「疑問を抱えながらやる」から、「生徒と考えるのが楽しい」へ。八王子市立鑓水中学校レポート:前編

インタビュー

学校事例

 対話を通じて、生徒主体の学校づくりに取り組む「みんなのルールメイキング」。2019年の事業開始から5年が経ち、現在は全国400校以上の学校がカタリバとともに活動を行うなど、少しずつ社会に浸透しつつあります。

 八王子市立鑓水中学校も、一昨年から取り組みを始めた学校の一つ。生徒会を担当する同校教員の小嶋拓也さん(以下、小嶋)に、新たにルールメイキングに挑む現場のリアルや担当教員としての思いについて、お話を聞きました。

小嶋拓也(こじま・たくや)

八王子市立鑓水中学校

小嶋拓也(こじま・たくや)

2015年度から練馬区立大泉学園桜中学校、2022年度から八王子市立鑓水中学校でそれぞれ生徒会担当を務める。昨年度は校内で制服業者と生徒会本部で座談会を開催し、その中心を担う。今年度はカタリバから講師を招き、対話的な話合いの実践を行っている。

  

ーよろしくお願いします。鑓水中学校は1998年創立と、比較的新しい学校ですね。

小嶋:はい。新しい学校というのもあり、創立当初から「生徒主体」の校風が掲げられています。例えば、授業ごとのチャイムが鳴らないノー・チャイム制を採用していて、生徒は自分たちで時間管理を行おうと心がけています。 
 

ールールメイキングを始める前から、生徒たちの中に主体性が育っている印象です。

小嶋:比較的穏やかな生徒が多く、授業がやりやすいのは確かです。ただし逆に言うと、自分のことを自分で完結できる代わりに、他の生徒や学校の状況には、必要がなければ干渉しない雰囲気がありました。ここが課題でもあったと感じます。

 

ーなるほど。そんな鑓水中学校がルールメイキングに取り組むまでの経緯を教えてください。

小嶋:2022年9月の学校運営協議会において、髪型等の学校の決まりが議題となりました。そこで委員の方から「生徒が決まりを作成することに関わるのが望ましい」という意見が出されて。それを踏まえ、当時の生活指導主任が、次年度の校則見直しにあたって、生徒会や中央委員会に意見を聞いたところが始まりです。

その後、副校長と、副校長に誘われた私がカタリバのオンライン研修に参加しました。研修で得た「ルールメイキングとは」についての情報を他の教職員に伝えることで、徐々に校内でもルールメイキングへの関心も強まっていきました。

一方で、私や他の生徒会担当者は、これまでの生徒会業務に加えてルールメイキングが加わることもあり、当初はそれほど積極的ではなかったのも事実でした。

  

ー教員として、気持ちがうまく乗り切っていないという本音があったんですね。

小嶋:もともと、「ブラック校則」という言葉の独り歩きに違和感がありました。極端な例ばかり取り上げて、校則を撤廃することが目的になっているように感じられて。「自分たちの生活を楽にしたい」だけなんじゃないか」、「今、楽にしても将来困るのでは」と危惧する気持ちがあったのかもしれません。
  

ー具体的には、当初の動きはどのようなものだったのでしょうか。

小嶋:2022年に、教員が生徒会メンバーに働きかけて、標準服の規定の見直しに取り組みました。実際に、夏服・冬服の規定の撤廃や、頭髪を結ぶ規定も緩めました。でも、対話的だった自信はありません。私としては、大人と限られた生徒で作った校則について、「みんなはどう思う?」と問いかける違和感が拭えていませんでした。

まだ実践例が少ない中での取り組みに、難しさを感じていましたね。

改定された校則の一部。同校HPより抜粋

 

ー小嶋さんにとって、心境の変化があったのはいつだったのでしょうか?

小嶋:実際のアクションとして大きかったのは、2023年の「着こなしセミナー」です。生徒会メンバーと制服業者が座談会形式で意見交換をしながら、制服の着方について意見を交わすもので、全校生徒・保護者・地域の方も参加するものでした。事前の打ち合わせも生徒会本部と一緒に進められたし、当日も多くの生徒が自分なりの意見を発言してくれました。なにより、ルールの意味や背景について生徒と一緒に考えていけるのが楽しかったんです。

 この着こなしセミナーをきっかけに、私自身がルールメイキングの価値を感じられるようになりました。校則やルールが存在する理由と背景から、生徒が自分で考えていけるんだなと分かって。そして、「ああ、これは普段の授業で伝えていることと同じなんだ」と思ったんです。ただ計算をするんじゃなく、なぜその式を使うのか?全体像を学んでいく必要がある。自分の中でルールメイキングが、日頃の授業とリンクした感覚でした。

着こなしセミナーの様子

 

ーその後、2024年度の動きについても教えてください。

小嶋:2022年度の校則見直し、2023年度の「なぜこのルールはある?」という問いを経て、今年は対話的なルールメイキングを本格的に始めていく年となりました。6月にはカタリバから講師の方を招き、生徒向けに、対話のプロセスを学ぶワークショップを開きました。校則だけにとどまらず、「自分たちにとってより良い学校とは?」という問いを深められる良い機会になったと思います。

着こなしセミナーの時には、教員側も「対話が重要なのは分かるけど、具体的な指導方法が分からない」と感じていた部分があったんです。でも、ワークショップの中で「まず生徒の声を受け止める」「発言の背景を探る」など具体的なポイントを教えてもらって、私だけでは気付けないところが整理された感覚でした。

ワークショップの資料。同校HPより抜粋

 

ールールメイキングの取り組みは、引き続き生徒会本部が中心となって進んでいるのでしょうか。

小嶋:今年は、各学級で班ごとに「生活のきまり」をテーマに対話をしていて、実際にたくさんの意見が「ジャムボード」上に集まっているなど、裾野を広げています。ただ、「もっとどんな生徒でも声を上げられる場所を作りたい」という理想にはまだ遠いと感じていますね。どうしてもまだ、各生活班から出た意見を生徒会本部が集約して、議題を絞ってから中央委員会に上げるという流れになっています。

でも、文字になっていない意見や違和感もあるかもしれないですよね。教員と生徒でざっくばらんに対話する場面があってもいい。「これについて話し合いたい人、集まってねー」と呼びかけて、いろんな生徒に参加してほしいです。

活動の様子。同校HPより抜粋

ー「必要がなければ干渉しない雰囲気がある」というお話も踏まえると、オープンな巻き込みはひとつの挑戦と言えるかもしれません。

小嶋:はい、実際に、生徒会本部以外の生徒を対話に巻き込むのが難しいのが現状です。最初はやっぱり「各クラス何人は参加してください」とか「学級委員が何人ずつ連れてきて」といった方法になってしまうことも多いかもしれません。

 担当教員としては、どこまでやればいいんだろうという悩みのポイントでもありますね。明確なゴールがない取り組みだからこそ、「終わりの見えなさ」「やればやるだけ課題が出てくる」という迷いや困り感は実際にあります。

着こなしセミナー後のアンケート結果(同校提供)

 

ーそれでも活動を楽しみながら続けるコツはどういった点にあるでしょうか。

小嶋:うちの学校の場合は、他の先生がすごく協力的であることに助けられています。生徒から教員へのアンケートを実施する際も、否定的な意見が返ってくることはありません。「最終的には、ルールなんか無くても動けるのが理想だよね」「頑張ろう」と励ましてくれる先生がいるから、ひとりで抱えているわけじゃないんだと思えています。

 自分自身さらに勉強しなければならないですが、今後は校則や学校をさらに超えて、子どもの権利や社会参画といったテーマも扱っていければと思っています。

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