【ルールメイキング経験者インタビュー・藤田星流さん】―「弱さを吐き出せる社会」のために、安心安全な対話を―

 中高時代に校則見直しプロジェクトに取り組んでいた大学生、「せいる」こと藤田星流 (ふじたせいる) さん(以下、せいる)。現在は自ら福祉施設を立ち上げたり、主権者教育事業に関わるなど精力的に活動するせいるさんが目指すのは、「自分の弱さを吐き出せる社会」です。

 「強くならなければやりたいことはできない」と考えていたせいるさんが、ルールメイキング活動を通して「安心安全な対話」を重視するようになっていった理由を探るため、お話を伺ってきました。

藤田星流

中央大学法学部2年

藤田星流

2003年、東京出身。
子どもの権利保障を軸に、社会的養護の子どもの意見表明支援や中高生の居場所づくり、主権者教育の実践など幅広く活動。また、自身も若者の1人として、行政審議会の委員や若者政策に関する政策提言などを行う。
散歩とみかんが好き。

自分の育った環境が、諦めの気持ちを生んでいた中学時代

―よろしくお願いします。せいるさんは高校時代から校則見直しに取り組み、カタリバの「みんなのルールメイキング宣言」に向けた「みんなのルールメイキング委員会」の中高生メンバーとして参加していました。まずは、高校時代の活動について教えてください。

せいる:僕は都内の中高一貫校に通い、生徒会メンバーとして活動していました。元々「もっと学校を面白い場所にしたい」と不満を持っていたタイプで(笑)、教員・生徒・保護者による「三者協議会」が形骸化していることを知って、高校1年の時に「もっと多くの人を巻き込んで盛り上げたい」と運営に関わるようになりました。

 通っていた学校は、高校生は私服だけど中学生は制服があって。ほかにも、校則には明記されていなくても髪色などについての指導が多く、生徒たちは不満を持っていました。そこで、三者協議会のテーマを「制服のあり方を考える」と設定し、協力してくれる先生とともに協議を重ねた結果、高校2年の頃に、実際に「服装の自由化」と「式典時のみの正装規定」(標準服)が導入されました。

 

―1年間の話し合いで、制服が無くなったというのは大きな変化ですね。そもそもなぜ生徒会に入ろうと思ったのですか?

せいる:(考え込んで)うーん…。僕は困難な家庭環境で育っていて、高校時代には児童相談所の一時保護所で生活していた経験もありました。そういったバックグラウンドだから、中学時代は「自分を理解して応援してくれる大人なんていない。やりたいことを口に出しても実現は無理」と諦めのマインドがあって。「やりたいことをやるためには、発言権のある強いポストに就かないといけない」と考えて生徒会に入りました。

 

―その後、生徒会として活動する中で自分の変化はありましたか。

せいる:「言ってみれば意外とできる」と考えられるようになりました。口に出せば、協力してくれる大人がたくさんいて、信頼できる仲間がいる。誰でも自分自身の意見を言えるように、安心して本音を語り合える「対話」の機会をしっかり用意しておくことの重要性を感じました。

 実際に自分の周囲にも影響があった例があります。

 高校2年の時、コロナ禍まっさかりの中で、学校側から、僕たちの学年だけに向けた特別な生活ルールが設定されて、「登校したらまず顔を洗うこと」などが決められていたんです。この時、率先して学校と話し合ってくれた同級生がいて、話し合いの末に特別ルールは撤回されたのですが、この同級生は、制服について話し合った「三者協議会」に参加していた生徒でした。元々は自ら声を上げるようなタイプではなかったのですが、対話とアクションによる小さな成功体験が、人の考え方を変えられるんだなと意義を感じられた瞬間でした。

「良い社会」ばかりではないから、子どもの声を聴く社会に

―学校内の取り組みをきっかけに、せいるさんは校外にも活動の幅を広げていきました。

せいる:自校での取り組みを経て「学校内民主主義」に関心が芽生えて、カタリバのルールメイキングの取り組みを知り、「みんなのルールメイキング委員会」の中高生メンバーとして参加しました。自分が学校内でやってきた取り組みを他の参加校に共有したり、進めるうえで大事だと感じたポイントを共有したりしながら、みんなのルールメイキング宣言の草案づくりに関わりました。

 

―どういう心境で取り組まれたのでしょうか。

せいる:僕の学校は、大人が生徒の活動を応援してくれる「良い社会」でした。でも、小学校の時の友達と話した時、「ブラック校則が本当にある」「校則が生徒に公開されていない」など、あまりに異なる環境にショックを受けました。それがきっかけで、自校だけでなく、どの学校でも、運営に生徒が主体的に参画していくべきだと考えるようになったし、子どもの声を聴く社会にしなければいけないと思うようになったんです。

 子どもの声を聴かない社会は、立場の弱い大人の声も聴かない社会になっていくのではないかと考えています。僕自身、育った環境もあって「誰もが強く生きていくことは難しい」と感じていたからこそ、そこに対する危機感がありました。

 

―高校卒業後は福祉や主権者教育の分野で、積極的に活動されています。

せいる:「子どもの権利保証や意見表明支援の分野にコミットしたい」という気持ちが軸になっています。たとえば現在は、「グレーゾーン」の子どもも通えるフリースクールや障害者施設を立ち上げて、経営に携わっています。子どもが意見を言えるような場を作りたいし、自分たちはそれを社会に反映するための「代弁者」でありたいと思っています。

 また、大学のサークル活動では主権者教育の出前授業も行っていて、子どもが自分の力で発信できるようになるサポートもしていきたいと考えています。子どもの意見表明を支える「個別アドボカシー」と、社会に働きかけて変革を求める「システムアドボカシー」は両輪だと考えています。ルールメイキングなど、校則見直しは近年多くの学校に広がってきているので、そこでの経験をもとに、今後は学校の外の社会に対しても、子ども・若者が主体的に意見を表明できるようになっていってほしいと思っています。

自分の弱さや想いを、安心して話せる場が大切

―そしてカタリバの学生パートナーとしても活躍されていますね。

せいる:文京区青少年プラザb-labのボランティアを経て、今年度は東京都中野区での中高生向けワークショップの運営に携わっています。自分が実現したい「生きやすい社会」は、(意見を積極的に表明することだけではなく)多くの人が自分の弱いところを受容できて、他人に助けを求められる社会。そして同時に、自分の特権性を自覚して、他者を意識した行動ができる社会です。

 そのためには、自分以外の声を聴いて、お互いの立場を理解する対話が重要ですが、なによりも、心理的安全性が担保された場で「自分の弱さ」を話せる環境が大事だと思うんです。それが子どもにとって怖いことではなく、受け止めてくれる大人がいるという状態が当たり前になってほしい。そう考えて、居場所づくりの方面でも活動しています。

 

―これからルールメイキングに取り組む高校生たちに向けて、メッセージをお願いします。

せいる:まずは疑問や違和感を声に出してみてほしいです。目的や趣旨を見失ったルールは世の中にたくさんあります。それに「なんとなく」追従することはヘルシーではありません。残念なことに、当事者の感じる問題意識は、当事者が声を上げないと変わっていきません。

 もちろん、うまくいくことばかりではないと思います。でも、もし身の回りに力になってくれる大人がいないと感じても、社会にはたくさんいます。

 また、声を上げて取り組んでも、思うような結果が出ないこともあるかもしれません。それでも、あなたが描いたビジョンは、少し場所を変えれば輝くかもしれないし、今は無理でも、半年後には実現できるようになっているかもしれません。どうかあきらめないで、と願っています。

 

 

 

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