熱量は教員にも伝播するーールールメイキング・サミットを見てファシリテーターに憧れた教員の思いとは

 全国で校則見直しやルールメイキングに取り組む中高生100名が東京に集う「ルールメイキング・サミット」。生徒だけでなく教員の一般観覧も可能で、サミットの熱量を現地で体感したことで教育観に大きな変化が生まれた教員の方もいます。2023年度のサミットを観覧した追手門学院大手前中高等学校(当時)の廣井陸さん(以下、廣井)もそのひとり。サミットからどんな学びや気付きを持ち帰り、自身の現場へ活かしていったのか、インタビューを実施しました。

廣井陸

初芝立命館中学校・高等学校

廣井陸

奈良教育大学大学院 数学教育専修修了。大阪府の私立中高一貫校で勤務し、5年目を迎える。前任校の追手門学院大手前中高で2022年度より生徒会を担当し、「生徒主体の学校づくり」を目指し教育活動を行うなかで、ルールメイキングプロジェクトに出会う。2024年からは青山学院大学のワークショップデザイナー育成プログラムに参加し、ワークショップの理論と実践を学ぶ。現在は、ワークショップの要素を教育に活かすことを意識しつつ、「生徒が主語となる」ような自らの理想とする教育観を探究中。

  

ーよろしくお願いします。廣井さんとルールメイキングの出会いは2023年度になるでしょうか。

廣井:もう少し前、2023年1月に関西で実施された、ルールメイキングに関わる生徒の交流イベント(関西地域生徒大会)に参加していました。2022年度春から追手門学院大手前中・高等学校で生徒会の担当をしていまして、やっと生徒会のスケジュール感覚がつかめてきて「次年度はどんなことをしようかな」と考えていたところ、SNSでイベントの存在を知って。

 当時生徒会の中でも校則の話題が出ていたのですが、生徒の意見をどう吸い上げて実現していけば良いのか、迷いがありました。他校の事例から何かヒントを得たいなと考えて参加しましたが、学校側の理解を得られるか不安だったので、上司にも同僚にも黙って一人で申し込みました(笑)。

関西地域生徒大会2023の様子

ー実際に関西地域生徒大会に参加されていかがでしたか?

廣井:たくさんのヒントを貰えました。悩みは他の学校も同じなんだな、と思えたのが大きかったですね。その上で、学校によって校則を変える手順も実現度合いも違うことも分かり、「じゃあうちの学校の場合は、どんな順番が良いかな」と改めて考えるきっかけになったと感じます。

 実際その後の数ヶ月で、マフラーに関して学校購入品だけでなく私物の使用を認めるなど、一定の成果を出すところまで進められました。その成功体験を踏まえて、2023年度は話し合う対象を「校則」から「学校全体」に広げることになり、生徒目線で思いつくトピックを挙げてもらいました。その中から「ドリンク自動販売機の値下げとジュース類の販売」「アイスクリームの自動販売機の設置」「靴下の規定の見直し」の3つに絞って、実際に取り組みを進めていきました。

 結果的に、ドリンクの自動販売機についてはPTAの補助を得て、実際に全商品40円ずつ値下げすることができたんです。アイスクリームの方も、業者さんと生徒で打ち合わせを重ねて、設置場所の検討や設置できた際のルールなどの議論も進めていきました。

生徒会での話し合いの様子

ーかなりのスピード感と実行力をもってルールメイキングが進んでいった印象です。

廣井:関西地域生徒大会に参加してから、「自分の学校の生徒にも、同じようなルールメイキングのイベントで発表してほしい」という想いを持って進めていたことが大きいと思います。期限を決めることで生徒のやる気を高めて、しっかり成果を出したいと考えていたのがうまくいったかなと。実際、マフラーの校則改定とアイスクリーム自販機設置に向けた取り組みのことを動画にまとめて応募し、無事にサミットに参加できることになりました。

 私自身は、2023年度のサミット本番は生徒を引率する許可が降りなかったんですよね(笑)。それでも、ここまで一緒にやってきた生徒がどんなことを話すのか、どんな時間を過ごすのかを見たかったので、個人で観覧に申し込んで参加することにしました。

 

ルールメイキング・サミット2023の様子

ー一般観覧としてサミットをご覧になってみて、印象的だったことはありますか?

廣井:とにかく規模が大きくて、すごいところに来たなと思いました。特に印象的だったのは、生徒たちがグループになって、1分間ずつ発表する「100人100物語ピッチ」の時間です。各グループでファシリテーターを務めていた方々が、絶対に生徒を否定せず、ちょっとしたことでも必ず相槌を打ちながら話を聞いていて。こんな方々がいたら、高校生たちは「自分のやっていることは間違っていないんだ」と思いながら帰れるだろうなと感じたし、自分もファシリテーターをやってみたいと強く嫉妬したんです(笑)。

 

 

ー生徒の姿だけではなく、関わる大人の姿に刺激を受けたんですね。

廣井:ルールメイキングの進め方に迷いがあった自分にとって、「こういう風になれたらな」という教員としてのロールモデルを見たような気持ちでした。生徒のアイデアの中から現実的に可能そうなものだけをピックアップして実現していくのではなく、生徒が自分の考えに向けて実際に動いてみること自体に価値があるんだなと学ばせてもらって。まずは生徒を肯定して、一緒に取り組んでいこうと思いました。

