学校という枠組みを超えて働きかける。制服の見直しを県へ請願、採択されたマキさんの活動

2021年6月「性別違和を持つ子どもたちが生きやすい社会をつくる会」が富山県・新田八朗知事に対して、公立学校の制服や校則の見直しに関する要望書と署名を提出しました。提出のきっかけとなったのは、N高等学校に通うマキさん。マキさんは男女別に定められた制服や校則への違和感から、制服がないN高校へ通っています。

制服がない学校で学びながらも、学校という枠組みを超えて、オンライン署名を行うなど、ルールを変えるために動いた経緯を聞きました。

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最初のきっかけは、学校の授業

今回のオンライン署名の活動をすることになった経緯を教えてください。

マキ:N高では、PBL(プロジェクトベースドラーニング)というプロジェクト活動の授業があり、希望すれば何年生でも受けられます。これは、自分が抱いた身の回りの興味や関心、課題をテーマにして、その解決に向けて活動するという授業です。
2年生のとき、ニュースで校則の問題について取り上げられていたことがきっかけで、校則について調べてみようと思ったのがはじまりでした。

学校のカリキュラムが最初の考えるきっかけになったのですね。

マキ:そうなんです。自由に自分で活動できる授業なので、いろんな人にアンケートをとったり、県内の高校へ直接調査したりしました。その中で、自分だけの感情だと思っていたものと同じ意見や感覚を持っている人が多いことに気づき、男女別の制服や校則を見直す必要性を感じて、最終的に署名にすることを目指しました。

では、聞き取りの中の出会いが、本格的な活動のきっかけに?

マキ:そうですね。今回、聞き取りの中でトランスジェンダー当事者の会にもご協力頂いたのですが、そこに参加している中高生の子たちやご両親からもお話を聞くことができました。その中で「学校で葛藤している」という話を聞いて、すごい共感できるというか。自分だけが感じていたわけじゃないんだと知ることが出来たんです。
自分だけが違和を感じているのだったら何もしなかったと思うけど、自分以外に同じことを感じている人がいるという事実にいてもたってもいられなくなりました。

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活動を始めたのはいつ頃からなのでしょうか。

マキ:授業が始まったのは2020年の4月~5月頃で、提出したのは2021年6月30日。ほぼ1年間の活動でした。

オンライン署名を提出したのは「性別違和を持つ子どもたちが生きやすい社会をつくる会」とのことですが、この会はどのように作られたのですか。

マキ:この会は、オンライン署名を出すために名付けたものです。オンライン署名を目的を団体名で明確にすることで、何を目的に活動しているか伝わりやすくするために、こういった団体を作りました。実際は何か活動している団体というわけではありません。コアメンバーとしては3~4人ほどでした。

目的をわかりやすくするために作った会なのですね。ちなみに協力者には、どのような方がいらっしゃいましたか?

マキ:先ほどお話ししたトランスジェンダー当事者の会や、その会を通して県議会の議員さんにも協力して頂きました。

メンター役の先生を活用!

オンライン署名と請願では男女別に定められた制服や校則の見直しを求められていますが、最初からこの方針で進んでいたのでしょうか。

マキ:オンライン署名では最初、校則の公開と制服の自由化の2つを書こうとしていました。でも、多くの中高生にに意見を聞く中で「制服は存在して欲しい」という声も多かったんです。「着たくない人」と「着たい人」の狭間で、どのように調整していくかは悩みましたが、最終的に完全な自由化は諦め、トランスジェンダーの当事者の人たちに話を絞ることに。その後、より効果を確実にしたいと思い、県議員にお願いをして、ほぼ同じ内容で請願も行うことにしました。
こういったやりとりや取り組みを通じて「多様性を実現する」と言葉でいうのは簡単だけど、実際に取り組むのは大変だなと実感しました。

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活動を通して貴重な体験をされたのですね。方向性を転換する中でいろいろ悩まれたと思うのですが、そんなときは誰に相談していましたか?

マキ:プロジェクトには1人、学校の先生がメンターとして就いてくれていたので、先生に相談していました。うまく言葉にできない思いを言語化してもらったり、アンケートを手伝ってくださったり。ほかにもプレゼンテーションの練習も見てもらっていました。

先生とのやりとりで印象的なエピソードはありますか。

マキ:「思うようにやったらいい」という言葉ですね。先生は確か、以前中学校でも働いていたそうで、自分が感じた制服や校則の違和感にも「おかしいよね」って共感してくださったんです。先生の言葉で、活動への自信を持つことができました。

そのほかにも活動の中で、印象的な出来事はありましたか?

