の方針である“自律した学習者の育成”に背いていないもの」の2つの軸ですね。

ただ、このプレゼンでの挫折が生徒たちを大きく成長させたような気がしていて。プレゼン前までは少なからずメンバー間で意識の差があったのですが、終了後にTeamsにそれぞれの感情を書き出すページをつくったらそれぞれの感情を爆発してくれて。そのことで相互理解が進んで、悔しい気持ちも相まって、メンバーたちが一枚岩になったような印象を受けました。「先生のところへ行って、もう1回フィードバックをもらう」と言い始めるメンバーもいたほどです。

加納さん:確かにプレゼンでの挫折は大きなターニングポイントになりましたね。それまでは頼りきりだったメンバーも主体的に行動するようになったし、2回目のプレゼンに向けて全員で分担して準備できました。

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ちなみに、1回目のプレゼンでの先生たちの行動の真意とは?

長谷川先生:まぁ簡単な話で、先生たち大人が対話の仕方を知らないだけなのかなと。先生って、どうしてもジャッジしたくなっちゃうんですよ。生徒と対等に話をするなんて今までなかったし、生徒が学校運営に関わってくることがなかった。生徒たちが求めているのは、「対話」なんですけどね。

ただ、僕自身はあまり驚いていなくて、こうなることをある程度想定していました。社会に出れば、これくらいのことはたくさん起きます。まだまだ土壌ができてない中でのチャレンジなので経験が積み上げられたなと。

あと、もともと「生徒が『校則を見直します』と言うても、大したもんは出てけえへんよ」と思っていたところ、実際に開いてみたら「結構調査もしてるし、つくり込んできてるな」と。正直、動揺もあったと思います(笑)。

加納さん:先生たちにも葛藤があったことは感じました。プレゼンの場では戦闘体制になっているのに、個人で話を聞きにいくとめちゃくちゃ優しくて「もっとこうしたらよかったんちゃう」とアドバイスをくれるという。まるで別人だったので最初は戸惑いましたが……!

長谷川先生:加納さんたちにはショックな経験だったかもしれませんが、これこそが生徒が学校運営に関わる意味ですよね。彼女たちが行動を起こしたからこそ、先生たちも自分たちや学校の課題に気づけたわけですから。

自分の可能性に気づく出会いを

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2022年3月時点で、ルールメイキングプロジェクトの進捗はどういう状況なのでしょうか?

長谷川先生:一応、取り上げた6つはすべて見直す方向で動いています。2回目のプレゼン以降、先生たち同士でも話した結果、文言の見直しなどはありますが、6項目すべて見直して、4月から運用できるように調整しているところです。ルールメイキング元年の学びを生かして、2年目、3年目に取り組んでいきたいと思います。

加納さんはルールメイキングプロジェクトに参加して、何か発見はありましたか? 

加納さん:繰り返しになりますが、私は生徒会に入るまでまったくこういう活動に取り組んでこなくて、自分には長所もないと思っていたし、なんならアンケートにも答えないタイプの生徒だったと思うんです。

でも、ルールメイキングプロジェクトへの参加を通じて、自分にできることの多さを知りましたし、自信も芽生えました。「困っている人たちに寄り添える人間になりたい」と思えたおかげで進路も決められたし。授業だけでは学べなかったことが学べたように思います。

長谷川先生:加納さんだけではなく、自分の可能性を秘めたまま終わる子どもは結構います。だから、僕自身の願いとしては、生徒たちにはとにかく素敵な大人と出会ってほしい。そして、今までなかった視点を身につけて色んなことにチャレンジしてほしい素敵な出会いの数だけ人生は豊かになるはずですから。

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