 学校に戻ってからは、正直に言うと、各取り組み自体は難しさに直面しました。アイスクリームの自動販売機は最終的に学校承認を得られないなど、生徒と大人との合意形成ができず、悔しい思いもして。でも、生徒たち自身に考えてもらう時間を増やし、議論が煮詰まったときに自分も入るようにするなど、ファシリテーターとしての生徒との関わり方には手応えがありました。

 

ーサミット後は、ルールメイキングに関わる生徒・教員向けのイベントにも積極的に参加してくださっていましたね。

廣井:やっぱり感銘を受けたので、どんどん(イベントに)参加したいなと思ったんですよね。ルールメイキングのイベントは「生徒の意見を否定せず、寄り添い、その子の考えに伴走し、自己肯定感をあげてくれる心理的安全性が高い場」だと感じているからです。

 前任校の追手門学院大手前の生徒は実際に、イベントでの司会進行やトークセッションなど、普通ではできない経験をたくさんさせていただきました。今年度の7月には、関西でルールメイキングを行う生徒や教員が追手門学院大手前に集う「ルールメイキング対話カフェ」を生徒自身が企画・運営をしてくれて、約70人の方に参加していただくことができました。

 こうして、ルールメイキングの活動を通して生徒の成長を実感できているからこそ、もっと他校にも広げたいなと思っています。今度は自分がファシリテーター側として、私なりに他のいろんな学校の生徒の悩みを聞いて、整理するお手伝いを一緒にさせてもらえたらと。

 ルールメイキングって、偏差値や学力偏重的な価値観ではないから、いろんな生徒が輝ける、救われる機会なんですよね。生徒の自己肯定感が高まる部分に手を差し伸べられるという魅力を、もっといろんな教員に伝えたいと思ったのかもしれません。何より、ファシリテーター的な動きって、自分のスキルも身につくし、普通に授業しているより楽しいんですよね(笑)。

ルールメイキング対話カフェの様子

ーそして、今年度からは初芝立命館中学校・高等学校で勤務され、今年のサミットにもエントリー頂いています。

廣井:実は今の学校は、ルールメイキング的な活動はまだやっていないんですよ。でも校長は「生徒がもっと校長室に来てくれたら良いのに」と言っているくらい、すごく理解がある人で。活動していくチャンスがあるなと思って、生徒会担当の教員にサミットをおすすめしてみました。せっかく校長がそういうタイプなのにルールメイキングに取り組まないのはもったいないので、少しでも動きが生まれたらいいなと。

とはいえ生徒会の担当でもないので、今年のサミットも引率ではなく、昨年やってみたいと思っていたファシリテーターの立場で参加できることになりました。担当するグループのファシリテーターも務めつつ、参加する初芝立命館の生徒や前任の追手門学院大手前の生徒を見守りたいと思います。

ルールメイキング・サミット2024に関わるメンバーの打ち合わせ風景

ーそれだけ熱中してしまうほどの、ルールメイキング・サミット観覧の魅力を教えてください。

廣井:何がこんなに楽しいんだろう…。普段とは違う生徒の一面を見ることができる点が大きいかもしれません。学校では、生徒は授業についていけなくなると「もういいや」「分からへん」と諦めてしまうこともあります。でもサミットの場では、ついていこうと必死に頑張る姿が見られる。生徒が成長する瞬間を目の前で見ることができるんですよね。

 教員としての原点を思い出せるという側面もあると思います。普段の教室では「担任と生徒」のような関係性になってしまうけど、サミットのような場では、ひとりの人間として生徒と向き合うことができるんです。

 追手門学院大手前の生徒たちとも、また今年のサミットで会えると思います。こういう活動をしてきた生徒たちがどんな大人になっていくのか?にもすごく興味があるので、これからも追いかけていきたいと思います。

 

■ルールメイキング・サミット2024一般観覧受付中

ルールメイキング・サミット2024の一般観覧申込みは、現在受付中です。
学校関係者をはじめ、校則見直しや生徒自治に関心がある自治体関係者や企業の方など、どなたでもご参加いただけます。

また、教育関係者(教員や教育委員会、教育業界従事者)につきましては、第1部(11時30分より受付開始)から参加することができ、生徒向けのプログラムと同時に開催する「教育関係者向け伴走者フォーラム」にもご参加することができますので、ぜひのこの機会にご参加ください。

ルールメイキング・サミット2024
主 催:認定NPO法人カタリバ、日本シティズンシップ教育フォーラム
助 成:公益財団法人 日本財団
後 援:経済産業省
日 時:2024年10月13日(日)12:00-17:00 ※開始・終了時間は予告なく前後する可能性があります
場 所:東洋大学 白山キャンパス(東京都文京区)
費 用:無料
対 象:
【招待生枠】全国でルールメイキングに取り組む中学生・高校生 ※すでに募集終了しています
【観覧枠】どなたでも可(学生、保護者、学校関係者、自治体関係者、企業の方など)
詳 細:ルールメイキング・サミット2024特設サイト
観 覧:
一般観覧は本イベントの第2部より(15時~17時)よりご観覧いただけます。(14時30分より一般観覧受付開始)
※なお、教育関係者およびサミット招待生の関係者のみ第1部(12時~)観覧可能です。(11時30分より受け付け開始となります)
観覧の受付開始時刻は、プログラム編成の都合により予告なく変更される場合がありますが、予めご了承ください。

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