つくば市の小中学生による「幸せな学校づくり」事例発表から学ぶ、官民連携で児童生徒主体の学校をつくるルールメイキング最前線セミナーレポート

2022年12月、文部科学省が発行する生徒指導の手引書「生徒指導提要」が12年ぶりに改定されました。さらに2023年4月には「こども基本法」の施行とともに「こども家庭庁」が創設。すべての子ども達の幸福実現のため、子どもの権利を社会全体で保障する動きが活発化しています。

「みんなのルールメイキング」はつくば市教育委員会と連携し、児童生徒主体の学校づくりを行う「ルールメイキング」に取り組んでいます。、

今回、つくば市とカタリバが、官民連携によるルールメイキングの可能性を考えるオンラインセミナーを開催しました。

セミナーでは、つくば市内の小中学生による事例報告を実施。加えて、筑波大学人間系助教授の古田雄一氏をゲストにお招きし、官民連携によるルールメイキングの実態や児童生徒主体の学校づくりを行うために、いま取り組むべき支援の形について考えるトークセッションを実施しました。

宮本豪氏:つくば市立島名小学校 教論
吉川一輝氏:つくば市立島名小学校 教論
宮内周也氏:つくば市教育局学び推進課 指導主事
古田雄一氏:筑波大学 助教 / こども家庭審議会 / こども・若者参画及び意見反映専門委員会 委員

つくば市が取り組むルールメイキングとは?

はじめに、つくば市教育委員会学び推進課の宮内氏より、これまでの市における教育課題を踏まえて策定された、教育大綱について説明がありました。

つくば市では、「世界のあしたが見えるまち」というビジョンのもと、一人ひとりが幸せな人生を送ることを最上位の目標とした「つくば市教育大綱」を策定。

教育大綱では3つの視点の転換を掲げています。

「教え」から「学び」へ
「管理」から「自己決定」へ
「認知能力偏重」から「非認知能力の再認識」へ

1点目では一斉・一方向教育から個別・双方向の学びへ、2点目では受動から能動へ、3点目では知識偏重の教育から全人教育への転換を目指しています。

つくば市では2021年にICT端末を全ての児童生徒に配付したことに伴い、2022年よりICTのルールづくりを目的にルールメイキングを実施してきました。

初年度は教員・児童生徒向けにワークショップを実施し、「ルールメイキングとはどのようなものなのか」を体験してもらう年となりました。

2023年度のルールメイキングのテーマは「幸せな学校づくり」と定めました。ICTのルールづくりにとどまらず、生徒たちに校則というルールそのものに目を向けて「どうしたら幸せな学校になっていくのか」を主体的に考えてもらう場として活動を位置付けました。

最後に宮内氏は、取り組みを通して視野が広がり、ルールメイキングのコンセプト自体が「子どもたちの意見表明の機会づくり」へと変わってきていると語りました。

対話を積み上げるプロセスを大切にした、小学生・中学生による「幸せな学校づくり」の事例発表

今回は2022年度から約2年間に渡りルールメイキングを実施してきた高山学園つくば市立島名小学校と、光輝学園つくば市立手代木中学校から事例発表が行われました。

島名小学校では、初年度、ルールメイキングに参加できる児童が限られてしまったことに課題意識を持ちました。

そこで今年度は「みんなが幸せになる」をキーワードにICTのルール以外にも焦点を当て、学校内に3つの政党を設立。選挙という形を経て、学校全体でルールメイキングに取り組むことに成功しました。

島名小学校では、①「幸せって何だろう?」という根本の問いから対話を始め、②対話の内容をICTルールづくりに反映させ、③政党という形を用いて、少しでも多くの人が自分の意見・立場を表明しながら参加できる場をつくる、というステップを踏んできたことが特徴です。

同じタイミングでルールメイキングに取り組んできた手代木中学校でも、島名小学校と同じように「ルールメイカー以外の生徒を巻き込んでルールメイキングを行うこと」が課題として上がっていました。

そこで彼らは全校生徒に向けて「学校をより良くするには」というアンケートを実施。「みんなが幸せになる着替えのルール」に関するルールメイキングを実施することを決めました。

手代木中学校の特徴は、正解が一つではないからこそ出てくる色々な意見をルールに反映し、「みんなが幸せに」なれるよう全員が納得する形でルールを改良していった点。そんな彼らは、児童生徒や教員との対話を丁寧に行うために必要なステップを教えてくれました。

対話を大切にする学校づくりの入り口

トークセッションでは、実践校の教員・つくば市教委・専門家と、それぞれ異なる立場の方々が集まり、ルールメイキングのあり方や、実践にあたって大切な考え方について話しました。

ここで交わされた質問をいくつかご紹介します。

  1. それぞれ立場が異なる生徒と教員の意見のすり合わせは、どのように行われたのか?
  2. 教員はどのように児童生徒の活動を支えていたのか?
  3. 生徒と伴奏する際に大切にしていたことは何か?
  4. ルールメイキングの取り組みを通して、生徒や学校の変化を感じることはあるか?
  5. ルールメイキングが機能する環境づくりについて

話されたのは「ルールメイキングには想像以上に時間がかかる」といった感想から、「教員が主役にならないことの難しさ」、「なぜルールメイキングをするのかという根本を意識できていれば、意見が割れていても最終的に折り合いがついてくると実感した」という意見まで様々。

実際に取り組んできたからこそ共有できる具体的な事例とともに、参加者全員がルールメイキングの理解を深めた時間となりました。

ルールメイキングは、幸せな社会をつくるために大切な経験

最後につくば市教育委員会の森田教育長は次のように語りました。

「ルールとは取り締まるためにつくるのではなく、自分も、そして周りのみんなも幸せに学び・生活するために必要なもの。ルールメイクは日常の本当に些細なところにある。対話によるルールメイキングは、幸せな学校を、そして幸せな社会をつくるために大切な経験だと思う。」

自分たちの意見を伝えてみること、そして互いの意見をみんなで考えること。それらを積み重ねた先に自分たちの過ごす環境が変わるのだという実感を得た子どもたちの姿は、多くの参加者を驚かせていました。

認定NPO法人カタリバではルールメイキングを支援する立場から関わっていますが、児童生徒から教育委員会まで、官民連携で取り組むことでルールメイキングの可能性は広がっていくのだということを、改めて感じました。

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