【校長が語る】「先頭を走る」充実感や達成感を。宮崎県西都市内6校協働の統廃合ルールメイキング!

学校事例

マガジン「ルールメイキングと学校」では、ルールメイキング実践校の校長先生を対象に、学校経営者から見たプロジェクトの導入から実践、その後の変化と今後の展望を伺います。

第5回目は宮崎県にある西都市立穂北中学校の伊東校長にお話を伺いました。

穂北中学校は同市内にある中学校5校と合同でルールメイキングに取り組むという、他に類をみない形で校則見直しを進めています。6校の温度感や進度がバラバラにならないための学校間のコミュニケーション方法や、校長としての役割等、6校同時開催ならではの工夫を教えていただきました。

また、生徒の提案に対する協議組織「オール西都校則委員会」には、各校の教員・保護者・地域の方が1名ずつ入っています。それによって、生徒と教員との間に対立構造が生まれず、生徒指導部の先生方は、生徒たちの「伴走者」に徹することができているそうです。

今回の伊東校長のインタビューでは、生徒でも教員でもない「校長」という立場で、ルールメイキングにどう取り組んでいったらよいのかを考えるヒントが多く見つかるのではないでしょうか。


伊東泰彦校長

西都市立穂北中学校

伊東泰彦校長

1966(昭41)年生まれ、宮崎県西都市出身。
熊本大学文学部卒業後、1989(平1)年4月、宮崎県公立中学校の教員として採用。
社会科教委員として17年勤務の後、県教育委員会事務局、宮崎西高附属中教頭、日之影町立日之影中学校長を経て2021(令3)より現職。
「挑戦し実践する人財の育成」をテーマに、地域との協働による社会に開かれた教育課程の実現などに取り組んでいる。


統廃合をきっかけとした
6校合同のルールメイキングがスタート

はじめに、ルールメイキング導入の背景について教えてください。

伊東校長:宮崎県西都市の中には全部で6校の中学校があるのですが、山間僻地以外の1校を除いた5校は統合することが決まっています。それに付随して、各校のルールを統一したものを作り直す必要がありました。これはルールメイキングを導入する良い機会であると思い、提案したのがきっかけです。

そのような背景もあり、我々が行うルールメイキングは、市内中学校6校で同時に行う少し特殊なものになっています。

ルールメイキングに対する思いは以前からあったのですか?

伊東校長:私は元々社会科の教員であったこともあり、生徒たちには、社会を構成する「主権者」として常に社会事象について考え続けることのできる人であってほしいという願いがありました。ルールメイキングは、生徒たちが社会に目を向けてものごとを考える大きなきっかけになると考えていました。

ルールメイキング導入の提案に対して他校の先生方などからの抵抗はありましたか?

伊東校長:各校の生徒指導担当の教員は、全員が賛成してくださいました。たまたま市内の6名の生徒指導の教員は私と同じ社会科専門であったり、野球部の顧問であったりと共通点の多い教員ばかりで、私のことを知ってくれていたということがあったかもしれません。

教育委員会の事務局に長く勤めていた経験もあるので、西都市教育委員会の方々ともスムーズに協議が進められてきたように思います。学校の統合準備が始まるとともに「生徒の意見を取り入れた再編を」ということが言われ始めていたので、ルールメイキングの提案もしやすかったです。

もちろん、各校の教員の中には不安反対意見を持つ方もおられたと思いますが、それは当たり前のことだと思います。全員が安易に賛成してしまう場合、全員が間違えてしまっていることもありますからね。むしろ反対意見を持って懸念点を指摘してくれる先生方がおられる、という状態こそが正常だと考えています。

6校同時開催の「校長」のイニシアチブ

西都市内で6校同時に進めていくということでしたが、具体的にはどのような形で進められているのですか?

伊東校長:各校の生徒会同士がオンラインを中心としてコミュニケーションをとり、各校で足並みを揃えながら、毎年3つずつのルールを協議しいくことにしました。その意味ではゆっくりとした進め方なのかもしれません。

ただ、全てのルールを一斉に刷新するとなるとスピード感はあるけれど、生徒たちの「主権者」の資質を育てきれないと思っています。現在の自分たちのためだけではなく、社会性など、さまざま視点を持ってひとつひとつのルールを丁寧に考える。そのプロセスを通して、ルールは人から与えられるものではなく、自分たちで主体的に考えて変えていけるものだということを体感してほしいです。

