「絶望」「敵」と思っていた先生と、共通の目標を見つけて手を取るまで。ー【ルールメイキング経験者インタビュー②】阿部結衣さんー

 中高時代に校則見直しプロジェクトに取り組んでいた大学生、阿部結衣さん。生徒会として、頭髪や制服に関する学校の規定を変えようと挑んだものの、当初は先生の理解と協力を得られず、感じたことは「先生の手下になったような絶望」。

 そんな阿部さんが、全国でルールメイキングに関わる同世代が集まった「ルールメイキングサミット」をきっかけに、先生との立場を違いを超えて、協働に向けて動き出せたのはなぜなのか?ご本人にお話を伺ってきました。

阿部結衣

横浜国立大学経営学部1年

阿部結衣

2005年、横浜出身。中高一貫校に進学し、4年にわたり生徒会役員を務める。2022年度には生徒会長を務めた。
校則改定活動を通じて学校社会の課題に直面し、組織論やマネジメントに興味を持つ。
趣味はフットサルとF1観戦。

「なんでこの学校に来たんだろう」―光が見えない状況に

ーよろしくお願いします。阿部さんは中高時代、校則について取り組んでいたんですよね。

阿部:中学2年の頃に生徒会に入ってから、先輩から誘われて、目安箱に届いていた「女子の靴下の長さを自由にしたい」という意見の実現に関わることになりました。最初は「靴下の長さくらい、簡単に変えられそうだし面白そう」と思っていました。

でも、全然簡単にはいきませんでした。数年活動していくうちに頼れる先輩が卒業してしまい、高校1年のときには先生との対立期に入ってしまって。先生に対しても良い感情を持てなくなってしまいました。

 

ー対立期というと、学校との話し合いがうまくいかなかったんですか?

阿部:頭髪や制服の決まりについて、何を提案しても否定的な答えしか返ってこなかったし、会議にも出席させてもらえなくて。無理やり押し切って一度会議に出たことがあるんですが、生徒4人に対して先生が15人。怖かったし、声が震えて、言いたいことが言えなかったんです。

先生は「校則を変えるためには、まずはちゃんと守ろう」という考えだけど、生徒は「納得できていないから守れてない」という溝がありました。でも、先生が決定権を持っているから、従わなければいけない。結局私が毎朝「校則を守ってください」と生徒に声掛けをしたり、制服を着崩している人数をカウントしたりしましたが、先生の手下になった気持ちでした。

友達が、私の前で慌ててシャツのボタンを留める姿を見て、つらくなったこともあります。それでも、「私が苦しんでちゃだめだ」って考えて…。自分が苦しいということを当時は認められませんでした。

 

ーとてもつらい体験でしたね。
阿部:当時、生徒会の担当の先生もいたんですが、生徒会が活発に活動すればするほど仕事が増えるから、活動しないでほしいと思っているようにすら感じてしまいました。本当に学校も先生も嫌になって、「なんでこの学校に来ちゃったんだろう」とも考えて。光が見えない状況でした。

「最上位目標」は、生徒も先生も同じはず

ーそんな中、カタリバのオンラインプログラムに参加してくれました。

阿部:高校2年の時ですね。もう限界で、校則の活動からも離れようかなと思っていたとき、とある先生の紹介でカタリバを知りました。「ずっと校内でしか活動していなかったから、最後にちゃんと発表してみよう」という軽い気持ちで参加を決めたんです。

実際に参加してみて、「校則見直しについて、大人が率先して考えている」ことに衝撃を受けました。ルールメイキングって、大人が良い印象を持たないと思い込んでいたので。その場で「ルールメイキング・サミット2022」(※2022年はオンラインでの開催)のお誘いも頂いて、「もっと話を聞いてもらえるかもしれない」と思い、サミットへの参加を決めました。

 

ーサミットでは、中学時代からの取組の内容を発表されました。印象に残っていることはありますか?

阿部:初めて大人に認めてもらえたことが一番印象的でした。担当していただいた苫野さん(苫野一徳氏、教育学者)やカタリバのスタッフさんに、「つらかったよね」「頑張ってきたね」と励ましてもらったことで、結果だけじゃなくて、プロセスを見てくれる人がいるんだと分かりました。

あの経験がなければ、大人や社会に対して絶望したままだったと思います。本当に嬉しくて、帰り道は生徒会の友達と飛び跳ねながら帰ったことを覚えています。

 

ー学校生活に戻ってからは、何か変化はあったのでしょうか。

阿部:苫野さんのお話を聞いて、「最上位目標」という考え方を知ったことがとても大きかったです。先生も生徒も保護者も、全員が合意できる目標を立てて、そこから具体的な取り組みを検討するべきではないかと考えるようになりました。そこから生徒会の後輩たちと話し合いを重ねて、最上位目標は「いい学校を作ること」に決めました。「先生の手下」に思えた生徒会の立場についても、改めて考えていくと、先生には先生なりの立場や考え方があるのではないか、と思えるようになったんです。
私たちの考え方が変わったことで、今まで「敵」だと思っていた先生を、「手段が違うだけで目標は同じ」と捉えられるようになった。すると、先生が私たちを見る目も変わっていって。自分たちの見方ひとつで状況が変わって、仲間になっていけたと思います。

ルールメイキング・サミット2023では、オープニングセッションに登壇。苫野氏(右)とのクロストークを行った

 

ーいきなり学校内の環境は変わらなくても、見え方が少しずつ違ってきたんですね。

阿部:もちろん、学校内での意思決定プロセスにはまだ課題がありました。「修学旅行にスマートフォンを持参してはいけない」という決まりに対して、同学年200人から署名を集めて、持参を認めてもらおうとしたんです。でも、先生からは「こんなことをするなんて、がっかりした」とまで言われてしまって。

とてもつらかったですが、それでも「いい学校を作る」という最上位目標に立ち返ったら、この署名活動は間違っていなかったと思えました。校則についても同じです。生徒のための校則なのに、先生だけが出席する会議で決めることがおかしいのではないかと考え、多くの先生と話し合いを続けました。活動する理由、軸ができたから、大人を敵視したり怖がったりせず、少しずつ応援してくれる大人を巻き込みながら進められたんだと思います。

最終的には、「校則の校則をつくる」という活動が立ち上がることになりました。これまでは、生徒心得なのか校則なのかも分からず、変えるためのルールも無かった。それはおかしいのではないかと先生も理解してくれて。私が高校を卒業する前の最後の会議で、先生が「今までの校則すべてを精査して、残すべきもの、無くすべきものを検討します」と宣言してくれました。

 

ー大きな達成感だったと思います。阿部さん自身は、この活動全体を通して、変化したと感じる点はありますか。

阿部:進路にも影響がありました。もともとは理系志望だったんですが、生徒会での経験から「人の感情って難しいな」と感じて。正しいことでも、相手に理解してもらえなかったら、受け入れてもらえない。どんなに良い案でも、実現しない。それが分かったので、もっと人の感情や組織のあり方を学びたいなと思い、経営学部に進学しました。

校則の見直しやルールメイキングに関わることで、色んな考え方・価値観の人と、互いの立場を受け入れて対等に話していく経験ができました。社会に出てからも必要なこと、将来にも役立つことを学べたと思っています。何より、私は一緒に取り組んだ大切な仲間を得ることができました。

これから取り組む中学生や高校生にも、辛いときもあるかもしれませんが、ぜひ楽しみながら活動してほしいなと思います。

 

 

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