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「右も左も分からなかった」。若手教員に聞く、ルールメイキングを「引き継ぐ」難しさ
「最初は何からやればいいか分からず、私自身もどうして校則があるんだろう?と理由を説明できなかった」ーー。対話を通じて生徒主体の学校づくりを進めるルールメイキングは、2019年からカタリバが全国の学校現場への支援を開始。2024年10月にはパートナーが440校を超え、活動が広がっていく一方で、現場では担当教員の交代や生徒層の入れ替わりにより、「新たなスタート」に直面している学校もあります。
福島県の伊達市立桃陵中学校も、そんな学校の一つ。今回は、同校で2024年度から新たにルールメイキングの担当となった若手教員の津金大勢さんにインタビューを実施。活動を引き継ぎ、さらに発展させていこうとする奮闘の裏側をお聞きしました。
伊達市立桃陵中学校教諭
津金 大勢
福島県鏡石町出身。高校は安積黎明高等学校に進学。大学は福島大学へ進学。卒業後は、伊達市立桃陵中学校へ着任し、現在2年目。
1年目はルールメイキング委員会の担当ではなかったが、2年目からは、ルールメイキング主担当となる。
ー津金さんは、どのような経緯で今年度からルールメイキングを担当することになったんでしょうか。
津金:昨年度末ごろに、校長から「前任が異動になるから、お願いできるか」と直接指名を受けたんです。(自分が指名された)理由まではわからないんですが、今年度は生徒会の担当も兼ねているので、その流れかなと。
正直に言うとそれまではルールメイキングの取り組み内容をよく知りませんでした。昨年度、ルールメイキングに取り組む生徒たちが私にヒアリングに来たときに初めて「こんな活動があったんだ」と思ったくらいだったんです。
しかも、校長も今年度から交代になり、新しい校長は学校全体の目標設定の中に「ルールメイキングで学校を変えていく」と記されていて。不安は大きかったですが、それだけ期待されている取り組みなので、私も頑張らないといけないな、と思いました。
ーいきなりの大役だったんですね。現在行っている活動についても教えてください。
津金:基本的には、カタリバさんから提供してもらっている「ルールメイキング教員ガイド」を見ながら模索しています(笑)。昨年度までは2~3年生が中心に活動していたんですが、その生徒たちから「1年生も加えるべき」という意見があり、現在は1~3年生の約30名が「頭髪」「服装」「キーホルダー」の3テーマに分かれて話し合いを進めています。
テーマは全校生徒からのアンケートをもとに決めたのですが、特に頭髪については昨年度の担当教員からも「変えたかったけど変えきれなかった」と引継ぎを受けていたものでした。現行の校則では、ツーブロック禁止や男女ともに前髪・襟足の規定などが厳しく存在していますが、「現状ダメな理由は何か?」「どう変えていけばいいのか?」をこれから生徒たちと議論していこうと思っています。
―「キーホルダー」というのはどのようなテーマなんでしょう?
津金:「鞄にキーホルダーなどを付けない。お守りなども最低限にする」という決まりがあるんですね。なぜ禁止なのか、お守りとキーホルダーの違いは何か、なぜ教員はOKなのか…など、私自身も境目が分からず、難しいテーマです。
これを含め、全テーマとも、11月に教員向けの発表・提案の機会を設けようと思っているところです。それに向けて、「色んな生徒の意見を集める」とか「保護者や外部の大人の考えを聞いてみる」などのアクションを予定しています。
―そうした活動を見守る中で、どんな点に迷いや不安を感じますか?
津金:全体のスケジュール感や、集まった意見をどう扱っていけばいいかをまだつかめていないところです。職員会議で「ルールメイキングって、何をやってるの?」と聞かれても、「私もまだ分かりません」としか言えない時期もありましたし。
生徒がたくさん意見を出してくれたとしても、学校側としてどのように合意形成をしていけばいいのか。ルールの変え方も決まっていないし、「いつやるのか」「どうやるのか」など、まとまった路線が無いんです。そもそも教員が一堂に会して生徒の意見を聞ける時間も中々取れないので、私から「申し訳ないんですが、職員会議の後に残って生徒のプレゼンを聞いてください」と頼んで実現するしかないですね。
11月の発表・提案も、まだ調整がついているわけではない(※9月・取材時点)ので、教頭にも声をかけて、まずは日程確保からです。
そんな中ですが、ルールメイキングは今後も続いていく取り組みなので、いつか私の次に担当になる教員のために「桃陵中学校でのルールメイキングの進め方マニュアル」のようなものをまとめようと思っています。今年度私がもがきながら、ロードマップを作っていきたいですね。
―生徒への伴走の面はいかがでしょう。
津金:自主的に集まったメンバーなので、意欲はとても高いです。一方で、「自分が不満だから校則を変えたい」という意見は出ても、客観的・俯瞰的に理想の学校について考えるにはまだ時間がかかるのかなと感じています。
私自身としては、一つのルールを変えるときに、賛成派の意見だけでなく、反対派の生徒の意見もちゃんと聞く場を作りたいんです。ルールを変えるからには、そういう責任を持たないといけないと思うので。そうした話し合いの場を、(ルールメイキングの年間の)流れの中でどういうタイミングで設けるべきかは、「ルールメイキング教員ガイド」を参考にしつつ、ルールメイキング・パートナーが利用できるチャットツールを利用して他校の先生やカタリバに質問を投げることもありますね。
ルールメイキングに取り組みたいけど、右も左も分からない現場担当者にとっては、カタリバのように支援してくれる団体がいることがとても助かっています。
―ここまでの半年間で得た手応えには、どのようなものがありますか?
津金:ここまでは前座で、ここからが大変なんだろうなと思っていますよ。生徒の多様な意見を聞いたり、対話したり、外部の方にもヒアリングをして提案をまとめていったりしますから。より多様な意見も集まる中、合意形成も難しくなると思うので、「どうなるか怖い」という思いは正直あります。でも生徒たちにとって、根拠を持って自分の考えを伝えられる力を養えることはとても大切だとも感じています。
私自身、「なぜ校則はあるんだろう」「無くてもいいんじゃないか」と思ってしまうタイプだったんですが、生徒と一緒に「どうしてこのルールを作ったんだろう」「変えていくためには何が必要なんだろう」と考える良い機会になっています。
―30名のメンバーを集め、テーマを定めて活動が動いているだけでも、簡単ではない成果とも思います。今後への意気込みをお願いします。
津金:私はただ準備をしているだけですよ。校則を変えることで、勉強がしやすくなるとか生活しやすくなるとか、何か意味のあるものが出るならばどんどん時代に合わせて変えていくのがいいと思います。そのプロセスの中で、生徒が色んな人と対話して、多様な意見を集約して納得解を見出してほしいですよね。そうした力は今後、社会でも大事になっていくはずですから。
下半期も生徒の意見を尊重しつつ、私も一緒に対話していくんだという姿勢を大事にしていきたいと思っています。
―ありがとうございました。また冬の時期に、今度は学校現場にお伺いしてお話を聞ければと思います。
津金:是非よろしくお願いします。
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