マキ:そうですね……3月頃、あるイベントで富山県の高校生が運営する学生団体に自分の活動を知ってもらったことがきっかけとなり、その団体がSNSに署名活動を投稿してくれたことで活動が広がっていきました。そのとき、代表の方から「富山でこういう活動をやってくれる人がいてすごいうれしい」と言ってもらえて。初めて具体的な反応をもらえたので、うれしかったです。
このSNSでの投稿をきっかけに署名が増え、さらにマスコミの方にも気づいてもらえて活動が広がっていきました。

多くのメディアに取り上げられていましたよね。

マキ:はい、いくつか取材もして頂きました。
実は署名を提出したとき、身元を明かしていなかったのですがバイトの人にばれてしまったんですね。そのとき、バイト先の高校生に「私もスラックスが履きたかったんです、ありがとうございます」と言われたことも、忘れられない言葉です。提出後、初めて学生から直接生の声を聞けた経験でした。

学校の枠にとらわれない。オンラインの活用を

オンライン署名はパワフルである一方、気をつける点もあると思いますが、自分もやりたいという学生は、何に気をつけるといいでしょうか?

マキ:ネットは不可逆なので、発信する言葉や情報には1つ1つ責任を持って何度も検討した上で発信してほしいなと思います。特に署名は、コロコロ内容を変えることはできません。本当にこれでいいのかどうかを、いろんな人と協議を重ねて載せるようにした方がいいと思いました。
あと多くの人の共感を得るためには、できるだけ多くの人と話し合いを重ねて、客観的な視点で話すことが大切だと感じました。客観的な文章の中に、いかに自分の感情を組み込めるか……まさに編集力が問われるところだと思うので、人に任せるなど周りに協力してもらった方がいいのではないかと今回思いました。

署名提出&請願採択後、マキさんのお気持ちには、どのような変化がありましたか?

マキ:提出日はたくさんのメディアの方が来てくださって圧倒されましたね。正直、少ししか来ないと思っていて……世の中の関心度が高いことをしたと認識しました。あとは、ただただ疲れたという(笑)。それ以外は、先ほどのお話しをした感情優位ではなく客観的に……と言ったところは署名を通じて考え方が変わったところでもあります。学びになりました。

今後についてはどのように活動されていく予定ですか。

マキ:今後は署名を出したことでどのように変化していくか、なるべく定例議会に行くなど、ウォッチして行きたいですね。

また、現在はみんなのルールメイキングプロジェクトの中高生メンバーとして活動しています。他のメンバーの活動を見ていると、改めて対話を重ねることの大切さを感じますし、その経験が今後社会を生き抜く中で重要な役割を果たしていくと思います。何よりも、「みんなで作る」という作業がとても楽しそうです!他の学校でも、自分たちの学校のルールは自分たちで作るという考え方が広まってほしいですね。

ちなみに、もし授業がなかったら、この取り組みをしていなかったと思いますか?

マキ:どうだろう……やっていたかもしれないです。でも、メンターの先生がいないことを想像すると、途中で躓いていたかもしれませんね。N高のサポートがあったからこそ、ここまで出来たのだと思います。

学校内外に限らず、校則や環境を変えていきたいと思っている学生さんへメッセージをお願いします。

マキ:今インターネットという、自由に意見を言える環境が整っています。学校という枠にとらわれず、オンラインを活用して、うまく周りを巻き込んでいけばいいんじゃないでしょうか。自分もアンケートはTwitterなど、学校とは関係ないツールばかり使っていました。トランスジェンダーの会と連絡を取ったのもSNSです。学校の枠にとらわれずとも、インターネットだけでも成り立ついい時代。どんどんオンラインを利用していったらいいと思います。
また、不満や疑問を伝えるのは「当たり前に守られるべき権利」だと思っています。もし主張して、誰も応じてくれなかったり、一緒に伝える人がいなかったりしても、どこかに寄り添ってくれる人は必ずいます。そういった面でもオンラインをうまく利用して、仲間や寄り添ってくれる人を見つけて、周りを巻き込んでいきましょう。

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