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全国のルールメイカーが「わかりあえなさ」に向き合った一日 ルールメイキング・サミット2024開催レポート
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全国でルールメイキングに取り組む中高生100人が一堂に会し、社会で活躍するルールメイカーとの対話を通して学びを深めるイベント「ルールメイキング・サミット2024」が2024年10月13日、東洋大学白山キャンパス(東京・文京区)で開催されました。
3回目となる今回のテーマは「ルールメイキングにおける『わかりあえなさ』を乗り越える」。サミットのために独自開発したボードゲーム体験や、教員と企業ボランティアがファシリテーターを務めたホームグループでの交流などを通して、生徒も大人も対話を通した合意形成への道のりを学ぶ一日となりました。
「互いのゴールの違いを知れば、協力できるようになる」
サミットに参加したのは、全国の中学・高校計40校から招待された生徒100人。各校の教員に加え、日頃からルールメイキングに関わる教員や、ルールメイキングの活動に賛同する複数の企業社員がファシリテーターとして計39人参加し、会場は熱気に包まれました。
開会式を終えると、生徒たちは地域・学校・学年などが異なる5〜6人で構成される「ホームグループ」に分かれ、今回のサミットのためにカタリバが独自開発したボードゲーム「ルールメイキング対話クエスト」を使ったワークショップに臨みました。
ルールメイキング対話クエストは、生徒ひとりひとりが異なる街の勇者となり、街を救うために魔王を倒す旅に出るという設定のボードゲームです。勇者となった生徒には、一人ずつ異なるミッションが与えられ、生徒はそれをクリアしながらゴールを目指します。
1回目のプレイではお互いのゴールやミッションを隠した状態でスタート。開始すると、自分が一番にゴールするために、お互いの進路を妨害し合って「時間が足りなくてゴールできなかった」「ミッションが難しすぎて、ひとりではどうしてもクリアできそうになかったけど、誰も協力してもらえなかった」などの声が。ホームグループによっては一人だけがゴールしたり誰もゴールすることができなかったりと、ゲームの結果もさまざまでした。
ここで、ファシリテーターからゲームの「本当の目的」が説明されます。これは、「お互いの行動や意見の理由、背景を知り合い、みんなが合意できる目的=最上位目的を共有する」ことを体感するゲームだったのです。
これを踏まえて2回目のプレイでは、生徒同士が事前にそれぞれのゴールとミッションを共有。すると、1回目の半分程度の時間で全員がゴール・ミッションクリアできるグループが現れたほか、「君はここに移動したいはずだから、おれがこの敵も倒しておくよ」と相手のメリットを考慮するなど、プレイ内容にも大きな変化が現れました。
ゲーム終了後は、ホームグループ内での振り返りが行われます。生徒たちは、「2回目は自分だけじゃなくて、みんなでミッションを達成しようと思えた」「それぞれの目的が分かれば、協力の仕方も考えることができた」「『自分はこうしたい、したくない』みたいに、自分のことをしっかり知ってもらわないといけないから、ちゃんと話をすることが大事だった」など、口々に1回目と2回目の変化を語り合いながら、「普段、学校ではお互いの背景事情や考えを共有して合意形成ができているか?」という問いについても対話を進めていました。
終了後、参加した初芝立命館中学校3年の寺本真那斗さんは取材に対して「ゲームをやってみてはじめて、『普段はこんなに相手の事情を考えていなかったな』と気づけた。他の中高生の学校事情も聞くことができて、一気に仲良くなれた」と嬉しそうに話しました。
中高生だけの問題ではない、「わかりあえなさ」
サミットの後半では、「ルールメイキングの現在地を知る」と題したトークセッションが行われました。カタリバの今村久美代表理事をナビゲーターとして、慶應義塾大学の中室牧子さん・総合教育学部教授、株式会社リキタスの栗本拓幸さん・代表取締役CEOをサポーターとして登壇し、それぞれの活動内容を紹介。さらに高校生のルールメイカー2人も登壇し、サポーターとトークセッションを行いました。
中室さんは、自身が参加する内閣府の規制改革推進会議の概要を紹介し、「国全体のルールを変えること」に取り組んできたことを説明しました。たとえば、コンビニでの公共料金支払いについて。現行のルールでは関係書類を紙で保管することが義務付けられており、これによって年間約24億円のコストが掛かっているという問題が会議で扱われたといいます。中室さんは、「デジタルデータで保管すればこれらのコストは解消できる一方、セキュリティやデータ破損などのリスクがある。さらに、所管が総務省と国税庁の2つにまたがっていることで、ルール見直しに向けた合意形成が難しくなっている」と話しました。
