ルールメイキングプロジェクトで、生徒会組織を再編? ドルトン東京学園の実践

学校事例

ルールメイキングプロジェクトが担える役割は、校則の見直しだけではありません。

東京都調布市にあるドルトン東京学園では、カタリバのみんなのルールメイキングへの参画をきっかけに、生徒会組織の再編を実現しました。

一体どういうことなのか。ドルトン東京学園の片上先生、生徒会組織メンバーの大村麗さんにお話をうかがいました。

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校則を見直すのではなく、生徒会組織の立て直しのためのルールメイキング実践

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みんなのルールメイキングに参画したきっかけから教えてください。

片上先生: もともとのきっかけは、2022年度の高校1年生が中学1年生のときに、自分たちで生徒会組織「Dalton Student Council」(以下、DSC)をつくったことです。

以来、活動自体は続けてきたのですが、メンバーが選挙で選ばれるわけでもなければ、学園にとってオフィシャルな組織ではなかったので、運営は生徒のモチベーション次第のような要素がありました。

教員はもちろん他の生徒もどんな活動をしている組織なのかは、認知されないまま。活動自体も、途中で頓挫することが多々ありました。僕が担当する以前の教員からは「もう解散したら?」なんてことも言われていたようです。

ただ、初期メンバーが中心となって「やっぱりちゃんとやりたい」と一念発起。「組織のあり方を見直して、生まれ変わろう」と立ち上がることになりました。

僕が担当することになったのは、2021年4月。そのとき他の教員から「ルールメイキングプロジェクトって知ってる?」と紹介されて、参加することにしました。僕らの場合は「ルールを見直そう」というよりも、「1年かけて組織を立て直そう」という狙いではじめることにしました。

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ルールメイキングに参加する以前の「うまくいかなかった」ときは、
具体的にはどのような状態だったのでしょうか?

大村さん:メンバーはたくさんいたし、班ごとに分かれてやることはたくさんあったのですが、周りからは「中心メンバーしか動いているように見えない」と言われていました。先生や生徒たちへの情報伝達がうまくできていなかったことが原因だったように思います。

あとは行動に移せていないこともたくさんありましたね。教員会議でアドバイスをもらって「じゃあ、これやります」と答えるけれど、結局やらないまま。みんなよくないことは認識しているんですよ。でも、コロナ禍になってしまってオンライン会議も慣れないので、1時間とっても全く議論にならなくて。さらに先生からは「ヤバいんじゃない?」って言われるし。登校が再開してからも、グダグダしている期間が長かったですね。

だから、グダグダな私たちの担当になって、ルールメイキングについて教えてくれた片上先生は救世主です(笑)。片上先生が根気強く働きかけてくれたおかげで、ようやく歯車が動き出しました。

片上先生の目にはDSCの活動はどのように映っていたのでしょうか?

片上先生:教員サイドも気を遣っているような印象を受けましたね。「生徒の自主性」という言葉に強く引っ張られてしまって、あまり干渉しすぎないようにしているというか。

でも、生徒たちも前例がない中で活動しているわけですから、手探りなわけです。生徒たちがもがいていることは伝わってきましたし、「これを言えば方向性が決まるけど、言えない」ともどかしい気持ちを抱えつつ辛抱強く向き合っている教員の気持ちもすごく理解できました。とはいえ、「その時にうまくコミュニケーションができていたら、好転していたのかも」とも思います。

ドルトン東京学園の生徒会組織「DSC」の存在意義とは何か

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どのように組織再編を進めていったのでしょうか?

片上先生:カタリバさんとのプロジェクトが始まって最初に取り組んだのが、目線合わせでした。教員も生徒も改めて「そもそもなぜDSCをやっているのか」「DSCは誰のためのどのような組織なのか」を振り返ることに時間を割きました。期間としては半年ほどだったのですが、生徒たちも今までちゃんと考えたことのないテーマだったのでとても苦しそうでしたね。

大村さん: 私もすごく悩みました。完全に興味本位だったので……小学校のときは前に立って活動したくてもメンバーが人気投票で決まっちゃうじゃないですか。だから「中学ならやる気があれば新しいことにチャレンジできる」と思ってDSCに入ったんですけど、改めて「なぜDSCに入ったのか」と問われると……。正直「面倒くさい」という気持ちもありましたね。当時は会議しても全然うまくいかなかったし。

片上先生:その後、カタリバさんの提案で生徒たちにモチベーションの変化をグラフに描いてもらったときも、最初の期間はかなり低かったです。カタリバのコーディネータさんにファシリテートしてもらいながら議論に議論を重ねて、ようやく方向性が定まったのが2021年10月ぐらいです。

大村さん自身の考えはどのように固まっていったのでしょうか?