また各校で温度感や進度がバラバラにならないように、スタートアップ期の現段階では、私がイニシアチブをとってスキームの作成などを行っています。

6校同時のプロジェクトとなると、ステークホルダーもかなり多くなってきますよね。その中で全体を把握してイニシアチブをとるのは本当に大変なことだと思います。

伊東校長:校長は見守るべきか、先頭に立って推進していくべきか、という議論がよく出てきます。これには正解はありません。しかし、初めてのトライアルの場合などは、私は校長が先頭に立って進めていくべきだと考えています。チームに全てを任せてしまうことは、確かに先生方の成長に寄与する部分はあるものの、やはり負担が大きく、なかなか前に進みづらいです。

新しい取り組みに躊躇する先生の中には「やったほうが良いとは思っているが現実的にできるイメージがつかない」という方もいます。そうであれば、やはり最初は校長である自分が行動して、イメージを持ってもらうことも必要だと思います。

ルールメイキングを行う上で、生徒の提案に「反対役」として意見する役割はどの立場の教員が担っていましたか?

伊東校長:学校内の特定の教員が担うのではなく、生徒の提案に対して協議する組織「オール西都校則検討委員会」を設置しました。各学校の教職員・保護者の方・地域の方が1名ずつ入っていただいている組織です。生徒たちはこの「組織」に対して提案していくことになります。

この形であれば、「反対役」の教員と生徒の間での対立図式が生まれることもありません。結果として生徒指導部の教員は、伴走しながら事務局として生徒たちのルールメイキングを支える役割に徹することができています。

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6校で推進しているルールメイキング

変化していく社会、変化していく学校や教員のあり方

西都市でのこれからのルールメイキングにはどんなことを期待していますか?

伊東校長:私が穂北中学校に着任した昨年度から、生徒たちに2つの変化が起きていることを感じています。

1つ目に、「チームで考えよう」という意識が高まっているということ。市内6校で同時に行っているので、生徒たちの提案は他校の生徒や校則検討委員会といった学校外の人からの評価を受けることになります。穂北中というチームとして、きちんとした提案をつくっていこうという思いが生徒のなかに生まれているようです。

2つ目に、主体性が出てきたということ。西都市では昨年度から、総合的な学習の時間における中学3年生の内容を、中高生徒と教員と保護者と地域が一緒になって決めるという取り組みも行っています。生徒自身がどういう学びが必要かを問い、実際に学習内容を決めていくものです。

このような取り組みのなかで、以前はただ与えられるものを受け入れるだけだった生徒たちが、主体性を持ってさまざまな意見を出してくれるようになってきたのを感じます。

ルールメイキングを通じて、このような変化がさらに広がっていっていくことを期待しています。

これからの学校の先生の役割はどのようなものであるとお考えですか?

伊東校長:ともに考え、ともに学ぶ「伴走者」だと思います。
というのも、ここ20年ほどの間に時代は大きく変化しました。みなさんそれぞれに様々な変化を感じられているとは思いますが、わたし自身が強く注目していることは「既存のシステムやルールを問い直す」ことの必要性の高まりです。

例えば近年、不登校の子が増え続けていますよね。これは、ある意味これまでの学校システムの “制度疲労”だと思えます。みんなと同じルールに沿って、同じように行動することに適応できない子がこれほどまでに大勢いるのに、教育の仕組みはなかなか変わっていません。しかしこういった状況を見れば、いまある学校教育の制度、そのものを問い直すことも必要になってくると思います。

このように当たり前となってしまったものを常にクリティカルに問い続ける姿勢が教員に求められる時代になってきていると思います。学校でずっと仕事をし続けていることは、ずっとバッターボックスに立ち続けているようなもの。自分のパフォーマンスをメタ的に振り返る機会が乏しくなりがちです。
しかし社会に目を向けながら、物事をゆっくり考える時間を持つことは大切です。僕の周りにいる先生方は、段々と意識が変わってきていると感じます。

また教育支援のNPO団体によって学校教育の姿も変わってきていると感じます。今まで、学校が届かなかったところにNPO団体の方々が入ってくれていますよね。そうしたマインドは学校に取り入れていきたいですし、最終的にはNPO団体の力を借りずとも学校が自走できるようになっていくのが一番いいですからね。

ルールメイキングの今後の展望を教えてください。

伊東校長:子どもたちにとってワクワクする活動であってほしいです。まだまだ取り組む学校の少ないルールメイキングをやりきり、「先頭を走る」ということの充実感や達成感を持ってもらいたいです。

本校のキーワードとして「挑戦」を掲げています。ルールメイキングが、挑戦のための一歩目を踏み出すきっかけとなればよいと考えています。

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