このエピソードには、中高生が取り組むルールメイキングにも通ずる、立場による「わかりあえなさ」がありました。登壇した私立の中高一貫校に通うY・Kさんは、校則について教員と生徒で対話する場を開催しようとしても教員の理解が得られず、告知ポスターを剥がされてしまう経験をしたと語ります。
中室さんは、「規制改革推進会議でも、話を聞いてもらえなかったり、相手を意見を批判し合うようなことは起こってしまうことがあります」と冗談めかした上で、「人の気持ちは、一瞬では変えられない。民主主義の中で物事を変えていくためには、時間をかけて繰り返し伝えていかないといけない」「私であれば、一人ひとりに個別で話しをし、自分の意見を伝えていきます。個別に先生と話し合いをしていって、協力してくれる先生が一人でも二人でも出てくるところから始めるといいと思う」などのアドバイスをおくりました。
「自分は社会を変えられる」と思えるまで
栗本さんは、オンラインで意見やアイデアを投稿・集約・分析できるプラットフォーム「Liqlid(リクリッド)」のサービスを紹介。ルールメイキング・サミットに参加する中高生たちが日頃感じている悩みや取り組んでいるテーマについて、事前にリクリッド上で実施したアンケート結果を発表しました。
「自分の意見に価値があると思うか」「まわりの大人は自分の意見を聞いてくれるか」といった設問については、肯定的な回答の割合が比較的に高く寄せられる中、栗本さんが注目したのは「自分の行動で社会を変えられると思うか」という設問の肯定的回答が低かった点。「学校の中では周囲の大人が意見を聞いてくれていると感じている一方で、「対象が社会になると『あまりそう思わない』の回答比率が一気に高まっている。日常的な学校社会と、社会全体の間に分断があるのかも」と指摘します。
これを受け、京都府立清明高等学校の畠中栄太朗さんは、「社会を変えていっていいんだ」と思えるようになった経緯を振り返りました。過去に生徒会長を務めていた畠中さんは、他の生徒から「標準服制度を導入したい」という声を寄せられた際に、つい「そんなことできるわけがない」と言ってしまったと明かします。今の校則のままで満足しているし、ルールを変えてしまったら居心地の良さが失われてしまうと懸念したのです。
しかし、畠中さんはディスレクシア(読み書き障害)という自身の一面もあり、「自分が『今の常識』を疑わなくていいのか」と考え始めます。そして、「校則を変えてみよう」と教員からも声をかけられたことで、少しずつ「社会の常識は変えられる」「むしろ、当たり前を変えていく立場になろう」と感じるようになったと語りました。
栗本さんは、「ルールを変えていくときって、自分の中の炎が大きいんです。『自分にできることってなんだろうか』『なぜ自分はルールを変えられるのか』という発想はすごく大事だと思います」と頷きます。中室さんも、ルールをいきなり完全に変更すると、不安を感じたり反対の意見が出てくるという生徒らの悩みに対して、一定期間だけ試行錯誤しながら変更を実証実験する「サンドボックス」の考え方を共有し、「変えることでのデメリット」への向き合い方を示唆しました。
熱量を伝播させて、仲間を増やしていく
トークセッションが終わると、生徒たちは再びホームグループに戻り、感じたことや気づいたことを振り返りました。
ある生徒は「自分はもう高校3年だが、今後は(サミットに参加した)教員や企業の方のように、ファシリテーターなど別の形でルールメイキングに関わりを続けていきたい」と宣言。ほかにも、「『ブラック校則』という言葉は生徒と教員の対立を深めてしまうが、本来はお互いに一緒にやっていくことが大事だと感じた」「今までの人生で多数派になったことがなく、自分の声を届けられた経験が無かった。でも今日のサミットでは、想いを話せば受け入れてくれる人がたくさんいた。誰でもまずは声を挙げられるようになってほしい」など、たくさんの感想が寄せられていました。
岩手県立大槌高等学校から参加した1年生の小岩波月さんはサミット終了後、「自分の学校ではまだまだ(ルールメイキングの)関心が低く、参加率も低いです。でも今日のサミットで、初めて出会う中高生と協力し合いながら過ごした時間は、単純に楽しかった。今はまだルールメイキングに関心がない人こそ、来年は参加してほしいので、少しずつ周りの生徒にも教員にも働きかけていきたいです」と笑顔で語りました。
子ども・大人・立場を問わず、全国のルールメイカーが一堂に会したルールメイキング・サミット2024。全プログラムを終え、中には「真剣に議論する生徒の姿に感動した」と涙ぐむ教員の姿も。それぞれ別れを惜しみながら、そして、サミットで得た熱量を日頃の活動に持ち帰る決意を新たに、参加者たちは会場を後にしました。
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