大村さん:先生やメンバーたちと議論を重ねる過程で、なんとなく方向性が見えてきた感じです。最初は目標が全く決まっていなかったのですが、先生たちに「こうしてみたら?」ともらったアドバイスをやってみて、うまくいってもいかなくても原因を振り返って、「これができたら次にここまでやろう」と一歩ずつ登っていったイメージです。

具体的な取り組みとしては、DSCにある3つの班とDSCではない図書委員会と放送委員会との目線合わせです。先生も生徒も何か依頼したいことがあっても「これってDSCと委員会のどっちに頼めばいいの?」という状況だったので、まずは組織図をつくって、図書委員会、放送委員会との役割分担を明確にしました。

片上先生:本人たちの感じ方はわかりませんが、客観的に見ているとDSCと図書委員会&放送委員会が対立しているというか、ライバル関係のような印象もありました。お互いやりたいことが重複している部分もあったので、「一緒にやろう」という雰囲気ではなかったんですよね。だからこそ、最初に目線合わせしたことは大きな意味があると感じています。

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DSCの組織図

言葉にできなかった想いをぶつける時間

その後の印象に残っている出来事はありますか?

片上先生: 2021年10月〜11月頃に生徒が教員たちとざっくばらんにディスカッションする機会を設けたときのことです。参加者は少人数で、DSCのコアメンバー+有志、参加した教員も20名ぐらいだったのですが、すごくいい議論の場になったんですよね。

このときを振り返ると生徒と教員の間で「対話」ができていない状態だったように思います。カタリバさんからの提案で、生徒の立場、先生の立場でどう思っているのかを突き合わせて、学校の未来について一緒に考える機会をつくりました。

「行事や授業についてどう思う?」という各論の話ではなく、「みんなは学校をどうしていきたいと思っている?」といった本質的なやり取りが中心です。大村さんの学年は学校の一期生ですし、僕ら教員もまだ実績のない学校に赴任することは勇気が入りますよね。そのあたりのあまり言葉にしてこなかった感情を吐き出し合いました。

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今思い返してもすごく意味のある時間でしたね。「ゼロから学校をつくっていくことは大変だ」「でも、みんなでいい学校にしていきたい」という気持ちを再認識できたので。教員の中には涙を流している人もいましたよ。他の教員もあの日のことはよく覚えているし、これからももっともっと心を通わせる機会をつくっていきたいですね。

大村さん: そうですね。普段先生たちが考えていることを聞く機会は少ないので、それだけでも意味がありました。自分たちが考えていることと先生たちが考えていることが似ていたらそれはそれで嬉しいし。

それに、あの日先生たちの姿を見たり、指摘を受けたりして、自分の立場を再認識できた気がします。「他の生徒たちから認めてもらうためには、自分たちがしっかりしないと」って。

印象に残っているやり取りや言葉はありますか?

片上先生:教員たちのDSCへのイメージを統一できたのは印象に残っています。「生徒会はこうあるべき」という教員もいれば、「DSCは生徒会とは違うでしょ」という教員もいたので。生徒たちの「選挙して、生徒のピラミッドの一番上にDSCがいるような学校にはしたくない。円の真ん中に自分達がいて、他の生徒を巻き込みながら動かしていきたい」という一貫した想いを伝えられたタイミングとしてはベストだったのではないでしょうか。

「一緒に学校をよくしたい」という気持ちを広める組織へ

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そして、2022年3月には全校生徒との対話会が開催されたと聞きました。

片上先生: 「ぶっちゃけドルトーク」というイベントです。

再編後のDSCの役割はある程度告知していたのですが「みんなで学校をつくっていこう」というメッセージを発信していた割には生徒の声を拾う機会がなかったので。オンラインではなく、リアルで顔を合わせながら生徒たちがどんなことでも正直に言える場をつくることで、他の生徒にも「一緒にやってる感」を味わってもらうことが狙いです。

たとえば我が校では同学年のクラスではなく「ハウス」という学年の異なる生徒で構成されるコミュニティでの生活が中心になるのですが、「同じ学年の生徒たちと交流したい」という声もあったので、トピックスの中に「ぶっちゃけハウス制どう?」というテーマも入れて、みんなで意見を出し合いました。

ハウスについては何か新しい決定があったわけではないのですが、「みんなで一緒に議論するって楽しい」という雰囲気をつくることができた点は大きな成果でしたね。

大村さん:生徒の立場から見ても、当日教室を移動するときは「だるー」という雰囲気だった子が、終わった頃には楽しそうにしていたのがすごく印象的でした。中等部の生徒たちもたくさん意見を出してくれましたし。「月イチでやりたい」と言っている生徒もいました。

みんな「学校をよくしたい」と思っていた、と。

片上先生:そうですね。アンケートでも「普段は言えないけど、隣の生徒も同じこと思ってて嬉しかった!」みたいな回答をしてくれた生徒もいましたし、「先輩と話せてよかった」「後輩がこんなしっかり考えているなんて思わなかった」という声もありました。

さすがに全校生徒が「俺も、私も、学校をよくしたい」と前のめりになることは難しいかもしれないけれど、「自分が思っていることを周りも同じように思っていた」ということを知るだけでも、発言しやすくなるし、居心地も良くなる。充実感や達成感を味わってくれた生徒が多かったように思います。

DSCの存在意義としてはどうでしょう? 以前と比較して変化はありますか?

大村さん: 変わったと思います。DSC主体の学校行事でも、有志のメンバーが手伝ってくれるし、DSCじゃない生徒も「もっとこうしたら?」とアイデアを出してくれるようになったので。まだまだ完璧とは言えないけれど、少しずついい感じの組織になってきているのではないでしょうか。

片上先生:同感ですね。以前はどうしても楽しさよりも義務感が出まくっている組織だったのですが、最近は「DSCで活動できて羨ましいだろ」という雰囲気に変わってきている。周りから「自分もやりたい」と思われていることは、ひとつの成果だと言えるのではないでしょうか。

もちろん実態も伴っていて、2021年冬に開催したDSC主体の学校行事も成功したし、2022年度の体育祭もすごく盛り上げてくれた。アイデアを出してくれた生徒がDSCに入ってくれたこともありました。今、全校生徒は400名ちょっとなのですが、DSCのメンバーが100名以上なので、生徒の4人にひとりがDSCなんです。最初6名だったことを考えると、すごいことですよね。半年間のアピール、そして活動そのものが評価された証です。

柔軟に、固定観念にとらわれることなく

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先生ご自身がDSCのメンバーと接する中で意識したことはありますか?

片上先生:少し厳しい言い方をすると「自分たちが好きなことだけをやっているのであればDSCを名乗る資格はない」ということは常々口にしていましたね。自分たちだけ楽しければいいのであれば、サークル活動ですから。特に組織再編期には「学校のために」という気持ちばかり先行して、組織が伴っていないことが多かったので、結構「それでいいのか?」と問い続けました。

カタリバの役割としてはいかがでしたか?

片上先生:とてもありがたかったですね。基本的に生徒目線で考えてくれるし、僕が「これで行こうか!」と見切り発車しそうなタイミングで、ブレーキをかけてくれたこともあったので。生徒目線と客観性をもたらしてくれたし、丁寧に声かけや働きかけもしてくれた。たぶん僕らだけだったら、うまくいかなかったかもしれませんね。

今回のプロジェクトから学んだことはありますか?

片上先生:常に考え続け、柔軟にアップデートすることの大切さですね。ひとつフレームを決めてしまえばすごくラクなのですが、本来はその年の生徒たちに合わせた柔らかな組織であるべき。固定観念にとらわれることなく、「それもアリだね」と思えるように頭を柔らかくしておくことの意義を痛感した1年だったので、これからも継続したいと思います。

大村さん: そうですね。始まったばかりの頃は特に大変なことが多かったし、考えることの辛さや面倒くささを実感しましたが、ひとつずつクリアしていけることは嬉しいし、達成感があります。

改めて今後の目標について教えてください。

大村さん: 今のDSCも積み重ねの結果なので、今後もひとつずつ課題をクリアしていきたいです。

そして、片上先生が話してくれたような柔軟な組織であり続けたいですね。完成している組織ではないので、生徒はもちろん、先生たちからのアドバイスも柔軟に受け入れていきたい。学校全体で、DSCをよりよい組織にしていきたいです。

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